037 転属
予告通りに夕方頃迎えが来た。
慣れた部屋には支給品と書類関連しかなく、持っていく私物もなかったので身一つでそのまま付いて行く。
この城に上がってから大名に会う以外はこの部屋と厨房や屋根裏ぐらいしか行った事が無いので、目的地へは素直に後を付いて行くしかない。
無駄に角の多い廊下を進んで結構歩いた後に目的の部屋に付いた。
夕暮れで暗くなった部屋には油火で若干の光量を補っていた。
奥を見ると机で三人程が集まり話をしていたようだがこちらに気づいて声を掛けてきた。
「ようこそ、歓迎しますよ」
「はい」
とりあえず答えてみたものの、外交とか良くわからないのでなんとも。
なんで自分が呼ばれたのやら未だにさっぱり分からない。
「ちょうどいい、あなたの意見も聞きたい所です」
こちらに来て下さいと呼ばれたのだが、その前に。
「その前に自己紹介をお願いします。お名前も伺っていなかったので」
実際名前なんて面倒なので覚えたくも無いのだが、役職も分からないと仕事に支障が出る。
名前覚えるの苦手なんだが・・・。
「そう言えば自己紹介もしていなかったのですね。私はアチガワと申します。外交をナガマツ様より任されています」
「内交調整のカツラだ」
「外交調整補佐のサトガワです」
「ヨシカです」
立派な役職だなと思った反面、そう言えば自分の役職って何だったのかと今さらながらに。
内政担当のような環境大臣のような?厳密に命名されていなかった気がする。
なんとも大雑把で適当なのだが、役職が無かったのなら大分やりすぎた気がするな。
うむ。
「早速で申し訳ないのですが、こちらへ」
促されたので三人のいる机まで移動する。
三人が見ていたのは地図の用だが現代での地図のように詳細ではないようだ。
「今この関所付近で問題が発生しておりまして」
アチガワが司会進行として話を始める。
「端的に言うと関所付近の村での軋轢です」
「軋轢ですか?」
言葉に不自由をしているわけではないので意味は解る・・・と思うのだが、
背景が解らない。
「関所といっても国境がはっきりと解るのは要所の街道沿いだけです。歩いて行ける程度の距離を領土としての敷居をまたいで向かい合っていると色々と揉め事が起きるわけです」
そんな理由はありそうなものだが、実際に言葉違ったりするわけでもないのに外交担当が出張る話でもなさそうなのだが?
「まあ本来もめごと程度で我々が口を出す程でもないのですが、今回はそうも言っていられなくなりました」
「それは?」
「端的に言うと移住を希望されているのです」
住む場所を変えたいというわけか・・・、だが問題になるほどでもないような気もするが。
「今でも生まれた土地を離れることは良くあるように思いますが?」
一生土地にしがみ付いて生きるという事は無かったと思うのだが何が問題だ。
「かいつまんで言うと、関所の外から内側への移住を希望されているのです」
「問題だと?」
とても、とだけ言った時に眉間にしわがよったようだ。
相当頭を痛めているようだが。
「問題点としては移住による税と人的資材がこちら側に渡るという事です」
「税を納める人足が減るので困ると言うわけですか」
「我々にすると増えるわけですが、面白くないのは隣の国主ですね」
隣の芝は青く見えるという感じだが、
「そもそも移住しようと思う状況を作っているのは国主だから、因果応報かと思いますが」
「正論ですが、それだけで済む話でもないので」
「では受け入れなければいいだけの話でしょう」
面倒事は放置するに限る。
「気の毒ですが」
どうするかはその本人の話なので好きにすればいい、だが国の方針としては確かに問題なんだろう。
「そう出来れば一番楽なんですがね」
厄介ごとならやらなければいいだけなのだが、問題点が自分には理解できない。
「要点が理解できないのですが」
率直に聞いてみた。
「要点は、
1.隣接する領土からの移住者がいるが、それを受け入れると大名同士の諍いになる。
2.単純に移住の希望を拒否できない。
となりますね」
「2の拒否できない理由は?」
政治的判断での損得なら諍いの要因を作らないのがいいが、わざわざ何故作るのか。
「この所の領土事情になります」
と言われても判らないので話を促す。
「話が少し戻りますが、移住が何故希望されるかわかりますか?」
「こちらで暮らした方が良い暮らしになるから?」
欲というと言いすぎだが、利点があるから移住したいのだろう。
「飢えなくなるからですね」
飢え、食糧事情かと思ったが隣接する領土でそれほど何が異なるのか。
「貴方の行いが理由と言えば理由ですね」