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交渉

「……結界を綻ばせる手段を使うのは、城内の人間には不可能ですよ。私以外が同じ方法で手引きする事は、まず無いと言って良いでしょう」

 仕方なく、少しだけ情報を提示してやった。もはや完全に、相手の望む会話の流れをこちらが引き出している状態だ。


 王妃は不意を突かれた表情を浮かべてから、目に力を取り戻した。ようやく、本来の目的に取り組む事にしたらしい。


「まるで貴女が、この城内の魔術師の誰よりも優秀だと主張しているみたいね」

「魔術師、騎士、神官、魔道師全てを含めて頂いても結構です」


 あえて大きく出る。魔力量的には間違いなく事実だし、知識や魔術の技能自体も、おそらく間違ってはいまい。強いて上げるなら実戦経験だが、それを補える自信はそれなりにある。

 王妃の目が輝く。艶然と微笑み、挑発してきた。


「貴女、訓練の内容を隠しているでしょう? 皆心配しています。本当に、魔王を倒すだけの力を付けているのかと。今回の闘技大会に参加して、果たして満足できるだけの結果を出せるのかと」

「隠しているのは魔術だけです。剣術に関しては、公開していますが」


 予想通りの要求を、しかし分からない振りをしてはぐらかす。向こうがどこまで求めてくるのか、見極める為に。


「それも、最低限よね。貴女は指導ばかりで、あまり剣を合わせる事がないと聞きます」

「…………」


 無言を貫く私に気を良くしたのか、王妃は更に続ける。


「魔道師や騎士達の間でも、声が上がっています。勇者たる実力を、確かに持っているのかと。声は日々大きくなっていて、陛下も困っておりますの。貴方達を信じていないわけではないけれど、陛下の立場上、声を無視するわけにはいきませんから」


「…………」


「使用人達の信頼は、貴女の人柄と、使用人としての仕事の能力のみ。魔術師達は、探索を逃れた貴女に、一定の評価は置いています。訓練を共にする騎士は、貴方方の成長も保証してくれています。けれど」


 そこで言葉を句切り、王妃は今度こそ挑発を露わにした。



「貴女が、総合闘技大会で戦いきれるか。貴女以外の3人が、実力があるのか。それが、どうしても分からない。——侮られているわよ、貴方達」



 長い長い演説の締めくくりに、小さく笑みを漏らした。



「——『所詮身元も知れぬ若造に、魔王を倒せるものか』。確か、そう言われているのだったな」



 その返答に、王妃は驚愕する。使用人を味方に付けた理由が、まだ分かっていなかったらしい。噂に1番詳しいのが彼らだというのは、当たり前の事だろうに。


「言わせたい者には言わせておいたのですが……まさか王妃が真に受けるとは。その身元も知れぬ若造を、無理矢理戦いに駆り出そうとしているのは、そちらだというのに」


 言葉が暴走しかかったので、1度呼吸を挟む。今は交渉の場だ。あまり過多な感情は不要。

 旭を見習い、感情を廃して臨まなければ。


「成る程、しかし分かりました。明日の闘技大会、城中の人間が集まる。だからこそ、今日この場を用意したのですね」

「……話が早くて助かるわ」


 私の剣幕にやや気圧されていた王妃が、気を取り直して頷く。思い通りに話が進み、安堵したようだ。


「明日の闘技大会で、実力を見せてほしいの。出来れば4人とも。貴女は、優勝者と戦ってもらいます」

「私に関しては、決定事項ですか?」

「『誰よりも優秀』なのでしょう? 問題無いはずよ」


 簡単に言って、私を視線で射貫く。元王女にして現王妃という立場にしては、なかなか鋭い視線だ。


「……4人とも、というのはお断りいたします。私と、旭が戦いましょう」

 少し悩む振りをして、そう答える。


「理由は?」

「戦闘経験の違いです。古宇田と神門は、実戦の経験が圧倒的に少ない。そのような大舞台で、いきなり戦えというのは酷だ。人目の前で戦う心構えなど、魔物の討伐には不要ですしね」


 旭は例外だ。妖と対したことがあるし、そもそも人目を気にする人間ではない。


「どうしてもというのならば、古宇田と神門は、何か1つ、魔術をご覧に入れましょう。それで宜しいですか」

「良いでしょう」


 実力を示してはいるのだ。王妃にも否やはないようで、直ぐに首肯した。



「あと1つ、お願いがあるの。陛下がアサヒ様に掛けた魔術、条件の変更をさせて頂けないかしら?」

「お断りいたします」


 これも予想内だったが、即却下する。


「……これは、貴女の為なのよ。スーリィアに向かうに当たって、強力な魔物は数多い。陛下とアサヒ様の契約上、貴女に戦わせるわけにはいかない。けれどそれは、貴女自身の身を危険に晒しかねないわ」

「つまり、旅の間、私に魔物と戦えと。護衛を付け、戦わないですむようにするという言葉は、この国の代表たる王の発言だったはずですが」


 その言葉に、王妃は眉を下げた。やや視線を下げた後、真剣な瞳で私を見据える。


「……この国には、陛下が必要なの。そして、この世界を救うためには、貴方達が必要。戦わないですむだなんて、貴女も思ってはいないのでしょう? それがどれだけ危険なのかは、寧ろ貴女の方が詳しいはず。……でも」



 ——あの人が死ぬのは、いや。



 その言葉に、笑い出しそうになった。見事な演技に感心したわけではない。


 事情など知らないのだろう。この王妃は、私の事など、何1つ知らない。同情を買える人間だと思われたのは心外だが、だがしかし。



 ——……偽善者と言われようと、人が死ぬのが嫌なのは、私の方だ。



「……1つ、条件があります」



 それでも、ここは交渉の場だから。感情よりも、己の損得が重要な場だから。



 旭との約束を守る、為に。



「護衛の選抜は、私に全権を委ねて頂きたい。誰を選ぼうと、誰の苦情も受け付けないことを許してもらえるのならば、承りましょう」



 己の身を守るための交渉に、手を抜かない。


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