久しぶりのおしゃべり
部屋に戻ると、サーシャさんが待っていた。
「お帰りなさいませ、コウダ様、カンド様、シイナ様、アサヒ様。昼食はいかがなさいますか?」
そう聞かれて、もうそんな時間なのだとようやく気が付いた。
虚構世界に行っていた間にどれくらいの時間が経っていたのか全く分からないのと、さっきまではそんな事を意識する余裕が無かったのとで、どうも時間感覚が狂っている。
でも、言われてみれば確かにお腹が空いた。
いただきますと言おうとしたけれど、椎奈の方が先だった。
「古宇田、神門、先に食べていろ。私は旭と話がある」
返事も待たずに旭先輩の腕を掴み、椎奈に割り当てられた部屋へと向かった。
「えーっと……」
2人っきりで話があるというのは、何の不思議も無いんだけど。どうもこう、付き合っている男女の雰囲気が無いのは、どうなんだろう。
「里菜、どうする?」
詩緒里に聞かれて、我に返る。
「食べててって事は、椎奈の事だから時間が掛かるんでしょ。素直に食べてよっか。お腹空いたし」
「……里菜、最後のが本音だね?」
図星。付き合いが長いせいで、詩緒里に建前とかごまかしは通じない。私もその方が楽なんだけどね。
「それでは、おふたりの分を先に用意させていただきます」
苦笑気味のサーシャさん。だってお腹空くじゃない!
「「お願いします」」
詩緒里と言葉が重なり、思わず顔を見合わせて苦笑する。
それにしても……
椎奈は、旭先輩に何の話なんだろう。何となく、さっきの神様の事が関係している気がするけど。
あのときの椎奈の顔は、目に焼き付いている。強い衝撃を受けたような、そして、どこか痛そうな、顔。
心配だし、いろいろ聞きたい事はあるけれど、きっとそれは立ち入ってはいけない話。椎奈が話してくれるまで、待とう。
「そう言えば、椎奈の首飾り、綺麗だったね」
不意に詩緒里にそう言われ、急いで記憶を掘り返す。
ほとんどが物騒な椎奈とあの時の蒼白な顔で占められた記憶の中に、見慣れない、暗めの色の石を数珠つなぎにした首飾りがちらついた。確か、旭先輩と同じようなクロスがついていたはずだ。
「うん、椎奈によく似合ってた」
それは確かだ。大人びた椎奈に、あの首飾りはよく似合う。それを言うなら、旭先輩のクロスなんて、イメージにぴったりすぎて怖いけど。
そう言うと、詩緒里に苦笑された。その頬はやや赤みが差している。姿を思い出して赤くなるなんて、本当に純情だなあと思う。
ただ、それは口にしてはいけない事だ。だから、さりげなく話題を変えた。
「ねえ、午後はどうする?」
「うーん、城内を見てみる?」
「あ、良いね。じゃあ——」
お昼——スープとパン、サラダ。どれもあっさりめで、日本人の私には合う——を食べながら、詩緒里と予定を話し合った。ドアの向こうではどんな話をしているんだろうと、思いを馳せながら。