04話 いよいよ謁見です
遅くなって申し訳ありません。
お気に入り440と総合評価1300超えには驚きました。
いつの間に……!
皆さんありがとうございます!
「寵愛……」
お祖父様の顔がひきつった。この人がこんな顔を見せるなんて珍しすぎる。
宰相という立場上、ポーカーフェイスは完璧であるはずのお祖父様。僕の前では表情豊かだがそれは家族だからで、飄々とした雰囲気のあるお祖父様が感情をむき出しにする事はない。あったとしても大半は演技だ。
「父上と母上には話そうと思います」
僕の声に、お祖父様は我に返って頷いた。
「そうだな。ただ、念のため手紙はやめておけ。帰った時に直接言うべきだろう」
「はい」
他にも数人の顔が浮かぶが、いずれもここにはいないので後回しだ。問題なのは。
「国王陛下……どうしよう」
普通に考えると言わなければならないのだろうが、事が事である。
「個人的には信用できるのだがなぁ……」
お祖父様は言葉を濁した。そういえば、お祖父様と陛下は幼馴染みだったはず。
臣下として、幼馴染みとしては言うべきだし信用に足る存在なのだろう。だが、相手は国王だ。国の大事であれば僕の力を利用するだろうし、王としてそうしなければならない。
「まぁ、フィルが実際に会って決めるといい」
ポンポンと頭を叩き、お祖父様は部屋を出ていった。
◆◇◆
聖教会へ行った翌日、僕は大勢の侍女に囲まれて着せ替え人形よろしく着飾られている。家では(貴族にしては)シンプルな服ばかりだったので肩が重い。
黒を基調にした服は僕の金髪を際立たせており、宝石類は目に合わせて青が多い。お祖父様によるとこれでも地味な方らしい。我が家はどちらかというと騎士の家系(翼人には子供ができにくいため領を持つ我が家で騎士団に入る人は少ないが)なので動きやすさ重視でも許されるようだ。
なぜ朝からこんな格好をしているのかというと、陛下へ謁見するためだった。曰く、早く殿下方に会ってほしいとか。陛下への挨拶もなしに城へ出入りするわけにもいかないから、昨日の今日でこうなったわけだ。
コンコン、と小さくノック音がしてお祖父様が入ってきた。
「フィル、準備はできたか?」
「はい。丁度終わったところです」
鏡の中の自分を横目に、僕は頷いた。少女らしい僕の顔を男の子っぽく見せられる侍女達は改めて優秀だと思う。ぽく見える程度でも、僕にとっては非常に喜ばしい。
城へは竜車で行く。徒歩など常識はずれで、公式に面会するのだから正門から入らなければならない。正門が開くのは竜車や馬車に対してか非常時だけだ。
「ところでお祖父様。ジオラス殿下とファメル殿下の事なのですが……」
竜車に乗り、戸を閉めてから口を開く。一応防音結界も張っておいた。
「暴走の原因はどのくらいわかっているのですか?」
僕の場合は異常なまでの魔力の多さ――と思われているが、実際は前世の固定観念による弊害である。魔力が暴走する原因は一つではないはずだ。
「ファメル殿下は魔力が少し多めなのと、暴走に関係なく体が弱い事。ジオラス殿下については……おそらく感情の乱れだろう」
魔力の暴走は精神面に強く影響される。コントロールが不得意であっても精神さえ強ければ暴走する事はない。逆に言えば得意でもその時の精神状態によって暴走するかもしれないのだ。だから魔法師と呼ばれる人達は一番初めに精神面を鍛える。魔力の多い人が暴走なんて洒落にならないから。
精神の強さとは、負の感情に揺さぶられない事を言う。わかりやすく言い換えると、ポジティブな人ほど暴走しにくいというわけだ。そして翼人は穏やかな気性を持つ種族。ポジティブとは少し違うが、寛容なので悲しみはともかく怒りや憎しみといった感情とは縁が薄かった。
つまり、ジオラス殿下は負の感情を抱くような状況に置かれているという事。本人がネガティブなのか周囲の環境が悪いのかは知らないが……。
考えているうちに城へ着き、竜車から下りて謁見の間へと向かった。
◆◇◆
王に謁見する場合、一度は控え室に通されるものである。そうして一休みしている間に王が謁見の間へ移動する。準備ができたら謁見、というわけだ。
……普通なら。
僕は控え室へ行く事なく、すぐに謁見の間へ通された。
これは僕らが来る前から準備していたという事だろうか。僕らを軽視しているという考え方もあるが、お祖父様の評価からしてまずないだろう。
見上げたお祖父様は呆れたように苦笑していて、やはり前者だと思う。そんなに殿下方が心配なのだろうか。だとしたら良い父親(祖父)だと言える。御二人は次の次の王候補でもあるし、王としても放置できない問題だ。
「ログルス・ディン・ブーゲンビリア様並びにフィル・ブーゲンビリア様がお見えです」
扉の前にいた兵が小さいドアの中へ入り、報告したのが微かに聞こえる。公式の場である謁見の間には(盗聴防止の魔法はともかく)防音魔法などかけていないので、聞こうと思えば聞こえるのだ。聞かれてまずいような話をする場所ではないし。
「どうぞお入りください」
兵が開けた大きな扉から、僕は足を一歩踏み出す。魔法の照明が美しく、手の込んだ細工の絨毯や壁はまさしく国の顔だった。
数段上がった場所で玉座に腰かけるのはお祖父様の幼馴染みであり、主である国王陛下。
ルンダート・ディン・ディナン・リッツィアである。
僕は段の数歩前で立ち止まり、膝をついて頭を下げた。
11/11 修正




