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拒絶

 誰もが寝静まった頃、私はそっと寝台から抜け出した。


 寝室を出て、部屋を出ようとしたその時、背後から声を掛けられる。


「椎奈」


 ゆっくりと振り返ると、旭が私を見つめていた。気配は感じていたから、驚きはしない。


「どこに行く」

「城内を偵察しに」


 短く答えて、再びドアに向き直った。そのまま出て行こうとする私を止めるように、肩に手が置かれる。


「せめて探査の術に止めておけ。相手の警戒心を無闇に煽るのは、得策とは言えない。俺達2人だけではないのだから」


 旭の言葉に舌打ちして、刀印を握り、目を閉じた。城の構図とこの城に掛けられている魔術と兵力を探査し、頭に入れる。


「椎奈、焦るな。つけ込まれるぞ」

 旭の警告には、あえて返事をしなかった。


「椎奈」

 肩に置く手に力が入り、無理矢理旭の方に向き直させられる。

 感情を排した瞳。いつもならば私に冷静さをもたらすその目は、しかし今、ただ苛立ちを掻き立てた。


 らしくないとは、自分でも思う。物事を成すのに不要な感情などとうの昔に捨てたはずなのに、今日の私は、ただひたすら苛立っていた。

 ……原因は、分かりきっている。



 ――また、巻き込んでしまった。



 おそらくだが、召還術は勇者となる資格を持つ者を選定していた。過去の勇者達も、この国に来てから力を得たというよりも、顕在非顕在を問わず何らかの能力を持っていて、世界を渡った事で目覚めたのだろう。

 古宇田と神門に、その力は無い。人の身に余るこの力は、潜在的な能力すらも見抜く。クラスにも1人2人素質のある者がいたが、あの2人には無い。

 それなのに2人がこの世界に来てしまったのは、間違いなく私のせいだ。


 せめて、あの2人だけでも還してやりたい。召還術の魔法陣はあらかた解析できているから、少しこの国の魔術を学び、旭と協力すれば、還す為の魔法陣を組む事など雑作も無い。本当は旭も還したいが、誓いの魔術がある以上、それは出来ない。それでも、旭と王の契約は4人全員を対象にしきれていないから、古宇田と神門を還す事には何の支障もない。

 けれど、今日の様子を見る限り、それは拒まれてしまう恐れがある。2人のお人好しは分かっていた事だったが、まさかあれ程とは思わなかった。


 何故あの時、神門の言葉を退けられなかったのだろう。

 嫌われてでも、傷つけてでも、彼女達が手を引くよう説得すべきだったのだ。それなのに、「足手纏い」という言葉に、心乱れた。



 ――足手纏いなのは、私の方だ。


 ――災いを招くこの身が、彼女達、そして旭を傷つけないと、どうして言い切れる。



 これ以上巻き込む前に、私から逃げてくれ。そう言いたかったのに、何故か視線を逸らしてしまった自分がいた。動揺に負けた己の弱さに、ほとほと嫌気がさす。



「椎奈。自分を責めるな」



 まるで私の思考を読み取ったかのように、旭が言った。黙って頭を横に振る。


「お前は悪くない。何もかも1人で背負い込もうとするな」

「うるさい」


 肩に置かれた旭の手を払いのける。旭の動揺が、空気を介して伝わって来た。


「分かったような口をきくな。旭は、私にただ側にいろと言った。巻き込まれても構わない、決して私の前から消えたりしないからと。だからこうして側にいる。だけど、私に干渉するな。不愉快だ」

「椎奈、」


 何事か言いかける旭に、畳み掛ける。


「旭が何を知っている? せいぜい私の力と、過去のほんの1部だ。私も旭の事なんてほとんど知らない。知ろうとも思わない。干渉しようなんて馬鹿げた事を考えるな。私達は、互いにそんな事を求めている訳ではない筈だ」

「……椎奈、俺は」

「旭の思いなんか、興味ない。旭は、自分の事を心配していれば良い」



 そう言って、私は旭に背を向け、部屋を去った。制止の声は、掛からない。

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