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上達と立ち位置

「……旭、どうした?」


 訝しげな声に問いかけられて、椎奈をずっと見つめていた事に気が付いた。自分がどんな表情をしていたのかやや不安に思いつつ、首を横に振る。

「何でも無い。俺も久しぶりに、勉強になった」

「そうか、それなら良かった。……さて、片付けるか」


 不思議そうな顔をしたまま頷いた椎奈は、再び刀印を結んだ右手に息を吹きかけた。

 緩やかな風とともに、部屋を覆っていた結界が消えていく。

 完全に結界が消えた時、部屋にあった焼け焦げや裂けた部分は全く残っていなかった。


 同時に古宇田達を守っていた結界も解けたらしい。古宇田達がこちらへ歩み寄ってくる。


「……ねえ椎奈、今のが魔術戦なの?」

「そうだ」


 開口一番の問いかけに簡潔に頷く椎奈に、古宇田が頭を抱えた。大体考えている事は想像がついたので、補足しておく。

「このレベルの魔術戦は滅多に無い。そもそもこの世界は、詠唱破棄もまともに出来ない精霊魔術師ばかり。無詠唱魔術など、夢のまた夢だ。詠唱があれば、知識をつけておけば相手がどのような魔術を使うのか直ぐに分かる。古宇田や神門程魔力があれば大抵は防げるから、心配する必要は無い」


 言いながら、古宇田の魔力に僅かな変化が生じているのに気付いた。今まではただ漏れ出ていただけだったのが、明確な流れを持ち始めている。


「……古宇田、部屋の中央に氷柱が立っているのをイメージしろ」

「はい?」


 唐突な指示に古宇田は戸惑った声を上げたが、直ぐに視線を部屋の中央にやった。


 異様に太い氷柱がそびえ立つ。


「次に、その氷柱を見ながら、「その隣には氷柱が立たない」とイメージしてみろ」

「氷柱が、立たないんですか?」

「そうだ」


 困惑しきった声に短く肯定する。首を傾げながら、古宇田が氷柱に目をやった。

 古宇田の魔力が氷柱の周りを流れるのを見て、成功を半ば確信する。


「最後に、頭の中で氷柱が2本立っている様子を思い浮かべながら、「氷柱が立たない」とイメージしろ」


 指示を聞いて、古宇田が集中した顔つきで目を閉じる。

 氷柱の周りの魔力が増えたが、氷柱が現れる事は無かった。


「……成程な。段階的にイメージさせたのか」

 今まで神門とともに理解できていない表情を浮かべていた椎奈が、感心したように呟いた。

「先程の魔術戦で魔術を使うというイメージが持てたようだったから、誘導すれば出来るだろうと思った」

「心理学にもそれに似たようなものがあったな、そう言えば」


 椎奈はそう言って、未だ目を閉じたままの古宇田に声を掛けた。

「古宇田。そのまま1本目の氷柱が粉々になるのをイメージしろ。その時、魔力が氷柱を中心から壊すという事に意識を向けるんだ」

「粉々……」


 古宇田が呟いた途端、氷柱が中から碧瑠璃色に光る。


 爆発音と共に、氷柱が粉砕した。


「成功だな。随分と派手だったが」

「え? 成功?」

 椎奈の言葉に、古宇田が驚いたような声を上げた。


「ああ。精霊魔術中級、破砕魔術。水の突沸を応用した技だ。氷柱を作る事自体は、初級魔術だが」

「えっと、つまり……」

「魔術を2つ修得した。それも、無詠唱でな」

「やったあ!」


 喜びの声を上げる古宇田に、神門も笑みを浮かべている。羨ましそうでもあるが。



「……ならば、これで行けるかもしれないな」

 不意に椎奈が、何かを思いついたように呟いた。そのまま、部屋の片隅に視線を向ける。


 一拍後、蔦で作られた柱が現れた。


「神門。先程の魔術の目標を、あれに定めてみろ」

「分かった」


 神門は頷き、目を閉じた。小さいが、よく通る声で呟く。



『風よ、彼の者を捉え、切り裂け』



 再び橙色の光が閃き、風が巻き起こる。先程よりも短い時間で蔦を捉えると、少しずつ風の勢いが増していく。


 先程と同じ勢いに達した。1度勢いが緩んだ後、一気に加速しだす。轟音が響き始めた。


 数瞬後、鋭い斬撃音が部屋に響く。



「止めろ」

 椎奈が神門に声を掛けると、風が直ぐに収まった。


 蔦は、原形を残さず切り裂かれていた。


「やったじゃん、詩緒里!」

 古宇田が嬉しそうな声を上げる。

「うん、何とか」

 神門がほっとした様子で頷くのを見ながら、小さな疑問を抱く。

 確かに、標的が人から物へと変わる事で、躊躇いは減る。とは言え、攻撃魔術は人や魔物に対して行うもの。今のままでは実用にはほど遠い。


「……さて、後は同じだ。神門、今度は私を標的にして魔術を放て。私だという事は、意識しなくていい。先程のように、蔦の柱を切り裂くと思って魔術を使え」

「……やってみる」


 頷く神門の表情に、やはり躊躇が浮かんだ。このままでは結果は同じだ。


 ふと思いついて、声を掛けた。

「神門、心配する必要は無い。先程の魔術戦で椎奈の周りに纏わせた、炎を含んだ竜巻・・は、今から使う魔術の10倍の威力を持っていた」

「……10倍?」

 古宇田が呆れ返った声で呟くのに、頷いてみせる。


「まあ、そういう魔術だったな。だが神門、魔術は込められる魔力でどうとでもなる。私が張る結界を壊す気で放て」


 そう言って椎奈が印を結び、結界を張った。椎奈は更に、結界の周りに蔦を張り巡らせる。



 その様子を見た神門が頷く。深呼吸をして、目を閉じた。



 瞬間、竜巻・・が椎奈の周りを覆い、一気に勢いを増した。少しの間を置いて、引き裂くような音が響き渡る。


 風が収まると、無傷の椎奈の周りに、ぼろぼろになった蔦が落ちていた。



「成功だな。神門、この魔術はこれだけの威力を持って初めて成立する。覚えておけ」

「はい」

 椎奈の言葉に、神門が頷く。


 結界があっても躊躇いのあった神門に、「竜巻」という言葉を意識させた。その為より威力の高い攻撃魔術となって、蔦を全て切り払っていた。元のものならば、いくらか残っていたはずだ。


 椎奈もそれには気付いているだろうが、あえてそれを告げていない。殺傷性の向上は寧ろ知らない方が今後も使いやすいからだろう。



 精霊魔術風属性中級、鎌鼬。4日目にして成功した。——無詠唱で。


 古宇田も神門も結術無し無詠唱。それがどれだけ特殊か、未だよく分かっていない——主に俺達のせいだろう——ようだが、少なくともここにいる魔術師の大半が出来ないはずだ。


 椎奈も、術や西洋魔術に関しては結術——術においては結印と言う——を外せない。ただ椎奈の場合、幼い頃から結印して術を使っていた為、その癖が抜けないからだと俺は睨んでいる。



「……さて、戻るか。今日は予定よりも長く行ったし、図書室に行くのはやめておこう。魔力、霊力がかなり消耗している。今日はもう、休んだ方が良い」


 椎奈の言葉に密かに賛同した。慣れたとはいえ、午前の基礎練、剣術の訓練はかなり体力を削る。その上久々の椎奈との魔術戦だ。疲労が蓄積していた。

 古宇田や神門も、今日はいつもよりも魔術の練習が長かった為だろう、疲労のにじみでた顔に安堵を浮かべている。


 椎奈が、霊力、魔力の波動を外に漏らさない防音魔術を解除し、部屋の扉を開ける。その時、気付いた。



 先程の魔術戦、椎奈は防音魔術に加え、部屋の結界と古宇田達を守る結界を維持したまま戦いに挑んでいた。


 部屋に張っていた結界は、張る時と解除する時の霊力消費が激しい。古宇田達の周りに張っていた結界は、維持する為に常に霊力を供給しなければならない。防音魔術も比較的高度な魔術だ。


 それだけの術を維持したまま、椎奈は俺と戦い、勝利した。そして、確かに多くの霊力を消耗しているとはいえ、表情の余裕や行動の機敏さから判断するに、さほど疲労は強くなさそうだ。


 ——純粋な魔術戦では、何とか対抗しうるだけの力がついた。だが、実戦において、特に体術や剣術、体力面では、互角というにはほど遠い。大体、椎奈の本領は、刀を握って初めて発揮されるのだ。


 俺が魔術を身につけ始めて、5年。椎奈はもう9年になると聞いた。その上椎奈は、ずっと剣術や体術も共に学んで来たのだ。差があって当然というべきなのは分かっている。


 ——それでも、自分の不甲斐無さに対する苛立ちを覚えずにはいられなかった。



 このままでは、椎奈と共にいても、椎奈の負担にしかならない。椎奈の側にいる為には、椎奈を守る為には、もっと貪欲に力を求めなければ、いつまでも追いつけない。



 ——まだ、足りない。約束を守る為にも、椎奈に追いつく為にも、力をつける。



 会話を交わす3人の後を歩きながら、俺は決意を新たにした。


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