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プロローグ 日常

ちょっと重たい異世界ものです。暗い話があるので、苦手な人はご注意下さい。作者はまるきりの初心者なんで、出来るだけ多くのアドバイスをお待ちしています。

椎奈(しいな)、一緒に帰らない?」


 放課後。鞄を手に持って、私こと古宇田(こうだ)里菜りなは、クラスメイトの椎奈に声を掛ける。教室を出ようとドアに手をかけていた椎奈は、振り返りもせずに答えた。


「駄目。約束があるから」

 抑揚の少ない、素っ気ない口調。友好的な雰囲気はまるきり無いけど、これが椎奈の常だから、気にならない。そんな事より、その返答に興味を持った。

「約束って、もしかして、旭先輩?」

 親友である神門(かんど)詩緒里しおりの問い掛けに首肯が返ってきたもんだから、迷わず頼み込む。

「えっ、そうなの? じゃあさ、私達付いて行って良い?」

 その言葉に、椎奈がようやく振り返った。


 整った細面に、切れ長の瞳は黒曜石のように輝く。全体的に鋭い線の目立つ外見な上にいつも無表情だから、見る人に冷たい印象を与える。目と同じく真っ黒な長い髪を無造作に流している彼女は、僅かに眉をひそめて、問い返してくる。


「何故?」

「興味があるから」

 間髪置かずに即答すると、椎奈の眉間の皺が深くなった。


「……古宇田。無粋って言葉、知ってる?」

「知ってるけどさー、興味あるんだもん。だって、あの旭先輩でしょ? 学校一の有名カップルがどんな感じなのか、見てみたいって」

 


******




 椎奈との付き合いは、高校に入ってからだ。

 入学式の日のホームルームで、御定まりの自己紹介。誰もが緊張気味に挨拶する中、椎奈は、緊張なんて欠片も感じさせない口調で、クラスメイトに対して言い放った。


「椎奈。中学では帰宅部。高校でも部活に入るつもりは無い。以上」


 担任の先生までもがその素っ気なさに言葉を失う中、私は手を挙げる。


「古宇田里菜です。質問。椎奈って、名前? 名字? どっちにせよ、残りは?」


 切れ長の目が私を捉えた。表情を変えないまま、椎奈はよく通る声で答える。


「名字だ。名は無い。学校にも、椎奈とのみ登録されている」

「……どうして?」

「理由が必要か? そちらが私を呼ぶのに、何の支障も無いだろう」


 二の句を次がせない相槌を打つと、椎奈はさっさと自分の席に戻った。



 そんな自己紹介にも関わらず、椎奈に声を掛ける子は少なくなかった。きつい印象を与えはするものの、椎奈は美人だ。男子が放っておく筈が無く、女子だって1人でも多く友達が欲しいから、積極的に声をかけていた。

 けれど椎奈は、まるで関わりを持つまいとしているかのように、最低限の返答だけを返して、後は読書に没頭していた。あからさまに他人を拒絶する態度に、自然と皆、彼女から離れていった。

 最後まで残ったのは、私と詩緒里。私達は事ある毎に椎奈に声をかけた、というか付きまとった。椎奈も始めは鬱陶しげにあしらっていたけれど、やがて諦めたのか、質問したら答えてくれるようになった。



 皆が離れた後も言い寄る男子は後を絶たなかったけれど、椎奈が相手にする事は無かった。誰もが、椎奈は恋愛沙汰には全く興味が無いのだろうと思っていた。



 2ヶ月前までは。



 入学して3ヶ月経ったある日、私と詩緒里は、椎奈と一緒に帰ろうと、校庭を足早に歩く椎奈を追っていた。ようやく追いつこうというその時、詩緒里が声を上げる。

「あ、あれ……」

 顔を上げると、校門にあさひ梗平きょうへい先輩が立っていた。彼の視線の先には、椎奈。



 旭先輩は、私達の1つ上。頭は良いんだけど、どうも方向性を間違っている。


「環境保護の主張など、馬鹿げている。人間は、この地球に一時的に住む事を許されているだけに過ぎない。自分達がより長く生き残ろうと足掻くという生物として当然の行動を、何故過剰に美化しようとするのか、理解に苦しむ」


「国際協調など、夢物語だ。動物は縄張りを争い、より利益を得ようとする。人間とて同じだ。口では皆仲間と言いつつ、己が得をしようとしている。ならば始めから、そんな建前など口にする必要は無い。そんなものを信じるのは、愚か者がする事だ」


 淡々と己の過激な主張を口にし、反論を封じるだけの理論を組み立てる。それだけでも変わり者のレッテルを貼られるのに十分だけど、更に特筆すべき特徴がある。  


 西洋の魔術に異様に詳しいという、特徴が。



 勿論一般的な知識も他者を凌駕する彼は、その知識と思想故に、1部の生徒に「魔王」と呼ばれていた。私も密かに、その呼び名に賛同している。

 秀麗と言って差し支えない容貌で一際目立つ、冷たい瞳。その目に冷めた光を浮かべ、薄い唇から己の意見を紡ぐその様子は、まさに魔王という名に相応しい。



 先輩もまた、恋愛沙汰には無関心そうに見えた。だからこそ、わざわざ校門で椎奈を待ち伏せる旭先輩に、強い興味を抱いた。



 興味津々な私達を他所に、2人は言葉を交わすと、そのまま一緒に学校を去った。後を追おうかと思ったけれど、まだあの時はそこまで椎奈と親しくなかったから、そこまで図々しい真似は出来なかった。



 それから、1ヶ月後。2人は、付き合い出した。

 それを聞いた誰もが耳を疑ったんだけど、周りの人達が真実を聞くと、どちらもあっさりと認めてしまった為、かえって追究できなかった。

 恋愛から1番遠いと目されていた2人組は、2人を知る人にとって、とても興味深いカップルだ。



******



「ねえ、良いでしょ椎奈? 邪魔はしないよ。今まで一緒に帰った事無いし、1回くらい良いじゃん」

「迷惑。大体、一緒に帰る義務は無い」

 そう言うと、椎奈はそれ以上の反論を聞こうともせず、足早に廊下を歩き出した。


 ここで諦めるなら、始めから一緒に帰るなんて言い出さない。


 私達は、急いで椎奈の後を追った。


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