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その腹黒さも一面である  作者: 縁側之猫
0章 始まり
2/61

001 プロローグ

目が覚めた室内は自分の知らない所だった。

布団に寝かされていた様で、起きようとしたら激痛が走った。

打ち所が悪かったのか、力を入れると酷く痛む。

痛みが耐えがたかったのでそのまま寝ておく事にした。


どこだここは?


改めて視線を走らせた室内は病院という感じではなかった。

照明も無く床板に敷かれた布団で寝ているのだ。

病院に担ぎ込まれたのなら最低でもベットに寝かされているはずなのだが

洋式の雰囲気は無く古い日本家屋を思わせる佇まいだ。

なにがどうなっているのかと考えている所に人が入ってきた。


「気が付いたのかい?」


そう声を掛けたのは老女であった。

老女というと失礼になるのかもしれない、白髪を束ねた髪はほつれもなく上品な顔立ちをしている。

祖母にこういった人がいれば、お婆さまと丁寧に呼んでしまいそうだ。


再度身を起こそうとしたがやはり身体が痛む。

苦痛に歪んだこちらの顔を見て、老女はまだ寝ていなさいと言ってくれた。


「ご迷惑をお掛けしましたが、ここは・・・どの病院になりますか?」


「病院?いえここは私のお家ですよ」


「貴方のご自宅ですか?何故私はここに居るんでしょうか?」


病院には運ばれなかったと?意識不明で倒れている人間を自宅に運ぶという可能性が有るものなのか。


「あなたは小川の近くで倒れていたそうよ、あの人が狩の途中で見つけて運んできたの。覚えて居ないの?」


逆に問いかけられたが・・・小川の近くとは何処のことだろう。倒れたのは駅の階段のはずだが


「いえ・・・最後に意識を失ったのは駅の階段のはずですが」


再度意識が途絶える前の事を思い出してみたが確かに階段から転げ落ちた筈だ。


「駅の階段?ですか、この辺りには階段のある建物は無いはずですが」


「とにかく怪我が良くなるまでちゃんと養生しなくてはいけないわ」


そう言って布団を掛けてくれた。


言われる通り確かにこうも身体が痛むと起き上がるのも辛い。


「ご迷惑をおかけします・・・」


「気にしないで、こんな山奥に住んでいるとねお客様なんて滅多に来ないですし。それに・・・若い人が居てくると息子がいた頃を思い出して嬉しいのよ」


それから暫く話をして、少し疲れたので休ませてもらった。


少し出てくると言って部屋を老女が部屋を出るのを確認してから、一息ついた。

話した感じや表情などから人柄は良さそうと印象を受けたが状況が状況なので警戒心は消えない。

寝たまま話した内容を検討した。

彼女の名前はヨネさん、旦那さんと二人で暮らしているらしい。

人里から離れて森の中に暮らしているらしく、一人息子も何年も前に家を出たのだそうだ。

老後を田舎で暮らすというのは聞かない話ではないが、

人里からも離れてさらに山奥に住んでいるというのは違和感を覚える。

それにこの部屋、日本家屋にこだわっているのかと思ったが証明はおろか日用品からも現代文化を思わせるものがないのだ。

まるで文明開化以前の生活を再現しているようなそんな趣だ。

窓にもガラスを使っておらず木板を棒で支えて開けてあるのが見える。

外界との接触を経って原始的生活をしているんじゃないかと思える。

何にしても、訳ありなのかもしれない。

それよりなにより、何故自分がここにいるのかが一番の問題だが。


駅付近で気を失っていたのなら人の通りも多いのだから病院に運ばれるのが普通だろう。

それが山奥に転がっていたというのは、誰かが運んだとしか考えられない。

その誰かがヨネ達夫婦なのかもしれないし別の誰かなのかもしれない。

判断材料がない。

しかし、駅のホームで偶然気を失っていた人間を目撃者を残して連れ去るなんて事があるんだろうか?

もしくは病院で横になっているのを連れ去る?

どちらも難しいと思う。

日本の警察は優秀なので目撃者が一人でもあればそこから追われる可能性があるだろう。

そして自分を攫ったとして何が得になるのか、

貧乏学生と言って差し支えない自分をさらう理由は・・・あまりないな。

怨恨の線も・・・人付き合いの少ない自分に攫ってまでというのは考えにくい。


いくつか思考してみるが現実的な答えが出ない。

動けない身では観察ぐらいしか出来ないが、疲れた・・・・。


考えすぎての疲労なのか、いつの間に眠っていたようだ。

起きた時には部屋暗く隣の部屋の光源が扉と壁の隙間から少し漏れてきていた。


何時間経ったのか。

腕時計を見ようとして腕を上げて気がついた。

最初に起きた時にあった痛みが今は無い事に。

軽い打ち身だったのだろうかと起き上がったが、全身に痛みは無い。


布団から出て明りの漏れる扉の方へ言ってみる。

扉を開けるといい匂いがした。


「あら起きて大丈夫なの?」


ヨネさんは部屋の中央に作られた庵で鍋の面倒を見ながら声を掛けてきた。


「痛みも引いたので大丈夫だと思います」


居間といった風情のこの部屋を見てもやはり文明の匂いを排除してるようだ。


「もうご飯が出来るからそこに座って、お腹も空いているでしょう?」


そういって鍋の周りに一つを指した。


鍋の横にはもう一人老人が座っていた。

話に聞いていたヨネの旦那に当たるタツミだろう。


促された通り座ったあとタツミに話しかける。


「タツミ・・さんですよね、助けて頂いてありがとう御座います」


「ああ、気にしなさんな。あそこであのまま倒れられて居ても獣に人肉の味を覚えられて困っただろうしな。しかし・・・なんだってあんな所で倒れてたんだ。見た所狩人が迷い込んだってわけでもなさそうだし」


問われた疑問の声には演技のような所は無いが、何所まで本当なんだろうか。


「それが自分でも解らないのですが、覚えているのは街中で階段を下りている時に派手に転びましてそこで気を失った筈なんです」


「それがあの小川の近くにいたってのか・・・、神隠しにでも会ったのかね。不思議な事があるもんだ」


くううとそこで腹の音が鳴った。

確か朝食しか食べていなかったので相当空腹だったのだろうか・・・、羞恥から顔が赤くなるのが自分でも解る。


「はっはっはっ!!一日中寝てたんだ腹も減るわな、兎に角飯だ飯」


「はいはい」


ヨネさんが鍋をよそって渡してくれる。

いいにおいだ・・・。

とりあえず食べる事にした。


「・・・とても美味しいです」


野菜と何かの肉を煮たそれは薄味だったが胃に染みた。

お椀に入れられた分を食べて、少し空腹も落ちついたようだ。


「傷も大丈夫なようだな、さすが鬼の血を引いてるだけのことはあるな」


「鬼の血?」


「違うのか?その赤い目は、鬼の血を引いてる名残だと思ったんだが?」


「鬼だなんて・・・迷信じゃないですか、からかわないで下さいよ」


そう言うと老夫婦は一度顔を見合わせて眉をひそめたが、可笑しな事なんて言ってないはずだ。


「鬼が迷信なんてお前さんこそ何言ってんだい。こんな世の中だからご先祖様を恨んでるのかもしれないがそれでも迷信なんて言うのはあんまりってもんだぜ」


「ご先祖も何も、居もしないんですから」


そう返答すると更に困った顔をされた。


「その赤い目もその耳も血を受け継いだ証拠なんですから、そんな悲しい事を言わないで下さいな」


「赤い・・・目?」


悲しそうにヨネに言われて、からかっている雰囲気ではなさそうだが。

じっと見られている、疲れすぎ血走っているという表現ではないだろう。


「鏡は・・・ありますか?」


そう尋ねるとヨネが奥のタンスから何かを取ってきた。

何かの金属を磨いたそれは少し鈍いが自分の姿をちゃんと写し取ってくれた。


そこにいつもの見慣れた自分の顔が在った。

ただし、言われた通り目は赤くそして耳が長くとがっていた。

良く見ると八重歯は少し長くなっていたが、それはちょっと嬉しかった。

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