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休養

 試合後俺達は、椎奈の護衛のベラに強制的に休養を取らされた。


「治癒魔術で傷が癒えても、身体へのダメージは消えません! 寝なさい!」


 俺や椎奈がいくら大丈夫だと主張したって聞きゃしねえ。特に椎奈は街を歩きたがっていたんだが、押し切られる形で部屋に下がった。俺はボローニに部屋に押し込まれた。


 ま、疲れたっちゃ疲れた。ここんとこ能力は使いっぱなし、試合ではどんな状況になっても能力使えんし、魔術も制限されてる。その上、拳術もあんま使えない事が多くて、もどかしいというか何というか。

 という訳で大人しく横になって、惰眠を貪った。あっという間に眠りに落ちて、目が覚めたら日が傾き始めてんだから驚いた。それもまだ眠気が残っているという。どんだけだ。

 だがしかし、明日は決勝。これ以上眠っていると夜眠れなくなりそうだし、一旦起きる。どうせギルドに顔を出すつもりだったんだ、さっさと用事を済ましちまおう。


 怠さを訴える身体を無視して、ベッドからのそりと起き上がる。適当に身支度を調え、ふらふらと宿を出て、南の商業都市を目指し歩き出した。


 商業都市を牛耳っているのはギルド本部だ。税を国に納めてはいるが、自治団体である商業都市の治安を担当し、ほとんど彼等が治めている。


 世界各地にあるギルドの総本部は、流石にでかい。建物も立派で、大聖堂と同じレベルの大きさじゃなかろうか。

 といっても、ごてごてとした彫刻が彫られまくっているわけでもないし、内装もシンプルだ。金を持っても権力があっても冒険者気質は抜けきらん、ってか。そういう所はわりと好きだ。


 んな事を考えつつ、ギルド内を進んでいく。割と入り口近くにある、ギルドのメンバーしか利用出来ない魔法アイテム売り場に真っ直ぐ向かい、そこにいた店員に声をかけた。


「よ。ちっと聞きたいんだが、いいか?」

「おう、オズか。こないだのは役に立ったか?」

 茶髪に緑の目のオッサンは、そういえば侵入アイテムな魔道具を買った時も店員をやっていた。オッサンが薦めてくれたあれは本当に良いものだったので、今回も行けるかもしれん。

「ああ、すげー便利だった。で、また欲しいもんがあるんだが……」


 言いながら、そういや寝る前椎奈に一旦幻術解かせたっけ、と今更思い出す。実は霊力——よく分からんが、魔力とは違うらしい——の使い過ぎできつかったから抜刀術で決着を付けようとした、なんて事情を知った俺達が、こぞって出来る限りの魔術を解かせたのだ。彼女がもう起きたかは知らんが、どのみちかけ直してもらっていない。だからこのオッサンにも俺が「オズ」と分かったんだろう。



 ……そーいや、顔を変えた状態でオズって名乗って試合出てるが、大丈夫かおい。



「オズ? どうした?」

「あ、悪い。なんでもない」


 一瞬不安に駆られて言葉が途切れたためか、心配そうに声をかけられた。慌てて意識を切り替え、話を続ける。


「えーと。魔道具でも魔法具でも良いから、特定の魔術を無効化するもんが欲しい」

「特定の? 何の魔術だ?」

「……他言無用で頼む」


 金を渡しながら前置いて、頷いたオッサンに声を潜めて説明する。それを聞いたオッサンは、思いっきり顔を顰めた。


「オズ、お前……その類の依頼を受けたのか。あれは聖職者や魔術師に任せておけば良いんだぞ」

「いや、こればっかりは俺がやる。で、あるか?」


 きっぱりと言い切る俺に覚悟を見たのか、オッサンは深い溜息をつく。


「ああ……まあ、一応。ただ、魔道具だし、わりと高いぞ」

「げ……」


 懐具合を確認。例の魔道具購入で結構飛んでった上、最近依頼もあんまり受けず。魔道具の「割と高い」は半端無いし、これはちっと厳しいか……。


「懐寒くしてまで、オズが受けないといけねえのか?」

 本気で悩み出した俺に、オッサンが声を低くして聞いてくる。それにはっきりと頷くと、オッサンは何故かにやりと笑った。

「普段飄々としてるオズらしくもねえな。何だ、女絡みか?」

「……あってるような、違うような」


 いや確かに椎奈の手を煩わせたくない、という意味では女絡みなんだが。このオッサンは恋愛沙汰だとでも思っているんだろうし。それは違う。


「ふーん? まあいいや。じゃあ、ツケといてやるよ。今度依頼受けた時に報酬から差し引くようにしておく。どうだ?」

 にやにやしつつもそう言ってくれたオッサンに、素直に頭を下げる。

「そうしてもらえると助かる」

「ああ、任せろ。色々と頑張れよ」

「だからそれは違うって……」


 結局誤解を解けないまま、俺は魔法具を受け取り、おっさんと別れた。


 別の買いもんを済ませ、情報部にちょっと寄った後、ギルドを出て夕暮れの王都へと戻る。宿への道の途中、慣れた気配を感じて視線を巡らせた。

 いた。やっぱり椎奈だ。腕に何かを抱えて早足で歩く彼女は、考え事でもしているのか、俯き気味のまま俺に気付かず歩いて行く。視界に入っていないとはいえ、尾行中にあっさりと気付いた椎奈らしくない。


「よ、椎奈」

 声をかけると、素早く身を翻し俺に向き直る。警戒を浮かべた黒の瞳が俺を認め、ふっと瞬いた。

「小崎か」

「珍しいな、気付かないなんて。まだ本調子じゃないんか?」


 心配になって聞いてから、当たり前かと思い直す。怪我に加え、霊力の限界。ただでさえ霊力と演算能力の多くをこの街に持って行かれているってのに、無茶しすぎだ。


「いや、それは眠ったから大丈夫だ。少し考え事をしていただけ」

「考え事してたからって、俺に気付かんのはらしくないぞ。ただでさえ無茶し気味なんだから、休んどけって」

「余計な世話だ。小崎は自分の役割だけ考えてろ」

 心から心配して労った言葉への返答は、叩き付けるようなもので。明らかな拒絶が込められたそれに、内心溜息をついた。


 ……このお嬢さん、何でこうも頑なに人を寄せ付けんのかね。


 うすうす気付いちゃいたが、椎奈は自分に向けられる感情を意図的に偏らせている。好意や気遣いは力一杯拒絶してんのに、相手の悪意には無関心っつーか、当たり前のように受け入れている感がある。

 言動で敵意を煽ってまで遠ざけようとする様は、どこか不自然だ。人を嫌っている訳でもないのに、何でこんな事をするのかと。


「あ、役割で思い出した。ギルドから情報持ってきたぞ」


 けれど、これ以上の干渉なんて互いに望んでいない。俺はそれ以上何も言わずに、話題を変えた。変に真面目な椎奈は、素直に乗ってくる。


「ギルド?」

「ああ。最初の日に言ってただろ、ギルドが気付かないのはおかしいって。で、俺なりに調べてみたんだが、どうも最近城側からの干渉が強いんだとよ」


 噂の村を襲う魔物の調査依頼とか、国が委託する魔物の討伐が増えたとか。良いようにこき使われる上、商業都市の運営やら治安やらに口を出してくるしで、気を抜けば国に支配されかねん状況らしい。


「ギルドは独立団体であってこそ価値がある。けど、ギルドの力が大きくなり過ぎてんのも事実でな。商業都市もここ十数年でかなり力を付けてきてる。膝元にんな爆弾抱えてられっかさっさと言う事聞かせちまおうってのが、王城側の本音だろう。これがギルド側の認識だ」

「……成程。そうやって目を逸らしていたのか」


 椎奈が頷く。俺と同じ推測に辿り着いたらしい。


「多分な。敵は海千山千の貴族と王族、ちっとでも気を抜けば根こそぎ利益を持っていきかねん。全力で対応せざるを得ない状況になっちまえば、まあこんな現状には気付かんわな」

「……もしかして、今回の闘技大会、ルール変更や規模の拡大があったのは」

 気付いたか。言わんでも良いかと思ってたが、気付いたなら隠す意味は無い。

「十中八九、王族側が力を入れたからだろうな。ギルドは今回、あんま運営に関われなかったんだと。あの様子だと、始まるまで何も気付かんだろうな」


 勇者枠を作りたいからと、あれこれ口出ししてきたらしい。王族側との共同運営とはいえちっと干渉が過ぎたなあ、あれも乗っ取り計画の1つか、何て情報部の奴がぼやいていた。


「そうか……。まあ、敵でなかっただけ良しとするか」


 これ程厳しい戦いで、かなり大きな戦力が当てにならないと分かっても、椎奈はぶれない。どれだけ心が強いのか。俺でさえ、この計画を示される前は、いつ秀吾を連れてとんずらするかしか頭に無かったというのに。


 椎奈は、間違いなく強い。心も、それを支える技術や知識も、桁外れに。



 ——けど。



 心の中の言葉を完結させないまま、俺は椎奈に相槌を打つ。

「だな。これ以上敵さん増えるのは勘弁だぜ」

 おどけて言えば、椎奈は肩をすくめるだけ。本当にノリが悪い奴だ。


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