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オンハーツ  作者: 陽光
【01】フィルと呼んでください
8/30

03話 夢の中でアーリアと


「ククッ、すごい噂になってるぞ」


 顔を合わせるなり言われて、僕は何も反応を返せなかった。


「神童、麒麟児、鬼才……自重というものを知らんのか、君は」


 目の前にあぐらをかいて座っているのは僕を転生させた女神、アーリアだ。オンハーツでは神が降りる事も稀にだがあるらしく、正確な容姿が伝わっていたのですぐわかった。


「そんなに噂になってるの?」


「あぁ。刺客が多いのもその影響だろうな」


 やっぱりか。




 始まりは僕が三歳の頃だ。使用人に紛れていた刺客に短剣を向けられ、魔力を暴走させてしまった。僕が初めて人を殺した事件であり、僕のありえない魔力量が露見した事件でもある。


 何せ、あの無駄に広い屋敷がほぼ全壊したのだ。それに慌てて魔力を抑え、屋敷を元に戻したのも悪かった。無意識にした事とはいえ、それだけの力がある事がわかってしまったのだ。



 六歳になると貴族の子女は勉強を始めるようだ。僕も当然例外ではなく、地理、歴史、数学、外国語、礼儀作法、帝王学の授業を始めた。五歳の頃には既に文字の読み書きができるようになっていた僕は、量が多いので未だに全ては読めていないが書庫にある本をすごい勢いで読み漁っていた。読んだ本と前世の知識、アーリアにもらった記憶力により地理、歴史、数学はほぼ完璧。外国語、礼儀作法、帝王学も他の子供より早いスピードで身に付けていった。


 そして七歳の時。リシアから暗殺術、グロウリアルスと父上の従兄弟であるマクレン伯父上から武術を教わり始めた時だ。アーリアからチートをもらっていた僕は、やはり上達が早かった。武術面でも才能を発揮し、どんな武器でも扱えた。


 そして現在、武術以外の先生から「これ以上教える事はない」と言われ、グロウリアルスとマクレン伯父上曰く「武術は一生訓練」らしいので全ての授業が終わったと考えていいだろう。まだ十歳なのに、だ。




「……よく考えたらアーリアがくれたチートのせいじゃない?」


「フン、何を言う。能力は隠してこそだろう」


「隠してたら鍛えられないよ。僕にそんな知識はないんだし」


「……生まれた場所が悪かったのだな」


 それには激しく同意する。地位さえなければ快適な暮らしなのだが。


「まぁ、地位あっての暮らしだがな」


「贅沢な暮らしがいいって言ってるわけじゃないけどね」


 欲を言うなら、下流か中流くらいの貴族に生まれたかった。


「そう都合良くはいかないだろうさ」


「ま、何もかも思い通りじゃあおもしろくないか」


「そういう事だ」



 アーリアは僕が五歳くらいの時に夢で会えるようになった。毎回ではなく、アーリアの気まぐれらしい。でも、寝る前に会いたいって思ったら大抵出てきてくれる。


 夢では触る事ができないらしく、何をするでもなくただ会話するだけなのだが、いつの間にか敬語がとれるくらいには親しくなった。アーリアも何も言わないので一方的に思っているわけではないだろう。


「そういえば、十歳になったのだったな」


「うん。十日ほど前にね」


 僕の誕生日は白の月第二十一日だ。


 オンハーツの暦では月が九つあり、全て四十日。月は順番に白、黄、橙、緑、青、藍、紫、赤、黒になる。新年に当たるのが白の月だ。四季はあるが、前世のように月で区切ったりしないらしい。春は華季、夏は葉季、秋は種季、冬は芽季と呼ばれる。ちなみに、一日は二十四時間だ。


「では、もうそろそろ教会に来る事になるな」


「教会?」


 僕は首を傾げた。生まれてすぐに連れて行かれた事はあるらしいが、記憶が曖昧な時期なので全く覚えていない。


「オンハーツでは十歳になると教会へ行くんだ。守護の有無を見るために」


「へぇ」


 守護というと、神様とか精霊から受けるあれだろうか。


「そう、それだ。当然、君は私からだぞ。守護などより更に強力なやつだな。ククッ、楽しみにしていろ」


 そういえば、前に読んだ本にあった気がする。確か、守護の次が庇護。庇護の次が加護、寵愛となる。それから、世界のほとんどの人が守護ですらもらえないのだとか。


「思い出したか。それを調べるために、近々王都へ行くはずだ」


「王都へ?地方教会ではダメなの?」


「かまわないが、フィリアスは貴族だろう?おまけに次期公爵で王族だ。余程の理由がない限り王都の聖教会で見てもらう事になる」


 そういうものなのか。


「そういうものだ」



 貴族や王族の感覚というものは未だによくわからない。それはたぶん、屋敷からほとんど出た事がないからだと思う。ここには言わば身内しかいないわけだし、守られているのがよくわかる。


 王都へ行くのは良い機会だろう。それに、あと何年かすれば学校に通う事が決まっている。社交界デビューだってしなければならない。適齢期は十歳から十三歳だったはずだ。


 小説などでは貴族の汚い面や後宮での話を読んだ事もあるが、あくまで読んだだけである。実際に見たり聞いたりしたわけではなく、ただの知識に過ぎない。知識のみで全てがわかるなら、僕が魔力を暴走させる事などなかったはずだ。つまり、何事も経験してみなければわからない。わからない事を考えても無駄である。


「君は案外さっぱりしてるよな」


「そう見えない?」


「外見だけなら色々引きずりそうに見えるな」


 まぁ、多少変化しているにせよこの性格は前世でのものだし。


「それはそうか」


「甘いもの好きは外見通りかもね」


「あれは良いな。私はシフォンケーキが好きだ」


「ふわっふわだよね。オンハーツにもあるの?」


「当然。私は供えてもらわないと食べられないからな。地球からパティシエを転生させて広めさせた」


 神様がそんな理由で転生させていいのか。


「かまわん。他の神も喜んでいたし、ついでに食も改善された」


 料理が前世のものに近いと思ったらそんな理由だったのか。先人に感謝しなければならないな。


 アーリアの「私には何もないのか」という声を聞きながら、そういえば神様だったよなぁ、なんて失礼な事を考える僕だった。



07/27 誤字修正

    訂正:十三歳からは学校に→あと何年かすれば学校に

12/17 訂正:世界の三分の二の人が→世界のほとんどの人が

12/25 誤字修正

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