黒種2 神々のお気に入り
番外編その2。
数話番外編を書いたら本編に行こうと思ってます。
本編の方が上手くできなくて書いては消し、書いては消し、としているため息抜き&時間稼ぎ的な。
アーリア視点です。
幸薄そうな少年。第一印象はそんな感じだった。
「……おや、なかなかおもしろそうな少年ですのぉ」
泉に映った彼を見ながらマリクスが言った。
「そうか?」
私は見もせずに答える。
私達はオンハーツの管理者。気に入った者を助けてやる事もあるが、基本的には世界が滅びないように目を光らせ、修正するのが仕事だ。しかし、ただ地上を見るだけというのも疲れる。こうやって違う世界を観察するのは、娯楽の少ない天上での遊びのようなものだった。
「賢そうな目をしておる。病弱だというのが実に惜しいですわい」
白い髭をなでつけ、興味深そうにのぞき込む。
「賢そう、ねぇ」
知恵の神であるマリクスが言うならそうなのだろう。だが、賢い人間は山ほどいる。
「あら、きれいな人間ですね」
ユアナの声に、私は顔を上げた。美の女神であるユアナは、茶色という地味な色の髪や目をしているのに私達の中で最も美しい。
「きれい?」
少年の容姿は良くも悪くもない。いたって平凡だ。
「あぁ、顔ではありませんよ?魂が、です。あんなにきれいな魂は久しぶりに見ました」
「それだけでなく、強いようだ」
低い男の声が響く。武の神、ガウレリオンだ。褐色の肌に真っ黒な髪、鍛え抜かれた戦士の体つきをしている。目の下からあごにかけてある傷が印象的だ。
「病弱なのだろう?また魂の話か?」
「そうだ。彼は精神的に強い。アーリア、オレはあの人間が気に入ったぞ」
ガウレリオンがニヤリと笑う。
「何をおっしゃるのですか。気に入ったのはあなただけではありませんよ」
「そうですとも」
ユアナとマリクスが口々に言った。
「そういえば、オンハーツの“節目”はもうそろそろだったな」
私がポツリと漏らすと、三神が一斉にこちらを見る。あまりの勢いに、少し気押されてしまった。
「連れて来るのですか?」
「病弱だというのは好都合ですのぉ」
「長くないだろう、というわけか。いいんじゃないか?なぁ?」
口々に言う。私はあごに手を当てて考えた。
遠山空、か――。
◆◇◆
時代の節目とは、何らかの大きな事件が起きる時である。それは戦争であったり革命であったり天災であったりと様々だが、近々節目が来る、と運命神レミレスが見た。
節目には三種類ある。
一つはオンハーツのものが原因で起こるもの。二つ目は転生させた魂が原因で起こるもの。そして最後は直接的な原因はオンハーツのものであるが、転生させた魂が関わる事によって起こるもの。
今回の節目は、三つ目であるとレミレスが判断した。そこで生と死を司る私の出番というわけだ。
私の力の中には転生させる能力も含まれる。というか、その能力以外が使われる事は滅多にない。強力すぎるのだ。
私達神々は気に入った人間に力を与えるが、私はあまり力を与えなかった。“生”の力である治癒はともかく、“死”の力は危険すぎる。“生”にしたって、蘇生ができるほど与えるわけにはいかない。
私は私の力を、ほんの一部しか与えた事がなかった。それはマリクスが寵愛した子供が異端だと殺されたのを見たからだし、ユアナが寵愛した娘がその美貌で国を滅ぼしたのを見たからでもある。何より、私の力によって私達の世界を滅ぼされる事を恐れたのだ。
しかし、私は初めて力を与えてもいいと思える魂に出会った。それは全くの偶然だったが、マリクス達が騒いでいた人間だと思い出したのは天上へ帰ってからだ。
半分くらいは勘だがなんとなく、あいつなら使い方を間違えないだろう、間違えたとしても反省する事ができるだろう、と思った。
「あいつの守護は私がする」
私の宣言に、皆が一斉に抗議した。
「先に見つけたのはわしですぞ」
「興味なさそうだったじゃねぇか。どういう風の吹き回しなんだ?」
「横取りは良くないですよ」
特に不快そうな顔をするのはマリクス、ガウレリオン、ユアナだ。まぁ、気持ちもわからなくはない。
「気に入ったというのもあるが、あいつを転生させる場所が問題なんだ」
あいつにはランダムにすると言った。それは嘘ではないが、転生した魂は高確率で節目の中心、もしくは中心近くに生まれる。レミレスによると今回の節目はリッツィア王国、しかもフィーリッツ地方らしい。
フィーリッツ地方といえば、オンハーツで最も危険な二大地域である。もう一つは魔人の土地である辺り、魔人や翼人でないと長期間住む事は難しいのだろう。
「フィーリッツ地方なら力は重要なはずだろ」
「知恵もそうですとも。時として力よりも有効な身を守るすべになりますぞ」
美貌はそれほど必要でないからか、ユアナは黙って引き下がった。
「当然だ。知恵も美貌も力も魔力も、あいつが望んだ健康的な体も全てつける。その隠れ蓑として私がいるのさ。無論、私の力が役に立つだろう、というのもあるが」
教会で調べられる守護には落とし穴があったりする。あれは複数の守護を受けていても、最も格の高い精霊や神しかわからないのだ。つまり、私が守護していればいくら守護をつけていても気付かれない。
「よほど気に入ったのですねぇ」
レミレスが驚いたように言う。
「まぁな。あいつなら大丈夫だろう」
「そういう事なら仕方ないですわい」
「地上が混乱しそうだけどな」
マリクスとガウレリオンは苦笑しながら下がった。魔法を司るネクサ、万病を司るフエイも同様だ。ユアナは反対に、少し輝いているように見える。
「それぐらいが丁度良いかもしれませんがねぇ。今回の節目は色々ありそうですしー。未来がハッキリしないって事はあの子が割と深く関わっているはずですよぉ」
レミレスの言葉が決定打となり、少なくとも六つの守護がつく事になった。そしてその事実をあいつが知るのはまだ先の話である。
●マリクス●
知恵の神。白い髭のおじいさん。
○ユアナ○
美の女神。茶色の髪と目をしているがその美貌は天上一。
●ガウレリオン●
武の神。体術から剣術、槍術、弓術、馬術等々、武道が得意。
○レミレス○
運命神。未来が見える。が、転生者……というより異世界人が関わると見えにくい。
●ネクサ●
魔法の神。魔術とは別。魔力も管轄内である。
●フエイ●
万病の神。フエイが守護すると病気にかかりにくくなる。
わかりにくいかもしれませんが◆◇◆の前はアーリアがフィルと会う前、後は会った後のお話です。
転生チートの裏側。
フィルほどではありませんが、他の転生者もこんな感じでチートになります。
きっとこの後、他の神や精霊からも守護をもらうんだよ。
一般的には教会へ行く十歳までに守護が(つく人は)つきますが、フィルは生まれた時からなので神童に。
前世の記憶だけでなく多すぎる守護のせいだったんですねー。
自分達が原因だとは決して言わないアーリア(笑)(→03話参照)
守護→庇護→加護→寵愛と強くなります。
もちろんフィルが守護なわけがありません。
神様は自重を知らない(笑)
11/11 修正




