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オンハーツ  作者: 陽光
【01】フィルと呼んでください
15/30

緑芽1 うちの子は天才(1)

おかしい所があったので投稿し直しました。

変更点は最後の数行のみです。



番外編その3。ログルス視点。


長くなったので次回に続きます。


「そういえば、孫が生まれたらしいな」


 ルンダートの突然の言葉に、思わず目を瞬いた。何を今更、である。孫が生まれたのは三年前の話だ。


「生まれたが、それがどうかしたのか?」


「いや、このところ仕事ばかりで、一度も見に帰ってないんじゃないかと思ってな」


 言われてから、記憶を探ってみる。


「そういや、帰ってないな」


 そう返すと、長いため息をつかれた。


「お前今すぐ帰れ。今が一番かわいい時期だろ?孫の顔も見ないでどうする」


「だが、城を開けるわけにもいかんだろう。まだ仕事が……」


「あー、もう!お前は変なところで真面目だな。里帰りする時間ぐらいどうにかなるさ。もちろん、帰って来たらこき使ってやるが」


 孫が気にならないわけではない。マリー様から手紙で様子は聞いているし、息子は思い出したように時々伝えてくる。事務的な手紙しか書かない息子が、だ。初孫でもあるし、会ってみたいと思うのは当然だろう。


 しかし、ここ数十年城はバタバタしている。ジオラス殿下とファメル殿下の容態が良くないのだ。原因はわかっておらず、前例はあるものの対処法が伝わっていない。聞く話ではどの患者も亡くなっていた。


 宰相という地位についている私は、城をまとめる立場だ。指示を出すのは王だが、動くのは宰相である。今私が抜けるわけにはいかない。たとえ孫の体が弱いらしいと聞いても、だ。


「大丈夫だと言っただろうが。今のところ問題なのは体力や免疫力の低下だ。すぐどうこうなるわけでもなし、気をつけていれば心配はいらない。それより、お前の孫の事だ」


 ルンダートは声真剣な顔つきでを落とした。


「フィル、といったか?ジオラスやファメルと同じなんだろう?」


「さぁな。見たわけではないから何とも」


 確かに似てはいるが、断定できない。マリー様が病弱だから遺伝とも考えられる。


「それだ。もし同じなら大変な事だし、行ってやるべきだろう。対処法が見つかるようならこちらとしても万々歳だ」


「……わかった」


 ジオラス殿下やファメル殿下は付いている者も多く、問題はないだろう。フィルの方が心配すべきかもしれない。




 こうして、私は数年ぶりに帰郷したのだった。






   ◆◇◆






 フィーリッツ地方は国の最東端であるため、王道との距離は遠い。屋敷のあるオルディラが最東端の町でないのは不幸中の幸いかもしれないが、面倒な事に変わりはなかった。


「お久しぶりですね」


 息子であるアガットはそれだけしか言わなかったが、目が事前に連絡ぐらいよこせ、と言っていた。竜車は使わず飛んで来たために忘れていたのだ。さすがに非常識だったかもしれない。


「突然で悪かったな」


 苦笑しながら言う。現公爵であるアガットは暇ではない。ましてや、魔物の多いフィーリッツ地方を任されているのだから仕事量は倍以上だ。私も身をもって知っている。


 アガットは小さくため息を吐き、いいえ、と言った。


「まぁ、お休みなのでしょう?ゆっくりしていってください」


 何だかんだで優しい息子に、心の中で笑ったのだった。




「やはり同じだな……」


 ベッドの中で眠る孫を見ながら呟いた。


 母親似の金髪はやわらかく、ゆるいウェーブがかかっている。金と言うよりは黄色に近い。彼の寝顔は愛らしく、いくら子供だと言っても男の子には見えなかった。外見はマリー様そっくりだ。息子に似ている場所と言えば耳や爪の形くらいだろうか。


 アーリア神にフィリアスと名付けられ、今はフィルと呼ばれている孫は時折うなされているようだった。悪夢を見ている風でもなく、かといって体に異状があるわけでもない。


 そう、困った事に病気ではないのだ。体力がなくなるせいで熱を出す事はあるが、原因が全くわからない。病気にはかからないし咳やくしゃみ等もしない、ただ熱が出るだけなので病弱とも少し違う。


「同じ?」


 アガットが怪訝そうに言った。マリー様は体調を崩してベッドの中だ。


「ジオラス殿下やファメル殿下と、な」


 こいつになら言ってもいいだろうし聞く権利もあると思い、私の知っている事を話した。治らないかもしれない、という事も。





「そうですか……」


 話を聞いたアガットが呟く。


「父上、サーシャが言っていたのですが、フィルの魔力がおかしい、と」


 サーシャは侍女長だが、魔法の腕も一流だ。特に魔力を感じる能力において右に出る者はいないだろう。


「具体的には?」


「量が多いそうです。他とは比べ物にならないほど。それから、魔力の流れが乱れているとか」


 魔力が乱れる、とは私には全く理解できない感覚だ。元々ブーゲンビリア家には魔法に長けた者が少ない。唯一もう一人の息子が得意だったが、婿養子に出て国内にはいなかった。


「ん……」


 小さく声がして、フィルが目をさました。海のように深い青が私を映す。


「ちちうえと……」


「ログルス・ディン・ブーゲンビリア。お前の祖父だ」


 三歳児がどのくらい理解しているのかはわからないが、フィルはふにゃりと笑った。


「おじいさま?」


 笑顔と口調がかわいらしく、思わず笑みを浮かべる。頭に手を当て、撫で回した。


「お前はかしこいな。立派な男になれよ」


 絶対に治してやるから。そんな決意を込めて言うと、フィルははい、と答えた。



緑芽リョクガ=第一章が始まる前。


12/17 誤字修正

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