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オンハーツ  作者: 陽光
【02】王都は同胞の名前です
26/30

08話 無駄に広い城は面倒ですね

日間ランキング1位&週間ランキング5位!

見た瞬間アゴが外れるかと思いました。

お気に入り登録3800超えとか総合評価9600超えとか夢のようです。

この三日であり得ないほど増えましたよ。

皆さんありがとうございます!!


 御披露目が終わり、部屋に戻った僕はお風呂だけ入って泥のように眠った。


 いやー、やっぱり慣れない事をするとストレスがたまるね。夢も見なかったし、起きたら昼だったんだからよっぽど疲れたんだろう。あんまり自覚はないんだけど。


 とりあえず、今日一日は休むように言われている。城にいる僕の知り合いは皆仕事で、子供が邪魔しに行くわけにもいかないからかなり暇だった。


 今思えば僕って友達いないよね。カインだけだよ。子供自体が少ないのもあるけど、やっぱり身分が大きいのかな。平民の子とあんまり気軽に遊べないし。


 土地柄というか、父上やお祖父様は身分とか全く気にしない人だ。でも、母上は生粋のお姫様だからあまり良い顔はしない。そういう風に育てられたんだろう。使用人と仲良く話すだけでも十分変わり者である。


 ジオラス殿下とファメル殿下は御学友(仮)として、他に友達になれそうな人は……エリシア様の息子さんくらいだろうか。リッツィア王国の公爵と侯爵では大分差があるから、友達は難しいかもしれない。うちが気にしなくてもあんまり歓迎される事じゃないしなぁ。


 ま、それは置いておくとして。目下の問題はどうやって暇を潰すかだ。……昨日も同じ事で悩んだ気がする。


 仕掛けを調べてもいいけど、別に今すぐどうにかしたいってわけでもない。なら、探検でもしてみようか、そうしよう。


 誰もいない部屋で一人頷き(何か変な人みたいだ)、僕はドアを開けた。






   ◆◇◆






 思うに、城っていうものはどうしてこう広いのだろうか。いや、城に限ったことではなく、金持ちの家は大体そうだ。使わない部屋とか庭とか、全くの無駄である。


 ……なんて、心の中で愚痴っているのは、そう、御察しの通り迷子のようです。


「大体どこも似たような造りなのが間違ってるんだよね。柱は全部同じだし、壁も床も同じ模様。等間隔で置かれている花瓶まで一緒じゃない」


「まぁ、敵を迷わせるためですからね。わかりやすかったら意味ないですよ」


「そりゃそうだ。……って、え?」


 思わぬ返事に、僕は目を瞬いた。迷子になってあせっていたのか、周りが見えていなかったようだ。いかんいかん。


 そこにいたのは十五、六歳くらいに見える少年(?)だ。薄い水色の髪にオレンジの目で整った顔立ちをしており、雰囲気がちょっと刺々しい。というか、無愛想?幼さは残るものの男らしい容姿で、かなり羨ましい。尤も、見かけ通りの年齢かはかなりあやしいものだが。


「えーっと、どちらさまですか?」


「失礼。研究室魔法部のバレンス・ロードと申します」


 研究室というのは王家お抱えの研究者達が所属する場所だ。そこの魔法部であれば、優秀な魔法師なのだろう。エリート中のエリートである。ついでに言うなら、もう成人しているはずだ。名前も幼名ではなかったし。


「そうですか。僕はフィル・ブーゲンビリアです」


「あぁ、公爵家の!」


 小さく目を見張ったバレンスがすぐに頭を下げようとしたので、僕は手を振って止めた。


「いいですよ、そのままで。人目があるわけではありませんし」


「はぁ……噂には聞き及んでいましたが変わった方ですね」


「そうですか?」


 あまり自覚はないが、転生者だしそうなのかもしれない。まぁ、変わり者かどうかは別として規格外だという自覚はある。


「そうですよ。初対面の人を相手に人目がないから礼はいらない、なんて事、普通は言いませんから」


 なるほど。王家の人達だって誰もいなければいらないと言うかもしれないが(というか言いそうだが)、知らない人相手に、という事はまずない。それだけでなく、彼は自分が平民である事も暗に言っているのだろう。ミドルネームがないのは平民である証拠だ。


「確かに、他の貴族の方々は言わないでしょうね。お祖父様は気にしないと思いますが」


 あれ、今考えると僕ってお祖父様似なんだろうか。父上や母上ならこんな事は絶対しないし。いやでも、前世の人格が引き継がれている時点で誰似とか言えるのかな。外見ならともかく。


「それはそうと、バレンスは今仕事ですか?」


「いえ、休憩中ですが。同僚に追い出されましてね」


 もしかして研究バカとかそんなタイプか。ずっと研究してるから見かねた友人が休んで来いと言ったとか。


「それなら……そうですね。書庫まで案内してもらっていいですか?」


 バレてるとは思うが、迷ったとは言わない。


「えぇ、かまいませんよ」


 バレンスは快く頷いてくれた。






「……どうかしましたか」


 僕は耐えきれずに聞いた。さっきから何か言いたげな視線が気になって仕方がない。バレンスは目をさ迷わせた後、ためらうように口を開く。


「フィーリッツ地方は魔物が多いと聞きますが」


「はい、そうですね」


「貴方はウォンフットウルフを見た事が……あ、いえ」


 言ってから僕の年を思い出したのだろう。ウォンフットウルフは一匹一匹では弱いが、群れを作るとかなり厄介な魔物である。普通に考えると僕のような子供が見るはずがない。だが、あいにく普通でないのがうちだった。


「ありますよ」


「は?」


「ウォンフットウルフですよね。見た事ありますけど」


 というか、修行と称して狩りに言った。カインとグロウと三人だけで。


「ほ、本当ですか!?」


「えぇ。この辺りでは見ないでしょうが、フィーリッツ地方では珍しくないですよ」


「聞いた事はあります。本当だったんですね!どうでした?かっこよかったですか?」


「え、かっこいい?」


「固すぎず柔らかすぎない丈夫な漆黒の毛皮、獲物を貫く立派な牙、人一人乗せられる大きな体躯!あぁ素晴らしい!金の鋭い瞳もシャープな顔立ちも魅力的だ……何よりリーダーを中心としたその統率力は類を見ないほど優れている。捕らえたところで我々には決して屈しない気高き精神といい、かっこいい魔物ランキングトップ10に入るだろう!」


 かっこいい魔物ランキングって。そのランキングは自分で作ったのだろうか。


「フィーリッツ地方と言えば魔物の聖地!シュードラゴンにラマイ、アンフィー、セコイン……一度行ってみたかったんだよ。うらやましい!」


「もしかして、バレンスは魔物の研究を?」


「趣味でな。魔物部を希望したというのに魔法部など……まぁ今はいい。それより、魔物ほど強く美しくかっこよくかわいらしく素晴らしい生き物はいないだろう!ぜひとも話を聞かせてくれ!」


 もっと冷たい感じの人かと思ったのだが、何と言うかマニアっぽい。研究者って皆こうなのだろうか。


「さぁ、第三書庫へ行こう!図鑑を見ながら解説してほしい!」


 好きな事に夢中になりすぎて我を失っているらしいバレンスに腕をぐいぐい引かれる。誰かに見られたらまずいんじゃないだろうか、と冷静に考える辺り、僕も相当混乱しているようだった。



02/12 一部修正

12/27 誤字修正

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