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謎の怒り

前回と連続で短いです。すみません。

 夕食ぎりぎりになって、ようやく旭先輩が戻ってきた。椎奈はあれっきり戻らない。


 サーシャさんが準備するのを待つ間、サーシャさんといろいろ話しながら、こっそり旭先輩の様子を窺っていた。ちなみに、様子見してたのは私だけじゃなくって、詩織里も、サーシャさんも。準備しながら旭先輩見て、3人で顔を見合わせて、また何事もなかったように作業に戻って、を、この5分くらい、ずっと繰り返していた。


 うん、気のせいだと、思いたいんだけど。


 ——旭先輩、無茶苦茶怒ってます。


 無表情なのはいつもの通りだし、目つきが悪いのだって元々なんだけど、こう、全身から漂うオーラが、怖い。椎奈が怒った時と同じくらい、怖い。


 はっきり言って、異常事態。この2ヶ月で旭先輩が怒っていたのは、訓練初日のアーロンさんの時だけで、っていうか、今まで旭先輩が怒ったの見た事ある人って、多分いなくて。機嫌悪そうなのも、夢宮の件と、この間、椎奈が城の仕事黙って手伝ってたって知った時だけ。これだって珍しいんだけど。


 最初は、椎奈について行けない自分に腹を立てているのかなー、と、思っていた。旭先輩は他人に期待しない、自分にしか苛立たないって聞いていたから(池上先輩……の知人で、陸上部の先輩からの情報)。


 けど、何となく、違う気がして。だって、詩緒里が言っていたように、椎奈が旭先輩を残すのは、多分私たちのためだから。旭先輩がその結論に達しないはずないし。外でいろいろ考えて、出た結論に怒ってる、って考える方が自然だ。

 でも、何で怒っているのかは、分からない。旭先輩が時間をかけて考えつく事を、頭も良くない私が分かるとも思えないし。



 ああ、椎奈、帰ってこないかなあ。


 こういう時、椎奈の、あの、ある意味空気の読めない強さが、本当に羨ましい。旭先輩が怒っているからって動じないだろうし、下手したら、面と向かって理由を聞いたりするかもしれない。それはそれで心臓に悪いだろうけれど、それでも、この息の詰まる感じよりはましだ。



「……ご夕食の準備が整いました」

 サーシャさんが気丈な声で、私達……と、旭先輩に声をかける。敵意剥き出しの椎奈と面と向かって会話できるだけあって、旭先輩の怒気にも動じない。凄い。


 旭先輩は、無言で立ち上がって、こちらに歩み寄り、テーブルに着いた。素早く、その斜め向かいに座る。やや恨みがましい目を私に向けながら、詩織里が旭先輩の隣に座った。……まあ、向かいは無理だよね。



「……椎奈は?」


 帰ってきて初めて、旭先輩が口を開いた。サーシャさんが答える。

「コウダ様とカンド様がお帰りになった時に出て行かれて以来、お戻りになりません」


 旭先輩の目がすっと細くなった。その目を、私に向けてきた。……って、私!?

「え、えーっと、ちょっと話をしましたけど。何も言わずに出て行きました」

「何を話した?」

 さらなる追求。泣いて良いかな……



 つっかえつっかえ、大体の内容を話した。……まあ、そんなにたくさん、しゃべってないけど。



「——で、椎奈は何も言わないで、出て行っちゃいました」

 そう締めくくって、後悔。

 旭先輩の怒り濃度が、更に上がってしまいました。部屋の扉を睨み付けて、何だか滲み出る魔力の量がいつもよりも多い。


 食欲が無くなりそうです。お腹空いてるから食べるけど。



 突然、旭先輩が立ち上がった。そのまま何も言わずに、部屋に足を向けた。

 お皿を見てみる。気付かないうちに完食していた。食べるの早っ……


 ひとつだけ聞きたくて、思い切って声をかけた。


「旭先輩。私達、何か椎奈を傷つけるような事、言っちゃったんですか?」


 旭先輩が足を止めた。


「いや。古宇田と神門は悪くない」


 振り返らずにそれだけ答えて、旭先輩は再び歩き出そうとした。けど、直ぐに立ち止まる。ちょっと間を置いて、今度は振り返った。



「……唯一問題があるとすれば、2人が、彼女に心を寄せているという事だ。……それは間違いでは無いと思うが。それに——」



 珍しく歯切れの悪い旭先輩が、試すように私達を見据えた。少しして、一言一言選ぶように、言った。



「俺は、椎奈のその考えが、どうしても、納得いかない」



 それ以上何も言わず、旭先輩は踵を返し、部屋に姿を消した。

 誰からともなく、私達3人は顔を見合わせた。


「……誰か、今の意味、分かった人」


 自棄気味に聞いてみたら、2人分の横振りが返ってきた。だよね……

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