025 催事
呼びつけられて大名の所までやって来た。
正直未だこの老人には慣れない。
何を考えているのか解らない人間は苦手だ。
まあ基本的に他人が何を考えているか全く解らないので、人間そのものが苦手だというオチなのだが。
さておき、珍しく嫌らしい笑みも浮かべず渋い顔をしているようだ。
それはそれで気持ち悪く、悪い予感を覚えさせるにの十分な印象だろう。
大名は考え事に気をとられていたのか、ようやくこちらに気づいたようだ。
「来たか、・・・・」
発言に貯めを入れてくれるなと思う。
重苦しい雰囲気だけは感じ取れるのだが、
「お前がワシの元に来て二年になるな」
回想シーンでも入りそうなセリフだ。
「最近は暇そうだと聞いた」
・・・誰だそんな事を言う奴は。
ちらっと後ろに控えるコジュウロウを見る。
反応は無いが、言いそうなのはこの人ぐらいだろう。
「いえ、大変忙しくてそろそろ過労で倒れそうです」
げほげほと咳も加えておく。
「屋根の上で菓子を食べているぐらいだ、まだまだ余裕じゃろう」
「それは激務の合間を縫って作った貴重な休憩の時間を目撃されたのです。いつもは机に齧り付いて離れることができません」
大名はコジュウロウに視線を送る。
「忙しいのは確かですが、休憩は度々取っているかと」
ちっ、余計な事を・・・。
「仕事はやっている筈ですが、成果がお気に召さないようなら早く代わりの者をお願いします」
二年も経つのに役職を返上出来ない。
基本的な方針を打ち出して、徐々に石高も上がってきている。
何事でもそうだが成熟するには時間がかかる。
それでも流民や浮浪者は減り、畑の面積は順調に拡大して流通は動いている。
暮らしが徐々に、徐々に豊かになっている筈だ。
それが良いか悪いかは判断が難しいのだが。
何がそこでなのか、理解できない。
なんにしても、早くこの状況からは抜けだしたい所なのだがなかなか難しい。
最初の一年で指針を打ち立てたのだがお役御免にはならなずそのままずるずるである。
実際問題、民の生活は豊かになり始めたが国ととしては石高が目に見えて増えないので、やり方に対する不満は各所から出ているような。
引き継いでも悪化しそうな気もする。
「お主のやっている事に不満は無い、満足しておるよ。わしらとは物も見方が違うからな、成果についてもわしには出来なかった事をしている。それはそれとしてだ、お主にやってもらいたい事が出来た」
それはそれとしないで欲しいのだが、面倒事の予感。
むしろ働くのがだるい・・・。
「三葉山へ行ってもらう」
「山登りですか、弁当が要りますね」
「食糧は居るだろうがな、山登りではない。遠呂智の所へ行ってもらう」
オロチ?誰だそれは??
初耳の名前だ、山に住むご隠居か何かか。
大名よりも、年老いているならかなりの老人だろうな。
だが興味はあるな、隠居のコツが特に。
まだ隠居と決まっても居ないのに勝手に思考が進んでしまった。
大名は渋い顔をしているのでオロチさんが苦手なのだろう。
「贄として一月逗留してくるんじゃ」
ん・・・?ニエ?
「にえというと、生贄のにえですか?一月逗留というのは?」
「贄というのは言葉の絢だが、一種の催事だ。本来は神事を司る宮司や巫女から選ばれるだが、今年はお主が名指しで指名されたのじゃ。こんなことは初めてなのだが、心当たりはあるのか?」
「心当たりと言われましても始めてお聞きした名前ですし、知り合いなど多くありません」
うむ、少ないね少ないね。だが別に困りもしないという。
「しかし仕事はいいのですか?後任は一向に用意して貰えて居ないのですが」
「コジュウロウから聞いておるわ、お主が居らぬ間ぐらいは問題ないとな」
ヨケイナコトヲ、
「持病があるので、辞退させて頂く訳には?」
「決定事項だからな、明日には出てもらう」
急だろそれは!!しかも良くわからない仕事を押し付けるとか酷い。
催事と言うくらいだからイベントの一種だろうが、神道系も仏教系も詳しくないし礼儀作法とかわからないのだが。
今の日本で神社とお寺の違いは何って言われたら答えられない人が多い様に自分もそのあたりの宗教感覚は希薄だ。宗教が関係無いにしても何かの催しモノに参加する機会は滅多にない。
学校の文化祭や体育祭位だろうか、しかも運営じゃく参加する方だし。
コミケなどは毎年ニュースやBBSで見る機会はあるが参加するには東京は遠い。
そこまでの熱意が無い自分は半端なんだろうなと思う。
片道だけで何万円と交通費もろもろを掛けて参加するほど裕福でもないしなあと、金銭が絡むと自制が効き過ぎてしまうし。
一度は行ってみたかったな、コミケ。
うむ・・・ゆくゆくはこの世界でもああいった娯楽が普及するといいのだが。




