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魔術戦

時は過ぎます。

 橙色の光が緩やかな風を起こす。始め神門の周りを包むように巻き上がった風は次第に広がり、俺に纏わりついた。風の勢いが増す。

 いつでも魔術を発動できる状態で待機していたが、風は一定の勢いを保ったまま変化しない。


「……ここまでだな」


 そう言って、魔術を強制的に終了させる。光が収まった。


 神門の周りに敷いていた魔法円を解除すると、神門が溜息をつく。

「何度やっても上手くいきませんね……」

「…………」

 返すべき言葉が見つからず、無言を貫いた。



 訓練が始まって、1週間。3日目に1つ目の魔術を成功させた神門に、今度は風を相手に纏わりつかせる魔術を教えた。神門は戸惑った様子を見せながらも、3度目で成功させた。そこまでは良かった。

 その先、纏わせた風の勢いを増し、鎌鼬を起こす魔術が成功しない。いくつか助言し、何度か見本を見せているのだが、どうしても一定の風速を超さない。


 原因は分かっていた。神門は相手を攻撃する事への躊躇が強すぎる。こちらは防御を整えた状態なのだから魔術が暴走しても問題無いと説明してあるのだが、そもそも人を攻撃する魔術を使う事自体に迷いがある。


 古宇田が未だに制御できないまま攻撃魔術を椎奈に浴びせているのとは、まるで正反対だ。

 椎奈の方もいろいろ試しているようだが、古宇田は余程世界への干渉力が強いらしい。僅かな魔力しか漏れていないにもかかわらず、中級魔術並みの威力を発揮させてしまう。



「あの、旭先輩。もう1度やって良いですか」

 神門が尋ねてきた。意欲がある事は良い事だが、そもそも躊躇っている時点で上手くいくはずも無い。首を横に振る。

「これ以上は、魔力の使い過ぎになる。今日はここまでだ」

「……はい」

 神門が俯いて返事をする。「音」を聴く力の制御はほぼ問題無い。それほど急ぐ必要も無いだろう。


「……古宇田、今日はここまでだ」

 椎奈の方も古宇田が限界を迎えたようだ。椎奈の声と同時に、結界が消える。



 この後は、魔術書を読み理論を学ぶ。自分の扱う魔術もそうだが、全ての魔術についてある程度学習する。実戦でいきなり見ず知らずの魔術を防げるはずも無いからだ。

 俺も椎奈も、精霊魔術は勿論、自分の領域である術、西洋魔術——こちらでは神霊魔術、理魔術か——の復習をしていた。この世界独特の魔術も存在すると分かったのもある。

 いつものように図書室への移動だろうと出口へ足を向けたが、椎奈から制止の声がかかった。



「待て、旭。まだ終わっていない」



 怪訝に思い振り返り、思わず息を止めた。



 椎奈の表情が変わっていた。今俺の目の前にいるのは、普段古宇田達と話す「高校生」でも、鮮やかな剣術で騎士達をあしらう「剣士」でも、剣術や魔術の指導をする「先生」——古宇田がそう呼んでは、椎奈に嫌がられている——でもない。



 古の術を受け継ぐ、「術師」たる椎奈が、俺を見据えていた。



 椎奈のこの表情を見るのは、訓練初日にヘラーの魔術を破った時以来だ。いや、それ以上に張りつめた表情を浮かべている。

 前の世界で椎奈がこの表情を見せていたのは、妖を祓う時と。



「訓練が始まって、1週間。ようやく慣れたようだな。それだけ霊力に余裕があるのならば、問題あるまい」



 俺との、魔術戦の時だ。






 椎奈が刀印を結び、目を閉じる。青い光が部屋を覆い、消えた。

 術特有の結界だ。一見何も変わらないが、もはやここは切り離された世界。この部屋がどれだけ壊されようとも、結界を解けば元通りになる。

 ただし、ここで負った怪我はそのままだ。


 続いて椎奈が、刀印を部屋の隅にいる古宇田達に向ける。ヘラーの防御魔術の3倍程の強度を誇る結界が、古宇田達の周りに張られた。



「古宇田達はそこから動くな」

「分かった」

 いつもと違う俺達の様子に、珍しく真面目な口調で古宇田が返事をした。神門も神妙な表情で頷く。



「……1ヶ月ぶりか?」

「ああ」

 椎奈のどこか楽しげな口調の問い掛けに、短く答えた。無駄口を叩く余裕は、無い。

「ルールはいつもと同じだ。時間制限無し、魔術のみ。勿論互いに手加減は無し。異論は?」

「無い」

「よし、では始めよう」



 そう言って椎奈が刀印を結び、構えた。俺も魔術をいつでも放てるように、呼吸を整える。



 緊迫した空気が最高潮に達した瞬間。



 椎奈の腕が鋭く空を切った。斬撃を鎌鼬で迎撃する。

 不可視の刃は、2人の中間で衝突し、消えた。


 間髪入れずに炎を召還し、上方から椎奈にぶつける。

 椎奈は目を向ける事なく結界でそれを防ぐ。



 ここまでは予測していた展開。



 弾かれた炎を地に這わせ、椎奈を囲ませて一気に火力を上げる。


 椎奈が目を細めた。刀印を結んだ右手がわずかに動く。

 足下に霊力が集まるのを感じ、咄嗟に飛び退く。先程までいた場所に、拘束術が発動した。


 息を継ぐ間もなく拘束術が追って来る。移動する霊力の流れから次に発動する場所を予測しつつ、逃れ続ける。


 走りながら、椎奈の周りの炎に風を纏わせ竜巻状にすると同時に、椎奈の結界に、魔術によってつくった結界をぶつけた。


 ここに来て初めて、椎奈の動揺が伝わって来る。攻撃の手を緩めず、わずかに揺らいだ結界に霊力を込めた無数の氷弾を叩き込む。



 青い光が閃き、椎奈の周りの魔術全てが吹き飛ばされた。



 魔法陣が全て砕かれたのを感じた瞬間、死角から強い衝撃が俺を襲った。吹き飛ばされ、壁に叩き付けられかけたが、辛うじて魔術で勢いを殺す。


 体勢を立て直す俺に向かって、霊力を細く絞った数えきれない程の光線が飛んで来る。防御魔術を発動してそれを跳ね返し、同時に椎奈の足下を揺らす。


 霊力の流れが途切れたのを感じ、そのまま衝撃に特化した魔術を放った。

 性質を限定した魔術が轟音と共に周りの空気を飲み込み、椎奈に襲いかかろうとした、その時。 



 莫大な霊力の塊が、魔術を粉々にした。魔術を飲み込んだそれは、そのまま俺に向かって来る。

 凄まじい威力を持つその攻撃に、全ての力を防御魔術に回して相殺する。



 刹那。



 足下に青い五芒星が輝いた。



 しまった、と気付いた時にはもう遅い。



「不動縛!」



 凛とした声が響き、練り上げられた霊力が全身を拘束した。

 堪えきれずに片膝をつく俺目掛けて、不可視の刃が飛来する。


 霊力を一気に解放した。体の動きだけでなく魔術の発動を妨げていた椎奈の術を、一瞬だけ無理矢理緩め、防御魔術を構築する。


 本来ならば術を飲み込み椎奈に跳ね返すはずのその魔術は、しかし、魔法陣ごと不可視の刃に切り刻まれ、勢いを殺がれる事なく動けない俺に襲いかかる。



 なす術もなくそれを見ていると、刃は俺の目の前で静止し、消えた。


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