015 スプーン
ひたすら集中出来ると成果は違うものだなと思った。
具体的には住民用の住宅系が充実しすぎて空き屋が多いことに。
余裕がありすぎるのも問題だが、そろそろ事務仕事が貯まっているので住民受け入れの手回しを兼ねて外遊してこようかな。
具体的にツバキに捕まる前に。
と思っていたのだが逃げ出す前に捕まった。
これでも影が薄いから隠密行動には向いていると自負していたのだが、ツバキの捕獲能力が向上していたようだ。
・・・・・・影薄いよね?
人口が増加し始めてだいぶたつ昨今。
具体的にどのぐらい人口が増えたのかというと、正直よく知らない。
資料関係など詳しいものは最近目を通して居なかったので、建築物の多さと道で出会う人間の数でちょっと増えてきてるなというぐらいしか把握してないのだ。
まとめ役がなんたる体たらくと言われるかもしれないが、正直面倒なのでそろそろこの立場も譲りたいものだ。
実際ギルドマスターと村長と学院長を歴任している上に肉体労働も率先してやっているので色々と疎かになってるかもだな。
それでも回っているだから、人口も大したこと無いだろうと。
そう思っていたのだが実際には既に500人規模を越えていたらしい。
住民の登録帳も分厚くなって冊数が増えていた。
会ってない人間が多いだろうな。
ただし、運送業やら畑仕事など村から外にでている時間の方が多い人間が居るため平均滞在人口はやはり感覚的にも少ないようだ。
街路の整備などは延びるほど最終端で野宿や近隣の村にお世話になるケースが多いようだ。
サッ、サッ、サッ・・・・
室内には筆を走らせる音しかしない。
つまりは、事務仕事している自分しか居ないという事だ。
こんな退屈な事の為に村を大きくしているのではないのだが、逃げられないのだから仕方がない。
自分が慌ただしく動く事が無くなったのはいいのだが自由気ままに動けないのは不便なものだ。
なにもしてない訳じゃないのに退屈を感じるのは贅沢なところなのか。
そんな日々を過ごしているのだが周りの事業は順調に進んでいるようだ。
一番大きいのは街道の整備が進む毎に流通が活発化していく点と村から離れてた街道沿いに農耕地や民家が建ち始めた事だろうか。
集団生活では助け合いを含めて便利な点もあるのだが街道が整備されて人の行き来が頻繁担ったことで途中の未開拓の土地にも人が入るようになったようだ。
実際は建てたギルドが職業安定所のようになって流民を送り込んでいるということもあるが、本来村長が処理するような書類仕事もギルドで処理する用になったことで村人になるという一番難しい部分を飛ばせる部分が大きいのか。
既にある集団の中に新しい人が入るのはなかなか難しい。村社会と言われるように異分子には拒否反応があるのと、流民になる人間は集団社会からあぶれた危険因子という認識もあるからだろう。
実際問題身元がわからないというのは殺人者が紛れる可能性もあるのだから間違いではないのだが。
ザクッ、ザクッ、・・・・
ということで地下通路をスプーンで掘り進める。
「コレハ・・・イザトイウトキノダッシュツロダヨ」
自分に言い聞かせるようについつい呟く言葉が片言なのは・・・疲れているからだろうか。
書類仕事が飽きたとか、正面切ってツバキから逃げるのが怖いとかそんな事は決して無い筈、はずだ・・・。
「よし今日はここまでだな」
1メートルほど掘り進んだ穴から這い出る。
「ヨシカ、馬鹿やってないで今日の仕事を片づけちゃって下さいね」
「!!」
床板を上った所に待ちかまえていたのはツバキだったが、
「なぜわかった!!」
「・・・それは、窓の外にあれだけ土が盛られていれば掘ってるなと気づくでしょ」
「完璧な大脱走計画が!!」
「別に監禁されてないでしょうに、仕事を細目にやらないから溜まるんですよ」
確かに昼休みに運動場へ行き砂を撒く工程が面倒だから適当に窓から捨てたんだがな。
「だが細目に仕事をしないと駄目とか、無理だろう。やることいろいろあるし」
「ヨシカ以外が出来る事をやろうとするから仕事が溜まるのよ。宿舎関連や交渉事は職人が居てくれるでしょ?」
雑貨屋や職人工房なども出来ているので発注やらなんやらだけすればいいのだが、
「予算がもったいないだろ」
「いろいろやってるんだから利益は出始めてるでしょ」
言われるとおり、生産、加工、運輸で利益が出始めてはいる。
町の方も商会とは別経由の版図を広げているわけだが。
「人が増えてるから医者やらなんやら出費部分が大きいからな。税収もないし」
実際には税収も有るのだが、新しく移り住んだばかりの住民が多いから実質来年収入だ。
「なんにしてもこの仕事も誰かにやらせないとな。面倒だから」
「そう思うなら早く後任を決めて育ててね」
学院で頭の良さそうなのを捕まえるか。
とはいえそこまで育ってもいないか。
いやしかし、実践で覚えさせてもいいのか。
よしそうしよう。
「じゃあ、後任を探しに・・・」
部屋を出ようとするとツバキに肩を捕まれた。
「これが終わったらね」
机にたまった書類関係を指さしながらにっこり笑顔を向けられたのだが、怖いな。