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 情報の共有が終わった丁度その時、椎奈が足を止めた。それに合わせて視線を前に向けてみれば、小さな厩。しかも、魔術の気配を感じる。


「何ここ?」


 さっき俺に会って少しして、彼女がいつもの街歩きを終えた事には気付いていた。毎日同じルートだ、終着点くらい知ってる。てっきり椎奈は、それを終えたらさっさと宿に帰ってると思ってたんだが……何してんだ、こんなとこで。


「いつも寄ってる」


 答えになってない答えを返して、椎奈が厩の部屋の1つに足を向けた。首を傾げつつも付いて行くと、純白の毛並みが目に入る。自然、足が止まった。



 夕陽を弾いて輝く白銀の毛、馬に似た姿形。角は無いが、神聖な空気は隠しようもなく。椎奈を認めた青い瞳が、無邪気に純粋に、喜びの色に染まっている。



「って、おい」

 思わず待ったをかける。それを無視してその生き物に近付いていく椎奈に、もう1度声をかけた。

「何故に神獣がここにいる」

「……契約したから。ここに来る途中で」

 どこか渋さの混ざった声でそう答えるが、んな簡単に契約出来るか。


 もう1度その神獣を見直す。うむ、どう見ても立派なユニコーンである。


「何でそうなった」


 確かにユニコーンは乙女には懐きやすいというが、そもそもエルドからスーリィアに来る道のりの中で、ユニコーンがふらふらしてるとは思えないんだが。


「成行き」

 淡々と答えながら、椎奈は胸に抱えていた包みを解き、中身をユニコーンに差し出す。嬉しそうに顔を近づけているのを見ると、どうやら餌だったらしい。


 餌をユニコーンが食べている間、椎奈は手短に「成行き」とやらを説明してくれた。それを聞いた俺の感想はただ1つ。


「なんというテンプレ」

「てん……、何だ?」

「主人公補正は椎奈にも適応されてたのか……」

「……たまに小崎は、よく分からない言葉を口にする」

 怪訝な視線を向けてくる椎奈は、そりゃあラノベなんか読まないんだろうが。俺にはそれしか言葉が思い付かんのもまた、無理も無いというものだ。


 そんなアホなやりとりの間に、椎奈は餌をやり終え、ユニコーンをブラッシングし始めた。

 かなり気持ちよさそうに目を細めたユニコーンが、これまたかなり嬉しそうに、頬擦りしたり頬を舐めたり。椎奈も「よせ」とか言いつつ、それに答えるように首の辺りを撫でてやっていて。


 本人的には宥めているだけなんだろうと分かってても、なんつーか……うん、癒される。


 とその時、ユニコーンが顔を上げた。俺と目が合った途端、全身を逆立て警戒の姿勢を取る。位置取りは椎奈の後ろだけど。隠れてるように見えて可愛いけど。


 ……余計傷付くぜ。


「何この怯えっぷり……」

「危うく売り飛ばされるところだったからな、警戒心が強い。それに、一角獣が男性には懐きにくいのは知っているだろう。……昴」


 す、と視線をユニコーンに向けると、椎奈は青空を切り取ったような瞳と視線を合わせた。


「彼は、敵じゃない。昴を害したりしない」


 静かに言い聞かせて、軽くその頭を撫でる。ユニコーンは少し首を傾げて、椎奈をじっと見つめる。


「……明日、この街で騒動が起こる。結界は強化するつもりだし、出来れば様子を見に来たいけれど、厳しいと思う。危険を感じたら直ぐに逃げてくれ」


 ユニコーンは首を振った。椎奈を見つめ、訴えるように服を引っ張る。その様子は、一緒にいたいと言っているように見えた。


 椎奈もそれは同じだったらしく、少し間を置いて、静かに語りかける。

「それは無理だ。私は戦えるけど、昴にはまだ無理だろう。契約については何とかするから心配するな。昴に負荷がかからないようにするから」

 先程より更に激しく首を振るユニコーンは、きっと分かっているんだろう。



 ——椎奈がこう言うって事は、彼女にも危険があると。



 それを心配して残ると主張しているのに、椎奈はユニコーンが、契約破棄による反動を心配していると思っている。


 ……いや、他の可能性を、あえて排除しているのか。



「椎奈」


 名を、呼んだ。名乗られた時から違和感しか感じない名に、椎奈は迷わず振り返る。

「ここなら安全だ。椎奈もそう思ったから、ここを選んだんだろ。結界強化するなら協力すっから、好きにさせてやれよ」

「この世界の神獣を殺す結果を背負う覚悟があって、言っているのか」

 鋭い口調、見る者を凍り付かせる眼光。それに真っ直ぐ向き合って、静かに告げた。

「殺すとしたら、それは魔物や魔族だ。椎奈の魔術を破れるのは魔族だけ。そして、魔族はこの街に入れない。そうだろ?」


 それは、俺達の計画の要だ。実行者である椎奈が疑っていては、俺達は何も出来ずに明日を終えてしまうだろう。この街が魔族に支配されるという、最悪の結果と共に。


「信じろよ。ここで椎奈がぶれてちゃ、事は始まらん」

「それは、分かっている。だが……」


 そこで言い淀む椎奈は、何か確信に近いものを持って、ユニコーンに危険が及ぶ事を恐れている。けど、その理由を言わないのだから、計画自体の欠陥ではないだろう。


 だったら、俺は。根拠も無い恐れなんて、計画の邪魔にしかならないと判断する。判断して、叩き潰す。


「椎奈がぶれるなら、俺は1人で行動する。けど、計画を俺1人でやるのは無理だ。魔力切れで死ぬレベルで魔術使ったって、多分出来ん。かといって、ここまで来たら秀吾連れて逃げる事も叶わん。そうなったら、俺は高確率で死ぬ」

 自分で言ってて情けない程に、自分が何も出来ない事を、堂々と告げる。椎奈が無表情で聞いているのが気になったが、そのまま続けた。

「俺は死にたくないから、迷われちゃ困るんだよ。椎奈がぶれたら、俺は死ぬしかない。でも、椎奈がやる気なら、全力で支える。——どうなんだ?」


 言ってから、内心笑った。何とまあ、ずるい言い方をした事か。



 ——不安を抱えている人間に、自分の命を背負わせて死地に蹴り出す。今俺がしたのはこれだ。



 けど、俺が、そして、椎奈が無事明日を乗り越える為には、こう言うしかない。見限られたら、明日までの付き合いだったと割り切るだけだ。



 陽が沈み、世界が青く染まっていく。深く明瞭な青色の中、椎奈は俺に切れ長の黒い瞳を真っ直ぐ向け、良く通る声で答えを返した。



「——ここで臆病風に吹かれて多くの命を犠牲にする程、私は愚かじゃない。やり始めた事位、自分で終わらせる。……そこまで言ったんだ、足を引っ張ったら蹴り飛ばすぞ」



 それを聞いた俺の口に、自然と笑みが浮かぶ。それを少しおどけたものに変えて、わざとらしく答えた。

「おー怖え。せいぜい貴女様のお邪魔にならないよう、全力を尽くさせて頂きますよっと」

「……馬鹿馬鹿しい」


 溜息混じりに切り捨て、椎奈はユニコーンに向き直る。


「また明日」

 その約束に瞳を輝かせるユニコーンをひと撫でして、椎奈は踵を返した。

「戻るぞ」

「おう」

 目もくれずに告げられた言葉に軽く応えて、椎奈が結界を強化するのを手伝ってから、共に宿に戻った。



 ——さてと。明日、魔族どもの馬鹿げた目論見を、全て叩き潰してやる。覚悟しやがれ。



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