031 存在
昼食の支度といっても作れるものは限られている。
作れる料理の種類よりも、作る為の材料や台所の器材などの問題もある。
あとはやる気だろうか。
外食産業が盛んになるのは食事の費用よりも手間暇が惜しまれるからだ。
懐具合がそこそこ温まった昨今は作って片付けるのが面倒で面倒で手を抜いていた。
とまあ言い訳になるのだがそこまで自炊に精通しているわけでもないので大したものが出来ないのは事実だろう。
後は調味料の関係も大きく影響しているのだが。
まあお腹が膨れるのであれば、大雑把なものでもいい。
塩の炒め物だけでもそこそこ美味しいだろうしなあ。
朝よりは品目を増やした昼食を提供してオロチの元をまた離れる。
オロチは何かと話をしようとしてきたが事務的に会話を切り上げて離れる。
折角の休暇を無駄に使いたく無いのだから仕方が無い。
やはり一人でボーとするか本を読むのが至福の時だろう。
ついでに昼寝もできると尚良い。
とはいえ、持ってきている本も何度も読み返したものだったので途中で読むのを止めた。
その代わりに動物性たんぱく質を補充しに森へ入る事にした。
森で狩りをするのも大分久しぶりなのだが勘は鈍っていなかったようだ。
兎を何羽か仕留めて社へ戻る。
出来れば猪鍋でも食べたかったが貴重なお肉なので良いだろう。
作っておいた味噌汁の具に足すのと、薄切りの肉の焼きものにを作る。
少し多めに作ったのでオロチの食事にも追加する事に。
夜食として持っていくと小屋の中は結構な明るさだった。
油を使った照明が効いているのか、焦げる匂いが少しする。
部屋に入るとオロチはいびきをかいていたので、揺さぶって起こしてご飯にした。
「肉が手に入ったので少し豪勢になりました」
「おおっ、肉は久しぶりだな!!」
神なのに・・・食生活が貧相なのか?
「肉ぐらい何時でも食べれるでしょう?」
「んー、そうでもない」
ご飯を食べながらそう回答が来た。
「神ってのは異層住んでるからここでは、食事が出来ない」
「・・・今も食べてるじゃないですか?」
「説明が難しいんだが、この世界の食べ物を食べものとして食せないんだよ。神が食事を食事として食べるには何かによって奉納されたもの、つまり捧げられたものしか無理なんだ」
「つまり自分で何かを用意して食べる事が出来ないが他人に用意させたら食べれると?」
「まあそうゆう事だな。だから俺なんかは人の世に関与して奉納してもらう訳だ」
「でもそれだと、奉納の無い日はご飯が食べれないんじゃないか?」
神が餓死するというのも聞かない話だが、まったく食べれない年もあるんじゃなかろうか。
「まあ食は娯楽だからな、食べれなくても問題ないし。神によっては祈られる事が食時のように娯楽になっているやつもいる。そういうやつは自分に祈りをささげる人間をどんどん増やすように働きかけたりするわけだ」
娯楽だと言われればそうなのかもしれない。
「あなたの場合は豊作を約束して、対価として食時を手配してもらうと?」
「ま、そうゆう事だな」
「随分と割の合わない事をしているんだな」
神は万能ではないとしても、豊作を約束できるだけの力があるのに。労力に対しての報酬が合っていない気がするのだが。
「別にそうでもないけどな、俺の場合はここに居るだけで天候が緩やかになり災害が減るんだ。だから食っちゃ寝しているだけでいいわけだ」
「ひきこもりなわけか」
「まあそんな感じだがな、だが娯楽が食事だけではなくてね。初日にも言ったかもしれないけど、人間の時間を貰って話し相手になってもらってる」
一カ月は結構長いものだが、面白いものなのだろうか。
「それでも肉が久しぶりなのはなんでだ?頼めば肉ぐらい幾らでも用意してくれそうなものだがけど」
「そこは色々あるからとしか言えないんだけどな、用意できる人間が少ないんだよ」
意味が分からないが、そんなものだろうとしておいた。
迷惑な仕事ではあったがオロチについても少しだけ興味が出た。
「神様の事情だという事でそれはいいのだが、正直神ってのはなんなのか」
こちらに来るまで神などは祈るだけの存在だった。人間が作り出した願望投影をするだけの存在が神だという認識だったろう。
欧州などでは違うだろうが日本では、自分の回りにあるモノに対する感謝を送る相手として神がいる。
礼節や奥ゆかしい日本人といった言葉でてきそうな話だ。
それでもあくまで抽象的な存在で実像はない。
「なにかというのは分からないな、我々もそこに在ったというだけでどこから来たのか自分たちがどういったどういった存在なのかというのは答えが出ていないから。
我々よりも上位の神がいてそれが我々を作り出しているとか、べつの次元から来たとかいろいろと説はあるが居るものは居るとしか言いようが無い」
それはそうだが、いろいろと面倒事に関与するんではなかろうか。