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オンハーツ  作者: 陽光
【01】フィルと呼んでください
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01話 転生しました


 ……とまぁ、無事オンハーツに転生した僕なんだけど、色々と面倒な家に生まれたみたいだ。



 僕の父親の名前はアガット。翼人でリッツィア王国の三大公爵家の一つ、ブーゲンビリア家の当主だ。赤茶色の髪に緑の目、寡黙で男らしい外見。


 母親の名前はマリー。人間で、シクラン王国の元王女。金髪碧眼の美女で、とても三十歳には見えない。少し病弱でもある。



 ブーゲンビリア公爵家というのは建国当初からある名門中の名門。貴族の中の貴族だ。王家からは信頼されているし、身内にはすごい人がたくさんいる。祖父は宰相だし、僕の祖母は元王女だ。つまり、降嫁したというわけである。


 面倒だというのはこの辺りだ。公爵家の嫡男である上に父親と母親、どちらも王家の血を引いている事になる。



 リッツィア王国は翼人の国で、翼人とは羽が生えている寿命の長い種族の事だ。この世界では長命な種族ほど子供が生まれにくい傾向にあるらしく、人間なら五人以上の兄弟が一般的だというのに翼人は大抵一人っ子か二人兄弟である。


 平民はそれでもいいかもしれないが、そうもいかないのが後継者問題だ。王族が一人二人しかいないなど、万が一何かあった時に困る。第一、どちらも王女だった場合はどうするのか。


 そこで、降嫁した王女及び王子の孫の代までなら継承権を認める決まりになった。継承権の順は王子、その従兄弟、再従兄弟である。ただし、これは男児に限るわけで、それでも後継者がいない場合だけ女児にも認められた。もちろん翼人に限り、という話だが。



 一方のシクラン王国は、様々な種族が暮らす非常に珍しい国である。種族が違えば文化も寿命も能力も考え方も違うわけで、そういった理由から普通は一つの種族から成る国なのだ。


 シクラン王国では金髪碧眼の王族のみに継承権が与えられる。それというのも、建国の英雄が金髪碧眼だったらしい。あまり詳しくはないが、母上や乳母が寝る前に語ってくれる物語の中に子ども向けに簡単にした話があった。


 シクラン王国の後継者問題はリッツィア王国以上に深刻だったりする。金髪碧眼が滅多に生まれないのだ。十人に一人くらいの割合である。時代によっては五十人の王子や王女がいても金髪碧眼は一人だけだったりしたらしい。条件が合う王族が生まれない事もある。


 それでも“金髪碧眼”という決まりなのは、そうでなければ王が務まらないからだ。いくら優秀であっても、国民がついて来ない。“英雄と同じ”というのはそれほど重要だった。


 そういうわけで、シクラン王国の王位継承条件は王族である事と金髪碧眼である事の二つ。性別は二の次だ。王族と認められるのは王子や王女の子供の代までで、他国で結婚した王族は含まれない。母上は元王族という扱いになり、継承権はなくなった。



 僕の容姿はというと、母上似のふわふわしたやわらかい金髪に海より深い青の瞳。混血の場合必ずどちらかの種族の特徴を持って生まれるのだが、白い羽のある僕は翼人というくくりになるらしい。


 簡潔にまとめるなら、僕はブーゲンビリア公爵家次期当主である事に加えて二つの国の継承権を持っている、というわけだ。


 そんな立場にいるおかげで、僕の命を狙ってくる輩は絶えない。次期公爵やリッツィア王国の方はまだいいが、シクラン王国からの刺客は数も多いしえげつない。事情を全く把握していない時期に神童として目立ってしまったのもいけなかったのだろう。


 権力に興味のない僕からしてみれば、面倒の一言に尽きる話である。






   ◆◇◆






 女神から僕に送られた名前はフィリアスという。こういった名前を聖名といい、普段使う事はないそうだ。翼人は成人するまで幼名で呼ばれるため、僕の今現在の名前はフィルという事になる。また、成人すれば正式な場以外ではフィラスと名乗る事になるらしい。




「いたいた、フィルー!」


 聞き覚えのある声が聞こえて僕は顔を上げた。というか、この屋敷で僕を呼び捨てにする人なんて数えるほどしかいない。


「またこんなところにいたのか。お前、そのうちカビでも生えるんじゃないか」


「失礼な。ここはちゃんと換気もしてるし、カビが生えるようなヘマはしないよ。でないと本がダメになる」


 こいつの書庫に対する偏見は何とかならないのだろうか。


 僕は持っていた本を閉じると脇に置き、窓から身を乗り出した。


「で、何か用?」


 鮮やかな赤髪に金の目、がっしりとした体型は竜人特有のものだ。現に、髪と同じ色の美しい鱗に覆われた尾がちらちらと見えている。


 カイントレット――通称カインはブーゲンビリア公爵家のお抱え騎士団、黒竜騎士団団長グロウリアルスの一人息子であり、この屋敷の中で最も僕に近い年の幼馴染みとも言うべき青年である。


 ……青年だけど。


 竜人もまた、翼人ほどではないにしても長命な種族だ。外見の成長スピードは人間と同じであるため、現在二十五歳。そろそろ止まる頃合いである。


 しかしながら、竜人の年で換算してみると二、三歳のひよっ子だったりする。竜人の成人は百歳なのでまだまだ子供なのだ。僕は生まれて十年だが、翼人や竜人の感覚で言えば十年二十年の年の差なんて一年二年と変わらないという事なのだろう。



「お前、もうすぐ礼儀作法の授業だろ?行かなくていいのか?」


「礼儀作法?……あ」


 完全に忘れていた。


 貴族であり次期当主な僕は一般教養だけでなく礼儀作法や帝王学も学ばなければならない。直系ではないにせよ一応王族の身としても、おろそかにできない授業だ。面白いから全く苦痛ではないんだけど。


「うわー……忘れてたよ。四時からだっけ?」


「あぁ。あと十分だぞ」


「げっ、十分!」


 僕は慌てて本を片付け、窓から飛び降りた。途中で羽を広げ、大きく羽ばたく。


「ありがとう、カイン!助かった!」


「おー」


 この屋敷はおそらく、城の次ぐらいに広い。歩いていてはまず間違いなく間に合わないだろう。礼儀作法の先生は時間にうるさいので、間違っても遅れるわけにはいかなかった。



 空き部屋のバルコニーに危なげなく着地し、部屋を出ると何でもない顔をして隣の部屋の戸を叩く。


「フィルです。失礼します」


 時間は五分前。ギリギリセーフである。この世界でも五分前行動の文化はあるのだ。一分でも遅かったら危なかった。


「ごきげんよう、フィル様。それでは、授業を始めます――」



03/24 シクラン王国の王位継承について一部修正

01/03 三人くらいしかいない→数えるほどしかいない 訂正

12/26 誤字修正

03/26 脱字修正

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