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実力差

前半が詩緒里、後半が里菜です。

 4周目の後半、何だか急に疲れを感じた。


(ミキ、これ何?)

(魔術を使っているとはいえ、慣れない速度で走っていれば疲れる。時間に余裕はあるようだから、速度を落としても良いぞ?)

 ミキに訊いても単に疲れただけだということなので、もう少し頑張る事にする。理由は……一緒に走っていたいから。いいよね、そのくらい。


「詩緒里、大丈夫? 疲れてるよ。これでちょっと回復して」

 速度を落として私と並んだ里菜に、背中を叩かれた。途端、体が軽くなる。

「これ、何?」

「ユウの魔術。さっきやってもらったの。あ、旭先輩もどぞ」

 そう言って里菜が旭先輩の腕に触れる。

「助かる」

 ものすごく心のこもった言葉だった。普段なら、絶対に聞けないような声だ。



「アサヒ様、脱落です!」



 言葉と共に2度目の火の玉が飛んで来る。前より大きくなっていたが、大して近づく事も無く消えた。


「ああっ、魔術のクラスが上がったんですよ? 火傷くらいして下さい!」

 アドルフさんの側で治療を受けている騎士さん——私にアドバイスしてくれた人とは違う人——が、何だか切実な声を上げた。


「嫌に決まってる、よねえ」

「だね」

 里菜の言葉に、頷く。


「あのクラスの魔術を受ければ、古宇田も神門も、巻き込まれる。椎奈が怒るのだが、分かっているの、だろうか」

 旭先輩の心配はそっちだった。……うん、確かにそれは考えて欲しい。


「まあ、少し速度を、上げた方が良いか」


 旭先輩が呟くと同時に私達3人に等しく風が当たり、また少し早くなった。


「……流石にマズく、ありませんか?」

 良いのかな、と思って訊くと、旭先輩は簡潔に答える。

「駄目とは、言われていない」

「ですね。ありがとう、ございます」

 里菜がはっきりと頷く。まあ、いいよね。


「……何でも良いが、余り目立つな」

 その時、疲れたような椎奈の声が聞こえた。視線を巡らすと、目の前を駆け抜けてく細身の綺麗な後ろ姿。1つに結われた長い黒髪が風に流れて揺れている。


「……今、抜かれ、ました?」

「そのようだ」

 旭先輩の答えを聞いて、ミキに聞いてみる。


(ミキ、今私達のスピードどの位?)

(アサヒ殿の制限時間にギリギリ間に合うくらいだ。……巫女はどうやら、女子の制限の半分程度で走っておるようだな)


 ミキの言葉を2人に伝える。里菜は唖然とした顔。旭先輩は無表情なまま、小さく溜息を漏らした。


「えっと……術を使ってるん、ですよね?」

 里菜の言葉に、旭先輩は首を振る。

「いや」

「……術も使わないで、私達、抜かれたん、ですか?」

「神門。椎奈を常識の枠内で、捉えるな」

「……分かり、ました」


 椎奈との差、1週以上。しかも、こっちは魔術のハンデ付き。



 ……椎奈が私達に戦うの無理だって言った理由、分かった気がする。



******



 結局30分の間に、火の玉は合計4回飛んで来た。途中から旭先輩についていくのが楽だと知ってずっと一緒——詩緒里の為にちょっと離れたけど——だったから、1度も当たらなかったけど。


 ただし。忘れていた事があった。私達、風に押されてたとはいえ、男子のペースで走ったんだ。距離にして10週ちょっと、つまり、4キロ以上。


 それが意味することなんて、少し考えてみれば分かった筈なんだけど、さ。

 分かっていたって自業自得だって、覚悟していたって。


「き、きつい……」


 きついものは、きついんだ。


 ユウに回復魔術を5回に制限された——魔力の問題らしい——為、かなり疲れが残っている。

 更に言うとあの魔術、意外と効き目が小さい。1回目は良かったけれど、3回目からは少し息が楽になった、かな? 位。根本的な体力回復にはならなかった。

 トラックの端で座り込んで、もう10分。それなのに、未だ息がしんどい。

 走り慣れた私で、これ。詩緒里は途中で倒れたから、アドルフさんに魔術を掛けてもらってかえって元気だけど、旭先輩が隣でぐったりしている。


「……まあ、初めてでそれだけ走れれば十分だろう。1週間もすれば慣れる」

 ストレッチをしている椎奈がこちらに視線を向けて言った。


 ちなみに椎奈は、終わった直後こそ息が切れていたけれど、2、3分で回復してた。体力底なし……


「……椎奈、私達3人とも倒れると思ってたでしょ」

 じっとりした視線を向けて恨めしげに言うと、椎奈は涼しい表情であっさりと認める。

「古宇田はギリギリ行けるかどうか、と見ていた。まさか旭が走り切るとはな」

 さらっとそんな事を言う椎奈に、旭先輩の口から溜息が漏れた。文句が出てこないのは性格なのか、単に疲れているのか。両方かな。


「だが、旭。少しは詠唱の真似事をしろ。目立って仕方が無い」

「その余裕は無い」

「……普通は逆だ」

 堂々と言い切る旭先輩に、今度は椎奈が溜息をつく。


「……椎奈、魔術を使うなとは、言わないんだね」

 詩緒里が意外そうな声で言った。うん、それは私も思った。てっきり怒られるかと。

「実戦では、魔術を使って戦う。体を動かしつつ魔術を併用する良い練習になる。それに、ただ生真面目なだけでは勝てないからな」

 椎奈の言葉は、珍しく優しく聞こえて。疲れた体が、ちょっとだけ軽くなった気がする。



「しっかし、頑張ったなあ。最初そこの嬢ちゃんが泣きそうな顔をしていたからどうなる事かと思ったが、何の何の、根性あるじゃねえか」



 いきなり割って入った声に驚いて、ぱっと振り返る。椎奈と旭先輩は気付いていたらしく、無反応だ。


「あっ、アドバイスありがとうございました。おかげで怪我せずに済みました」

 詩緒里が頭を下げたのを見て、ああこの人が魔術使うの教えたんだ、と悟る。

「どういたしまして。……だがそこの兄ちゃんよ、どうやって火の玉防いだんだ? 魔術じゃねえよな? 兄ちゃんも嬢ちゃんも呪文唱えてねえし。どうやったんだ?」


 ……兄ちゃんって、旭先輩……だよね。

 確かに同じ高校生だし、この人多分40代くらいだし、間違ってはいないけど。うーん、ちょっとなあ。


「……彼らは魔術を知らない。契約主に魔力だけ流して、魔術を展開してもらっている。まだ訓練を一切行っていないからな」


 不意に椎奈が口を開いた。その内容に、あれっと思う。

「へえ……前の世界にゃ、魔術はねえのか?」

「こちらの世界では、魔術とは人間の意志を森羅万象に適用することによって何らかの変化を生じさせることを意図して行われる行為、その手段、そのための技術と知識の体系、およびそれをめぐる文化と定義されている。この世界のように、手から火を出したりというのも一応魔術と呼ばれるが、お伽噺上の代物だと認識されている」

「へ、へえ……」


 旭先輩の解説に、騎士さんが煙に巻かれて頷いた。うん、私もついていけなかった。それにしても旭先輩、まだ元気ですね。


「……じゃあどうして、精霊を介して魔術が使えるって知って、実行してんだ?」

「知識はある。そして今の訓練、私は魔術を使っていない」

 椎奈が肩をすくめる。椎奈、わざとそういう言い方してるよね?


「……そういやそうだな。それであの早さってのも驚きだが」

「走り慣れているだけだ」

 納得した様子の騎士さんに短く返して、椎奈は立ち上がった。ぴったりのタイミングで、アドルフさんの声が届く。


「休憩終わりだ。全員、集まれ」


「やれやれ、まだ続くんだよな……」

 騎士さんも立ち上がった。そのまますたすたと軽い足取りで去っていく。


「出来るかなあ……」

 自信なさげに呟きながらも、詩緒里がすっと立ち上がる。魔術のおかげで実に元気だ。


「何をしている、古宇田、旭。行くぞ」

 椎奈に促され、旭先輩は立ち上がったけれど、無理。

「……立てません…………」

 足が笑ってて、力が入らない。足だけじゃなく全身が重くて、とても立ち上がれない。

「……だから、直ぐに座るなと言ったんだ。ユトゥルナに魔術を使ってもらえ」

 呆れ気味にそれだけ言うと、椎奈は旭先輩とさっさと行ってしまった。



 ……いや、分かってたけどさあ。椎奈、鬼。



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