武器選び
昼食をとって少し寝た後、私達は闘技場に集合した。ちなみに、さっきまでいた部屋は鍛錬場というらしい。
闘技場は、剣道場に似ている。板張りで、ラインが引かれている。違うのは、ラインの形が丸という事位かな。
地図と旭先輩のおかげで迷わずに闘技場にたどり着くと、既に椎奈が待っていた。
椎奈は私達と一緒にシャワーで汗を流した後、どこかに行ってしまったのだ。お昼を食べないって言うのは、どんな時でも例外ではないみたい。
私達が近づくなり、椎奈が口を開いた。
「この国には、割と多くの種類の刀剣があるらしい。どれか1つを選んで練習するように、との事だ」
そう言って、後ろを目で示す。覗き込むと、いろんな形の剣がずらりと並んでいた。
「椎奈、剣ってどう違うの? どれが良いとか全然分かんない」
片手を上げて言った。選べと言われても、どこから手をつけて良いのかが分からない。隣で詩緒里も頷いている。ちょっと不安そうだ。
「そうだな。余り大きなものには手を出すな。重すぎて制御が出来ないからな。持ってみて少し重い位がいいだろう。あるいはリーチの長いもの。使いこなせれば、その方が良い。女は体格でどうしても劣るから。旭……は、学校で剣道をやったか?」
「少しな。だが、実用的なレベルにはほど遠い」
「まあ、そうだろうな。だが、もしも竹刀の振り方に慣れてしまったのならばあれに近いものを探せ。まだいくらでも他のものに適応できるというならば、何でも良い。ああ、余り刃の大きいものには手を出さない方が良い。あれは使いこなすまでに時間が掛かる」
「分かった」
旭先輩は頷いて、直ぐに物色し始めた。椎奈の説明を頭の中で繰り返しながら、私達も探す事にする。
少しして、柄が長くて刃が少しカーブしたものが目に入った。手に取ると、思ったよりも軽い。しかも持ちやすかった。
「私これにする」
そう言って椎奈に見せる。椎奈は意外そうな表情を浮かべた。
「確かにリーチの長いものが良いとは言ったが……扱いに慣れるまで、少しかかるぞ?」
「私、おばあちゃんが薙刀の師範なんだ。昔ちょっとだけ習った」
そう言って、習った構えを取ってみせる。椎奈が感心したように頷いた。
「ああ、それなら問題無さそうだ。それでいけ」
椎奈の許可ももらったので、詩緒里の刀探しに付き合う事にする。
「どれも同じに見える……」
「いや、形はだいぶ違うから」
詩緒里の頼りなげな呟きに突っ込んだけど、言いたい事はよく分かる。私はたまたまおばあちゃんに習っていたから良かったものの、経験が無ければ途方に暮れていたに違いない。
ずらりと並ぶ剣の中には、日本刀のようにカーブのあるもの、西洋剣のような真っ直ぐで細いもの、やたらめったら刃の部分が大きいものなど、本当にいろいろある。こういう世界って西洋剣しか無いっていうイメージがあったから、ちょっと意外。
自由に選べるのって便利なようでいて、実はどれが良いのか選びきれなくて困るんだなあ。服を選ぶのとは訳が違うんだな。
「……ん? 椎奈、これってどう使うの?」
ふと目に入ったのは、30センチくらいの長さで、真ん中に持ち手のある剣。振り回したら危なさそうな形だ。どう使うのか分からなくて、椎奈に声をかけた。
「へえ、こんなものまであったか」
それを見た椎奈が、興味を引かれたように呟いた。私の手から取り、少し弄ぶ。
「使ってみせるのが一番だろうが……人が多いな」
椎奈が溜息をつくので振り返ると、いつの間にか注目を集めていた。騎士さん達が少し離れた所で、私達を囲むようにしてこちらを見ている。
「姉ちゃん、それ、使えるのかい?」
セヴェリオさんが椎奈に尋ねた。他の人たちも驚いたような顔をしている。
「似たようなものは扱った事がある。真似事くらいは出来るだろう」
椎奈がそう言うと、人垣が割れた。奥には束ねた藁が3つ。やってみろという事らしい。
椎奈は軽く息を吐くと、歩き出した。面白そうなので、詩緒里と2人でついていく。
「古宇田と神門はそこで止まれ。完全には制御出来ない」
椎奈はそう言って、立ち止まった私達の所から更に10歩程歩いて止まった。それでも藁からは結構距離がある。少なくとも、あの場所から切る事は出来ないはずだ。
椎奈は距離を気にする様子も見せず、剣の感触を確かめるように持ち手を回した。藁を見つめて息を細く吸い、止める。
構える椎奈を、誰もが息を潜めて見守っていた。
しばしの沈黙。
細い腕がしなり、ヒュンと風を切る音が闘技場に響く。続いて、鈍い音が3度。
椎奈がもう1度腕を振った。ぱしっと言う音がしたその手には、さっきの剣が握られている。
ずん、と重い音に藁を見れば、上4分の1くらいがすっぱり切り落とされていた。
「お見事!」
誰かが声を上げた後、騎士さん達が一斉に拍手しだした。つられて、私と詩緒里も手を叩く。
椎奈は周りの賞賛に面食らった顔をした後、肩をすくめて私達の元に戻ってきた。
「こういうものだ。1度に多数を相手にするには便利だが、戻って来ないと丸腰になる。何より、正確に投げるには練習が必要だな。神門はこれにするのか?」
「……ううん、無理だと思う」
詩緒里が苦笑して首を振った。うん、こんな危ないブーメラン、やだよね。
その言葉に椎奈は軽く首を傾げたが、何も言わなかった。他の剣に目を移した後、1つを手に取る。
「なら、これはどうだ?」
日本刀に似た剣だった。でも日本刀より細いし、持つ部分が柄に向かっていくうちに少し細くなっている。
「苗刀、というべきか。日本刀より軽量で扱いやすい。使用目的も広い。割と扱いやすいとは思うぞ」
そう言って、椎奈は剣を詩緒里に手渡した。詩緒里は恐る恐る受け取り、何度か振った。見た感じ、振り回されている感は無い。
「うん、これなら出来るかも」
そう言って、詩緒里はほっとしたように笑った。椎奈が頷く。
「出来れば、さっきの剣と両方扱うと良い。神門の魔術属性は風だろう。魔術で操れば、かなり応用範囲の広い武器になる」
「あ、そっか。うん、やってみようかな」
詩緒里が感心したような声を上げる。私も、その手があったかと密かに驚いた。
「旭は決まったのか」
「ああ」
いつの間にか側にいた旭先輩が椎奈の問いかけに頷いて、手に持った剣を示した。やたらと柄の長い刀、と言えばいいのかな。私の選んだ薙刀を、柄を短く刃を長くすればああなる。
「……長巻か。考えたな」
いや椎奈、別に知識がある訳ではないと思うんだけど。
「少し振ってみたが、扱いやすい。これなら俺でも何とかなる」
「一般の剣術とは少し異なるが……まあ大丈夫だろう。薙刀術に近い」
そう言って、椎奈が頷いた。
私は薙刀、詩緒里は苗刀——って、よく分からないけど——、旭先輩は長巻——これも分からない——と決まった。詩緒里は投げ武器も一応手に取った。