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食事時のバトル

 椎奈が昼食を食べないのは、諦めた。多分何を言っても聞かないだろうし。


 けど、けれどだ。もし貴方の目の前にいる友達が、朝はロールパン1個とスープのみ、昼は抜き、夜も一般的な女子高生が1度に食べる量の半分も食べていないとなれば、


「椎奈、それは少なすぎ! ちゃんと食べて!!」


 と言わずにはいられないと思うんだ。


「普段からこのくらいだ。別に我慢している訳でも食欲不振という訳でもないのだから、問題無い」

「……椎奈、その方がよっぽど問題あるよ」

 詩緒里の援護射撃を得て、更に言い募る。

「体に悪い。というかそれ、絶対栄養不足になるって。それでお腹が空かないの、絶対おかしい」


 私達2人がかりの攻勢にも、椎奈は動じない、取り合わない。


「栄養バランスは考えて食べている。必要最低限の摂取量は抑えてある。おかしいということはない」

「おかしいって! 私なんか、今日1日で椎奈の5倍以上は食べてるもん!」

「太るぞ」


(……それは禁句です! そんな真顔で素っ気なく言う台詞じゃありません。せめてこう、冗談めかせて欲しいと思うのですがどうですか)


 椎奈を見つめて心の中で声に出せない悲鳴という名の訴えを叫んでいると、首を傾げてこう言ってきた。


「どうかしたか? 余りが欲しいならやるぞ」


 一気に脱力する私を、椎奈は無表情で観察している。詩緒里の同情的な視線が唯一の救いだ。


 ちなみに旭先輩はというと、食事が始まってからは終始無言。私達の言い争いに至っては見て見ぬ振り知らんぷりだ。

 でも、私は気付いた。椎奈の食事が普段からこれ位と聞いた時、先輩がほんの少し眉を曇らせた事を。


 よし。第2ラウンドは、旭先輩に任せよう。


「旭先輩も心配でしょう? 何か言ってあげて下さい」


 そう声をかけると、旭先輩がようやく顔を上げた。何故俺に話を振るって顔をしているけど、当たり前だと思います。


 旭先輩特有の冷たい瞳が、椎奈を捉える。

「……魔力を保つ為にも、それなりに食事をとるべきだ」


 椎奈が意外そうな顔をして旭先輩を見た後、さらりと答えた。


「それは魔術師の話。私達術師は、寧ろ食事を絶つ事で霊力を高める。まあ普段は断食まではしないが、そこまで食事量が増える事も無い」

「詭弁だ。昨日からさんざん術を使っている。あれだけ霊力を使えば、補給の為に食事を摂りたくなって普通だと思うが」


 旭先輩が椎奈の主張をばっさりと切り捨てる。椎奈が肩をすくめた。


「あの程度、どうってこと無い。普段に比べれば少ない方だろう」

「探査、術解除、逆探査、アドラスの魔術の無効化、王への呪い、ユトゥルナへの攻撃、盗聴防止、地図、場の浄化。どこが少ない。相当霊力を消費した筈だ」


 私にはさっぱり分からない単語の羅列を抑揚無く一息で言い切った旭先輩に、椎奈が少し驚いた顔をした。


「……気付いていたのか」

「当たり前だ」


 割って入るのは無粋だと思う。2人の空気がそうと告げて来る。 

 けれど、もう我慢の限界だった。


「ちょっと待ってね、椎奈。どこから聞けば良いのか分からないんだけど」

「何だ?」

 2人の会話を整理してから、学校で質問する時のように片手を上げる。


「1、魔力と霊力の違い。2、魔術師と術師の違い。3、普通の魔術師達の使える魔術の量。4、なんか羅列された術? の説明。これを馬鹿な私でも分かるように説明願いたいのですが。詩緒里、何か追加ある?」

「無いよ。里菜、凄い」

 詩緒里が惜しみない賛辞を送ってくれた。ありがとう、頑張ったよ。


「……そうだな。明日からの訓練で説明するつもりだったが、今してしまおうか」

 そう言ってナイフとフォークを置こうとする椎奈を、私と詩緒里で慌てて止める。

「ストップ! 何そのまま誤魔化そうとしてるの!」

「椎奈、ちゃんと食べて。説明は食べ終わってからで良いから」

 私達の勢いに、椎奈はどことなく投げやりに言い返してくる。 

「だから、要らないと言っている」


 あくまで食べようとしない椎奈に、遂に実力行使を決意した。


「……ねえ、椎奈? 無理矢理口に詰め込まれるのと自分で食べるの、どっちが良い?」


 そう言って隣から身を乗り出してみせると、椎奈がうんざりした顔になる。


「何故そこまでして食べさせたいんだ……」

「食育は大事です」


 高校の家庭科の先生の言葉をそのまま借用すると、椎奈が溜息をついた。

「満腹だと言っているものを食べさせる事の、どこが食育だ。大体あれは、そういう意味ではないだろう」

「椎奈。おそらく古宇田は、何を言っても食べさせる気でいるぞ」

 思わぬ旭先輩の援護射撃に、大きく頷いてみせる。椎奈は私を睨みつけてから、旭先輩の方を向いた。


「そう思うなら、止めて欲しい。正直迷惑」

「断る。椎奈の食事量は、どう考えても少ない。明日から術の練習をする気なのだろう。その調子では体を壊すぞ」


 ここに来て、椎奈が今日1番の大きな溜息をついた。そして、やっとの事で食事を再開する。



 勝った!



 ……いやまあ、諦めたんだろうけれど。味方無しだもんね。

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