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オンハーツ  作者: 陽光
【01】フィルと呼んでください
11/30

06話 お祖父様が来ました


 リッツィア王国には数日に一度、“雨の日”と呼ばれる日がある。大陸が雲より上にある時限定だが、とても重要な日だ。簡単に言えば、魔法で雨を降らせる日なのである。


 ただの飲み水や生活用水だけならその都度魔法で出せば良い。しかし雨がなければ植物は育たず、食料がなくなってしまう。翼人はどちらかというと草食だ。肉も魚や鳥のようなあっさりしたものを好む。


 その雨の日は、領地ごとに日をずらして訪れる。そうでなければ災害になりかねないからだ。また、育てている野菜などによっても何日ごとに降らせるか変わってくる。つまり、運が悪ければ移動中毎日雨になるわけで――。




「あー、やっと一息つける」


 父上と同じ赤茶色の髪に緑の目をした翼人がソファに沈む。目の色は父上より少し明るいかもしれない。


「お疲れ様です。お祖父様、ですよね」


 僕はどう見ても精々三十代にしか見えない青年に言った。


「ん?おぉ、フィルか。大きくなったな。またかわいらしくなって、生まれてきた性別を間違えたんじゃないか」


「……気にしてるんですよ」


 軽くにらむようにして見ると、お祖父様はからからと笑った。冗談なのはわかっていたので、ちょっと拗ねるだけにしておく。子供が少ない翼人にとって、男の子が生まれるのは喜ばしい事なのだ。お祖父様も喜んでくれたらしいし。


 僕の祖父、ログルスはリッツィア王国の宰相だ。父上に公爵の位を譲った後、王様に望まれてなったのだとか。だから王都で暮らしており、この屋敷に帰ってくる事はマクレン伯父上以上に少ない。前に会ったのは六歳くらいの時のはずだ。


「今日は父上にご用事ですか?来られる事は聞いておりませんでしたが」


「何だ、知らなかったのか?相変わらずだな、あいつは」


 呆れたように言う。


 父上は決して僕を蔑ろにしているだとか、そういう事はない。優先順位がダントツで母上なだけ。ぶっちゃけてしまえば母上以外はどうでもいい……とまではいかないにしても似たようなものだ。母上一筋である。


「久々に長い休暇がとれたから少し様子を見に来たのだよ。丁度良かったからな」


「丁度良かった?」


「その話はまた後で、だ。アガットとも話さなければならん」


 よくわからないが、とりあえず頷いておく。


「ま、悪い話ではないからな。むしろいい方だろう」


「いい話、ですか?」


「何度も説明するのは面倒なんだ。アガットはフレドが呼びに行ってるのだろう?」


「はい」


 僕はまた頷いた。ほぼ同時にドアがノックされる。


「失礼します、父上」


 入ってきたのは父上だった。敬語を使う父上なんて滅多に見ないので、すごく違和感がある。まぁ、父上より身分が高い人はごく僅かだし、会う機会なんてなかったんだから当然と言えば当然だけど。


「来たか、アガット」


 お祖父様はニヤリと笑った。心なしか、父上の頬がひきつったような気がする。


「お前、マリー様とは上手くいってるのか?」


「まぁ、普通です」


「ラブラブなんだな。相変わらずの溺愛ぶりか。その調子だと三人くらいできるかもしれんな。フィルも早かった事だし」


 今の返事はそういう意味だったの!?父上は息子の前で恥ずかしいセリフを言う男なんだけど。……いや、あれは無意識か。じゃあもしかして照れているのか?非常にわかりにくいが。


 お祖父様はやっぱり父上の父上なんだなぁ。父上の考えている事がわかる人なんて、お祖父様と母上とグロウぐらいしかいないだろう。マクレン伯父上でも難しいらしいし。



「それで、本題は何でしょう」


 父上はお祖父様の向かい、僕の隣に座って侍女を下がらせてから尋ねた。僕が聞いていいのかはわからなかったが、出ていくタイミングを逃したので紅茶を飲みながら耳を傾ける。ダメなら追い出されるだろう。


「何だ、忙しいのか?」


 お祖父様は少し真面目な顔になって言った。到着したばかりなのにゆっくりもしないからだろう。世間話をする父上など想像もつかないが、近況報告くらいはするだろうし。


「はい。ここ数年、魔物が活性化しています。少しずつですが」


「そうか」


 補佐できる人がいないのは本当に痛い。フレドならできない事もないかもしれないが、彼は使用人である。


「話だが、フィルを王都に連れていこうと思ってな」


「あぁ、教会へ行くのですね」


 前にアーリアが言っていたアレか。なんとなく嫌な予感がするんだけど、行かないわけにはいかないよな……。


「それもある。あと、丁度良い機会だから陛下にあいさつして、パーティーに参加させようと思うんだ」


「そうですね……一度にした方が面倒も少ないか」


 うわぁ、王様にあいさつ!そうか、僕一応王族だった。社交界デビューの時に王族にあいさつするのは暗黙の了解だけど、色々噂されそうだ。


「で、それとは別にフィル、お前に頼みがあるんだが」


「頼みですか?」


 僕は首を傾げた。


「ジオラス殿下とファメル殿下にお会いしてほしいんだ」


 ジオラス殿下はリッツィア王国第二王子であり第三王位継承者、ファメル殿下はリッツィア王国第三王子であり第二王位継承者だ。なぜ二人の継承権が逆なのかというと、兄弟ではなく叔父甥の関係だからである。つまり、第一王子の息子がファメル殿下で弟がジオラス殿下。継承権は直系が優先されるから、ファメル殿下の方が高いのだ。ややこしい事だが。


「お二方は体があまり丈夫でないとお聞きしましたが」


 僕が会っても良いのだろうか。


「あぁ、そう言われているが、実際には少し違うのだよ」


 違う?


「もしかして、僕と同じですか?」


「そうだ」


 僕も小さい頃はよく寝込んでいた。前世とはまた違う理由だ。


 それは、魔力の暴走である。


 魔力を上手くコントロールできないと起こるのが魔力の暴走だ。特に小さい子供や魔力が多い者がなりやすく、僕は常に暴走しているような状態だった。それで体力を奪われ、ほとんどベッドの上で過ごしたのである。


 ジオラス殿下とファメル殿下は僕より年上だ。でも、桁違いに魔力が多いのなら年齢など関係ない。要はコツを掴めるか否かである。僕の場合、三歳の時のひどい暴走で無意識に制御した。たぶん、アーリアが制御する能力も付けてくれてたけど前世の記憶が邪魔していた、とかそんな感じだろう。


「でも、どうして僕なんですか?」


「お前なら万が一があっても身を守れるし、被害を抑える事もできるだろう?報告は上がってるぞ」


 まぁ、魔力が暴走した場合止められるのは僕ぐらいのものだろうけど。


「それにな、お二方は同じ年頃の子供にお会いになった事がないんだ。危険だからな」


「学友になれるのはフィルだけ、というわけですか」


 父上が言った。


「そうなる。お互いにお会いになられる事もできないしな」


 二人は絶対に会えないように隔離でもされているのだろう。同時に暴走でもしたら厄介どころではない。さぞ退屈だろうと思う。


「わかりました。お引き受けします」


 僕はお祖父様の目を見てしっかり頷いた。



7/27 誤字修正

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