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オンハーツ  作者: 陽光
【01】フィルと呼んでください
13/30

黒種1 とある少年の話

番外編その1。


「お兄ちゃんあそぼー」


 小さな頭がひょこっと飛び出した。薄いピンクの水玉模様をしたパジャマに、かわいらしい兎のスリッパ。少し前に仲良くなった子供だった。


 少年は読んでいた本にしおりをはさみ、笑みを浮かべる。肌は病的なまでに白く、体の線が細い。平凡ながらも柔和な顔立ちは、どこか儚げにも見える。


「ゆきちゃん、今日は調子がいいの?」


「うん。元気だよー。お兄ちゃんはだいじょうぶ?」


「外には行けないけど、体を起こすくらいなら平気だよ」


 互いの体調を尋ねるのは、最早あいさつのようなものだ。といっても、ここは病院なのだから体調が悪くない者などいない。「今お話ししても大丈夫ですか」と言っているのだ。


「ねぇお兄ちゃん、えほんよんで」


「いいよ。何にする?」


 少年が聞くと、ゆきは棚に向かい合って悩み始めた。少年は生来病弱で生まれてからほとんどを病院で過ごしているため、既に私室化していたりする。本や絵本が大量に置かれているのはそのためだ。


 ふと視線を感じて顔を向ける。そこには、ドアにベッタリと張り付いた子供の姿があった。見覚えはないが、ゆきと同じく入院中なのだろう。水色のパジャマを着ている。


「おいで」


 手招きすると、子供は少し迷ってから姿を消した。


「あれ、行っちゃった」


 まぁ、来たかったらまた来るだろう、とあまり気にしない事にする。


「お兄ちゃん、これー」


 本を選び終わったゆきが戻って来て、少年は絵本を受け取った。






   ◆◇◆






 コンコン、とノックの音が聞こえ、返事をするより前にドアが開かれた。入ってきたのは三十歳くらいの男だ。


「おー、そら君、ハーレムじゃないか」


「あいさつもなしにそれですか。それに、僕はロリコンじゃないのでそういう言い方はやめてください」


 呆れたように言う少年、もとい空。


「事実を言ったまでだろーが。ちっこくてもレディだぜ?」


「だからってハーレムはないでしょう、辰貴たつきさん。それに男の子もいますよ」


 自分の上で眠ってしまった子供達をなでながら言う。先程いなくなってしまった子供は友達を呼びに行っていたらしく、今は四人だ。


「男ォ?どいつだよ?」


「この子です」


 空が指したのは黄色にオレンジの星のパジャマを着た子供である。横髪をレース付きの黄色いリボンで結んでおり、寝ている事もあってとても男の子には見えない。


「ないない。女だろ」


 間違えるのも無理はないのだが、違うのだと空は苦笑する。


「男の子ですよ。僕も小さい頃はよく間違われたのでわかります。大方、かわいいからと遊ばれたんでしょう」


 身に覚えがある。スカートを着せられた経験もあるので、その顔は苦りきっていた。未だにその頃の写真が知り合いの間で出回っているのは考えたくもない事だ。


「お前にそんな特技があったなんてなぁ」


「普段使えるようなものではないですけどね。ところで辰貴さん、何かご用ですか?」


「いや、暇だから来ただけだ。しかし、お前のところにはいっつも誰かしらいるよな」


「そうですか?」


 空は首を傾げる。


「おうよ。それだけ好かれてるって事だろうさ」


 辰貴の言葉に少しこそばゆくなり、空はありがとうございます、とだけつぶやく。


「礼を言われるような事じゃねぇだろ。ま、受け取っておくけどよ」


 くつくつと笑いながら言われたが、からかわれているわけではないらしいのでますます気恥ずかしくなる。空は誤魔化すように口を開いた。


「そ、そういえば、もうそろそろ桜の季節ですね」


「くくっ、そうだな。この窓からはよく見えるだろ」


 随分無理矢理だったが、辰貴は話にのってくれた。


「はい。毎年きれいなんですよ。……そうだ。今年は皆さんで花見をしませんか?外は無理でも、ここからなら楽しめるでしょうし」


「いいんじゃないか?ガキ共もじいさん達も喜ぶぜ」


 娯楽の少ない病院なので、動ける人は皆集まるだろう。桜の下で弁当を広げる事はできないが、花を眺めながら世間話くらいなら問題ない。


 空は薄桃色の蕾を見ながら、楽しみですね、と笑った。






   ◆◇◆






 辰貴や子供達が帰ってしばらくすると、空の部屋に客が訪れた。


「久しぶりー」


 そう言って満面に笑みを浮かべるのは、幼馴染みでありお隣さんの奈都なつだ。


「うん、久しぶり。おじさん達は元気?」


「元気元気。元気すぎて毎日喧嘩してるよ」


 奈都の両親はいわゆるケンカップルというものらしく、喧嘩してはすぐに仲直りする。初めて見た時は慌てたものだが、何度も見ているうちにまたか、と思うようになった。


「今日はねー、リンゴ持って来たんだよ。好きだったよね?」


「好きだけど……奈都が剥いてくれるの?」


 奈都はかなり不器用である。家庭科の授業で布を血まみれにしたという話を聞いているので、かなり不安だった。


「むっ、何その顔。皮むきぐらいできるんだからね。家庭科のテストでやったばかりだし」


「それなら任せるよ」


 正直空は包丁を触った事すらないので、どんなに下手でも奈都がやるしかない。


「むぅー、ぎゃふんと言わせてやるんだからっ!」


 奈都は包丁を握る。その持ち方がかなり危なっかしい。


「ちょっと奈都、持ち方それで合ってるんだよね?指切らないでよ?」


「うるさいな。今集中してるんだから話さないでよ」


「リンゴの皮むきってそんなに集中しないとできないものなの!?」


 空がハラハラと見守っていると、ドアがノックもなしに開いた。


「兄貴、見舞いに――って奈都!?」


 入ってきた少年はギョッとして包丁を取り上げる。体操服を着ているところを見ると、部活があったのだろう。


「お前何つー持ち方してんだよ!皮は削ぐもんじゃねぇ、剥くもんだ!」


「だってさー、怖いじゃん。指とか」


「こっちの方が危ねぇっつうの!」


 弟の剣幕を見てやっぱり間違ってたのか、と奈都を見る空。


「兄貴も止めろよな!」


「えー、やり方知らなかったし。まぁ、ごめんね?」


 空が一応あやまると、ぶつぶつ言いながらきれいに切ってくれた。その包丁さばきは奈都の比ではない。


りくって器用だったんだね」


「少なくとも奈都よりはな」


「うっ」


 奈都と同級生で幼馴染みで腐れ縁な陸は、全く容赦がない。気を許している証拠でもあるのだが、あまりに不憫で奈都の頭を優しい手つきで叩いた。


「空ぁー」


「まぁ、おばさんに見てもらって家で練習しておいで」


「はーい」


 弟の視線に苦笑しつつ、剥き終わったリンゴを三人で食べた。



空=フィルの前世です。

大体中二ぐらい。奈都と陸は中一。

陸は間違いなくツンデレです。

そして結構嫉妬深い。


黒種コクシュ=前世の話。




こういう話が読みたい、とかあったらリクエストしてください。

今のところ考えているのは


1:主人公死亡後。家族や友人のその後。

2:神様達の会話。アーリアが主人公と会う前や会ってから。

3:魔力暴走事件。フィル三歳、他者視点(アガットか偶然居合わせたログルス辺り)。

4:カインとの出会い話。フィル三歳、カイン十八歳。魔力暴走事件より後。

5:フィルの天才ぶりを発揮。フィル六歳、他者視点(フレドやサーシャ辺り)。

6:マクレンとの訓練。なかなかのスパルタ。ルルグ山脈で魔物と戦闘&サバイバル。フィルは九歳前の八歳くらい。

7:グロウ&黒竜騎士団との訓練。シーナやヴァンツ伯爵家の次男も登場。一章の半年ほど前。主人公強し。まだ九歳。


……という感じです。

まだ書けてないのでボチボチですが。


07/27 誤字修正

04/08 誤字修正

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