お茶会のお土産は
お茶会から帰ってきた椎奈——旭先輩が椎奈に気付いて出てくるよりも早く部屋に戻って着替えてた——から1部始終を聞いた私と詩緒里は、揃って目が点になった。
「……明日、魔術の実演?」
「そう。私と旭は、実戦」
簡単に頷くけれど、椎奈さん。
「何で勝手に決めるの!?」
これくらいの苦情は受け付けて下さい、お願いします。
「嫌か?」
「嫌というか、無理というか! 人前でそんな事出来ないよ!」
真顔でそんな事を聞いてきたので、力一杯主張した。
椎奈がお茶会に行っている間、私たちは魔術の指導を受けていた。この5日間、イラやイストに協力してもらって、精霊魔術を徹底的にチェックしてもらっていたのが、大体一段落したところ。
つまり、ようやっと一通り、精霊魔術を学んだだけ。使えるのは、その半分。
そんな状態で、もう何年も魔術の勉強をしてきた人たちの前で出来るわけないじゃない!
「……問題無い」
その間がとても気になる! 椎奈、何でそんな顔してるのよ!
何故かやや気まずそうな顔の椎奈に、思わず聞いた。
「まさか、挑発に乗って——」
「違う」
みなまで聞かずに椎奈は否定した。椎奈は基本嘘をつかないから、流石に私の考え過ぎだったらしい。
「でも椎奈、どうしてそんな事を決めたの? 私たちの実力は、椎奈が1番知ってるよね?」
詩緒里の不安げな問いかけにも、椎奈はまた気まずそうな顔をした。
小さな溜息。振り返ると、旭先輩だった。
珍しい、先輩が溜息なんて。
「……確かに、椎奈と俺が、誰よりも古宇田と神門の実力を知っている。——2人自身よりも」
それだけ言って、旭先輩は椎奈に視線を向けた。その目は何となく批判的な感じで、それを受けた椎奈は、黙って頷く。
「どのみち、問題無い。古宇田は今まで制御してきた魔術を全力で使えば良い。神門は魔術の種類が豊富だから、2,3並列起動してみたらどうだ?」
「……それで良いの?」
何だか、いつもの訓練よりも楽な気がする。
「ああ。ついでに、自分たちの立ち位置を確認すると良い」
その言葉が、妙に暖かい感じがしたので、私は元気よく頷いた。
「分かった、そうする」
とりあえず納得した時、旭先輩が椎奈に問いかけた。
「王妃との交換条件は、それだけか」
「…………」
椎奈が無言で目を揺らした。らしくない反応に、全員の視線が集まる。
「——他に何を約束した」
強い口調で旭先輩が聞くと、椎奈は、またもやらしくもなく、回りくどい物言いをした。
「数日前にスーリィアの王子が来た時、会話を交わした時間は、本当に短かった。王子は、私たちの情報を、余り手に入れていなかったらしい。この国の王も、その程度の分別はある」
「……で?」
続きを促してみると、椎奈は観念したらしく、一気に結論まで言った。
「王子は私を男だと思った。自国に戻った後、シイナという男性の勇者が参加すると報告したそうだ。今から訂正すると、向こうの面目を潰す。それを避けるため、今回の旅では男として振る舞えとの事だ」
「ええっ!?」
思わず声に出したのは私だけだったけど、きっと全員の心の声だったと信じている。
「……さっきの格好って、そういう事だったの?」
詩緒里がおそるおそる聞くと、椎奈は溜息をついて頷いた。
「そのようだ。まあ、生活上不便を来すほどに徹底する必要は無いらしい。特別何か気を配る必要は無いそうだ」
……それって、特に何もしなくとも、男に見えるって言われたんじゃ。
そうっと旭先輩の様子を伺うと、無表情という名の表情を浮かべていた。
(詩緒里、どう見る?)
心話で聞いてみると、自信なさげな答えが返ってきた。
(……むっとしてるし、何となく心配そう)
(心配?)
不自然な単語を聞き返すと、少し間が開いて返事。
(男の人との距離が近くなるからじゃないかな)
納得。同性と異性では、距離感違うよね。
「まあ、男だろうと女だろうと、やる事は同じだから構わないだろう」
椎奈もそれを感じ取っているのか、続いた言葉と視線は、ほとんど旭先輩の方を向いていた。
私たちも視線を向けると、旭先輩は無表情のまま答えた。
「椎奈が良いなら問題無いだろう」
「ああ」
ちょっとほっとした感じで頷く椎奈に、手を上げて見せた。
「ねーねー椎奈、そういう事なら、夕食の後練習見てもらって良い?」
「いや、2人は休め。明日は一日中試合を見続けるし、その後魔術を披露する。今日の魔術の練習は随分力を入れたようだから、これ以上はやらない方が良い」
剣術に関してはかなり厳しい練習を課す椎奈だけど、魔術に関しては随分慎重だ。私の感覚的にはまだ余裕があるけど、今日はこれ以上は駄目らしい。
「はーい」
逆らっても良い事はないので、素直に頷いておくことにした。