4人と魔力と霊力
椎奈が締めくくると、ヴァリオさんが拍手した。
「素晴らしい。私が言う事はありませんな。……さて、では私から1つだけ。皆様の魔力特性を計る水晶をお持ち致しました」
そう言って4つの水晶を取り出すヴァリオさん。
「こちらを用いる事で、皆様がどの魔術を使えるのかを判断する事が出来ます。精霊魔術ならば、その属性までも分かりましょう。触れていただくと、魔力に反応して輝きます。精霊魔術ならばその属性の色——火は赤、水は青、木は緑、風は橙、雷は黄、光は白、闇は黒の灯りがともりますし、理魔術は銀色に、神霊魔術は虹色に輝きます。輝きの強さが魔力の強さを示します。どうぞお試し下さい」
水晶を宙に浮かせながらヴァリオさんがそう言うのを聞いて、私達4人は顔を見合わせた——正確には、私と里菜が椎奈と旭先輩を見上げた。
私は橙、里菜は青。それは多分間違いない。けれど、椎奈と旭先輩はどうなるのだろう。椎奈は理魔術と神霊魔術を両方使えるし、旭先輩は神霊魔術への適正を持ったまま理魔術を使っている。水晶に現れる色は未知だ。
でも、それをヴァリオさんの前で試すのも気が引ける。里菜の言葉を借りれば、椎奈達は非常識だ。余り目立つのもどうかと思う。
「メレリ、その必要はない。儀式の際に、それぞれがある程度何の属性を持つのかを知ったからな」
椎奈がヴァリオさんの申し出を辞退しようとする。けれど、ヴァリオさんも譲らない。
「いや、そういう訳には参りません。魔術は1つ間違えれば、大事故に繋がります。始めに自分が何の属性を持つのか確認しないのは、自殺行為です」
頑固な響き。これは譲らないって、声や表情から伝わってくる。私達を心配してくれているのは分かるんだけど……
「……分かった」
椎奈が溜息をついてから、頷いた。そのまま水晶玉に近づく。旭先輩もその後に続くから、私達もおっかなびっくり近づいた。
「それでは、触れてみて下さい」
その言葉に、まず私と里菜が同時に触れた。予想通り、私の水晶は橙色に、里菜の水晶は青色に輝いた。水晶全体が強く輝いて、眩しい。
「コウダ様は精霊魔術の水属性、カンド様は精霊魔術の風属性。流石は勇者様、素晴らしい魔力量ですな。それではアサヒ様、シイナ様もどうぞ」
ヴァリオさんに促され、旭先輩と椎奈は一瞬目を合わせた後、同時に触れた。
それぞれ、銀色と虹色に輝いている。光の強さは、私達と同じ位。
「アサヒ様は理魔術、シイナ様は、お珍しい、神霊魔術ですか。この2つの魔術の使い手で、これほどの魔力量をお持ちなのは、さほど珍しくはありませんが……」
ヴァリオさんが妙な目で椎奈を見つめている。椎奈は気にする様子もなく、ヴァリオさんに言った。
「メレリ、これで良いか? 後は自分たちで何とかする。サーシャが魔術書と杖を用意している。必要なものはあるし、後は心配しなくていい」
「……畏まりました。それではこれで失礼致します。何か私に出来る事がございましたら、いつでもお申し付け下さい」
未だに疑わしげに椎奈を見つめつつも、ヴァリオさんは丁寧に一礼して部屋を去っていく。
「それでは私も、これで失礼致します」
サーシャさんがヴァリオさんに続いて部屋を出て行った。その後ろ姿を見る椎奈の目がどうも怖いのは、どうしてだろう。
「……さて、行ったな」
その言葉と同時に、椎奈が刀印を結んだ。何かが部屋を包むような感じ。
「椎奈、今のは何?」
私が尋ねると、椎奈が意外そうな顔をした後、直ぐに教えてくれた。
「少し魔術への感覚が鋭くなっているな。今のが盗聴防止の術だ」
「ああ、これがそうなんだ」
里菜も納得したように頷いている。
「まあ今回は、外から魔力、霊力の流れを感じ取れないように遮断させてもらったが。今からやる事をあれこれ探られると、いささか厄介だ。……さて、始めようか」
椎奈がそう言って、教卓みたいな机に歩み寄ろうとした。
「あ、待った。椎奈、旭先輩もだけど、さっきの水晶玉、何をしたの?」
里菜の言葉に、首を傾げた。ただ触れたようにしか見えなかったけど……
そんな私を見て、里菜が呆れたように首を振った。
「あんな反応しか出ないんだったら、椎奈も最初から渋らないでしょ。それに、私達と魔力量が同じな訳ないじゃない。椎奈達だよ?」
「そっか」
納得した。確かに、椎奈達の魔力——椎奈は霊力って言ってたっけ——は、かなり強いはずだ。それは闘技場の件から考えても間違いない。
「理論的ではないが……まあ、その通りだ。ああなるように加減した」
椎奈が複雑な面持ちで頷く。
「じゃあさ、普通にやったらどうなるの?」
里菜は興味津々と言った様子で尋ねた。椎奈が肩をすくめ、無造作に水晶に触れた。
水晶は、一瞬だけ色の識別もつかない位強い閃光を放って、砕けた。
「こうなる。旭はどうなるんだ?」
絶句する私と里菜に簡潔に答えて、旭先輩を振り仰いだ。旭先輩がすっと水晶に触れる。
水晶は一瞬金色に輝いて、砕けた。強い光を2回も見たから、目がチカチカする。
「……そう来たか……」
椎奈がやや呆れ気味に旭先輩が触れた水晶の破片を見やって呟いた。
「術師として修行を修め、方術と仙術を使いこなす椎奈が、苦もなく西洋魔術を使える理由がようやく分かった。椎奈の霊力は、特性がないのか」
「自分の事を棚上げにするな。金色と言えば、魔術3種全て修められる証だ。メレリはあり得ないと思ったらしく、言いもしなかったが」
淡々と分析するように言う旭先輩と、半眼で言い返す椎奈。どちらも自分の霊力量に関しては触れない。今更って事かな……
「椎奈も精霊魔術に手を出す気だろう」
「ああ、面白そうだからな。……まあ、私達の事はどうでも良い。古宇田、神門、ユトゥルナとミキストリを呼んでくれ。2人の魔術については、彼らの方が詳しいだろう」
旭先輩の言葉にあっさり頷いた椎奈は、いきなり私達に話を振った。
『まあ、呼ばれるまでも無いが……。巫女にアサヒ殿よ、汝らは非常識を通り越して異常だな』
『先程示された魔力量、その気になればこの国1つ滅ぼせるであろうな』
未だに言葉を失う私達の腕輪から現れたユウ——この間里菜に、もうユウで良いと言われた——とミキは、呆れ声で椎奈と旭先輩に答える。
「異常と言うな。それと、私達が持つのは魔力ではなく霊力だ。それより、ユトゥルナとミキストリ、悪いが古宇田と神門の杖選びを手伝ってやってくれないか。私達は使った事がないから、今1つよく分からない」
余り本気でない顔で反論すると、椎奈はユウとミキにそう言った。
『使った事がないとは……いや、もう何も言うまい。そうだな、この腕輪がある以上、通常魔術師が使うような杖は不要だ。腕輪自体が、その役割を果たす。ただ、武器を使いつつ魔術を使うならば、加えて道具が必要だ』
疲れたように首を振ったユウが、椎奈のリクエストに応えてアドバイスをしてくれる。
『腕輪に魔力の流れを制御する石を埋め込むのが良かろう。詩緒里はその指輪が良いだろう』
ユウに続いてミキがそう言うので、机に近づいてミキのさす指輪をはめた。瞬間、指輪が淡く光り、腕輪に吸い込まれるように消えた。見れば、腕輪に、指輪についていたオレンジ色の石が埋め込まれている。
『リナはその杖だな』
「これ?」
ユウに言われて里菜が短い杖——王様のよりも短い——を手に取ると、同じように淡く光って、腕輪に吸い込まれていった。里菜の腕輪に、碧瑠璃色の石が埋め込まれる。
『巫女、他には何かあるか?』
「いや、もういい。後はこちらでやる」
ユウの問い掛けに首を振る椎奈。それを見てユウとミキは頷き、同時に消えた。