11話 魔力とか暴走とか
お久しぶり過ぎてごめんなさい。
今月ギリギリでごめんなさい。
説明ばっかりでごめんなさい。
読み返さないと意味がわからないかもしれないごめんなさい。
主に説明のせいで3000字超えましたごめんなさい。
今回の内容はしばらくしたら設定に書き加えます。
主に魔力とか暴走とか。
「さーて、名残惜しいけど、ほんっとうに名残惜しいけど、そろそろ戻らないとまずいかな」
ひとしきり笑った後、ファメルは浮かない顔でそう言った。確かに早起きしたとはいえ、運動した時間やファメルが起きるまでの時間を考えるとそろそろお昼時である。
ん? お昼時……お昼!?
「まずいどころの話じゃないよ……」
思わず頭を抱えそうになる。というか、気分はもう抱えている。
今日、僕とファメルは会う予定だった。もちろん塔の中での話だから、今みたいなのは予想外もいいところだ。元々は昼食を共にするはずで、つまりお昼前にはお互いに準備しておかなければならない。
僕の場合、親族の身分が高いとはいえ爵位を持たない子供だ。万年人手不足な城では服装チェックもかねて時間になったら呼びに来る程度の事しかされないだろう。リッツィア王国の貴族は大体自分の事は自分でできるから問題ない。理由は言わずもがな、である。
でもそれが当てはまるのは僕だからであって、ファメルは違う。暴走の事があるにせよ、冷遇されているわけではないのだから世話役ぐらいついているはずだ。朝起こしてもらって着替えを手伝ってもらって予定を教えてもらって、というアレ。
ちなみに当主以外の貴族のおおよその起床時間は十一時頃である。そして今は太陽の位置からして十二時前。ファメル殿下の脱走(笑)に気付いていてもおかしくない。むしろ気付いてないとおかしい。……心なしか城内が騒がしい気がする。
「あはは。バレて隠し通路を閉じられても困るよねぇ。仕方ない。一度戻るよ」
笑いごとなどではないが、常習犯の臭いがするので何を言っても無駄だと思った。本当は止めるべきなんだろうけど。
「じゃあ、また後で」
窓枠に足をかけたファメルに手を振り返し、安堵の息をつく。あれだけ動けたら大丈夫だろう。ファメルの体の弱さが生来のものなのか暴走のせいなのかは知らないけど、“力”が役に立ったのなら良かったかな。
僕は乱れたベッドを片付け、運動用の身軽な服装から簡易の礼服に着替えつつ思考を巡らせた。
魔力の暴走を語るには、まず魔力についてある程度知っておかなければならない。
オンハーツにおける魔力とは、一言で言うなら“魔法や魔術を使うのに必要な謎エネルギー”だ。ファンタジーにありがちな謎物質である。物質と言っていいのかもイマイチわからない。色んな説はあるが、確実なのは精神に依存する事、そして肉体にも大きく関係する事である。
肉体に関係するという点についてわかりやすく説明するなら、“種族による魔力保有量の違い”だろう。魔力保有量は言い換えると“体内に魔力をためておける量”といったところか。魔力は時間が経つと回復するが、不思議な事に一定量以上魔力が増える事はないらしい。つまりコップの水が減ると少しずつ水が足され、なぜかあふれる前に注がれなくなる。そのコップの大きさが、種族によっておおよそ決まっているのである。
ここで地球的には、僕のような混血について疑問に思うかもしれない。しかし、オンハーツでは議題にも上がらない話だろう。なぜなら“血”が半分でも“種族”は半分に成り得ないからである。例えば僕は翼人と人間のハーフだが、種族で言えば完全に翼人だった。それは単純に羽が生えているからではなくて、魔力も寿命もその他諸々、全部ひっくるめて翼人だからだ。人間の特徴は欠片もない。髪の色にしたって、翼人は色素の薄い方が遺伝しやすいので金髪になるのは当然の話。強いて言うなら僕の子どもが人間になる可能性が出てきたという程度の事なのだ。
魔力保有量が多い順に種族を並べると、翼人=魔人>エルフ=ダークエルフ>竜人>超えられない壁>人間=ドワーフ>狼人=虎人、となる。ただし、魔力が多い事と魔力の扱いが上手い事は必ずしも比例しない。コントロールの上手さも同じく種族によっておおよそ決まってしまうのだが、翼人=魔人>超えられない壁>人間>竜人=ドワーフ>狼人=虎人>エルフ=ダークエルフ、という僕らには何ともショッキングな事実があったりする。魔法、魔術、精霊術の特徴はこれらに関係するんだけど、キリがないからまた今度という事で。
それで、何だったか……そう、魔力が肉体とどう関わるのか。残念ながら具体的にはわかっていないが、種族によって体の作りが異なるのだという仮説が浮かび上がってくる。医療が進んでないから誰もその答えを知らないんだけど。
一方で精神に依存するというのは、主にコントロールの面である。ここで言うコントロールとは、先ほど言ったものとは別の事だ。種族によって左右されやすい魔力のコントロールを専門用語では“魔力操作”と呼び、魔法や魔術を使う際にどれだけ自分の思うようにできるかというものをさす。そしてもう一つのコントロールは“魔力抑制”、つまり魔力を抑える力の事だった。
抑えると言っても押さえつけるわけではない。魔力には波があり、その波を鎮めるというのが一番しっくりくるだろうか。水がコップからあふれる事がないという話をしたが、何事にも例外というものはつきものだ。コップの半分しか入っていなくても水面が大きく揺れたらこぼれてしまうし、沸騰して吹きこぼれる事もある。こういった現象が引き起こされる原因の大半が精神的な揺らぎによるもので、魔力抑制はその例外が起こった時に対処する力、とでも言おうか。
オンハーツの住人は誰もが本能的に魔力抑制を行っている。そうでなければ魔力は暴走し、自分や周囲の身を危険にさらすからだ。逆に、暴走が起きるのは魔力抑制をできないからという事になる。前世の常識が邪魔をした僕のように。
魔力の暴走は長い間不治の病と言われてきた。魔力抑制ができないと、あふれた魔力が自分自身を傷つけるからだ。幼い頃の僕のように魔力を無理に押えようと体が働き、体力を消耗して病にかかりやすくなる。原因が暴走だという事までは知られていなかったから、体力や免疫力が低下する病だと思われていたらしい。魔力の暴走と言えば、一気に爆発して文字通り暴れまわるものだという認識が一般的だったようだ。間違ってはないんだけど。
ファメルやジオラス殿下の問題もあり、僕の例をきっかけに本格的に調査されて多くの事がわかってきた。今は爆発する事を暴走、体力や免疫力が低下する事を漏出と呼ぶらしい。最も、魔力自体に謎が多い以上対処法なんかも手探り状態で、僕に話が回ってきたのも行き詰ったからなのだろう。解決できれば良し、できなくても殿下方の気晴らしになれば、といった感じだ。調査が正しいのであれば、要は気の持ちようなのだから。
なお、こういった情報を僕が知っているのは少なからず協力したからである。子供が少ないせいか、翼人は子供扱いというのをあまりしないようだった。いや、人間だった僕の感覚からちょっとずれているだけなのか。普段は結構甘やかすくせに真剣な話や訓練に関しては容赦がない。翼人の基準で“まだ子供(と言うより赤ん坊)”に分類される十代とか二十代の精神年齢が人間の十代二十代と変わらないかそれ以上な理由はここにあった。
謁見や夜会の時に比べるとよりシンプルで動きやすい略服に袖を通し、髪を整え直して鏡の前に立つ。“見られる立場”にいる以上、外見に気を使うのは義務である。母上の教えだ。
ファメルが帰ってから十五分くらいは経ったと思う。音の鳴ったドアが無遠慮に開かれ、僕は目を瞬いた。
「フィル、悪いが食事会は無しになるかもしれん……どうした?」
「いえ、ついさっきかわいらしい兎が逃げたところだったので」
オンハーツにも普通の動物はいるのだが、過酷な環境下にある浮遊大陸にはほとんど生息していない。思わず笑みを漏らす僕にお祖父様は怪訝な顔をするばかりである。ちらりと視線を投げかけた窓の外では風の精霊たちが一斉に笑ったようだった。




