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天災

 その日の夜。ふらりと部屋に姿を現した小崎は、少しやつれて見えた。


「お邪魔しますよっと」

「……いやに疲れていないか?」

 おどけた物言いも、どこか力無い。指摘してみれば、小崎は苦笑を浮かべる。

「言ったろ、能力を続けて使うとめちゃくちゃ疲れるって。城と大聖堂に侵入した時にかなり使ったからな、いつも通りって訳にはいかねえんだよ」


 魔力を使わない能力の代償はそれか。納得して頷いたが、それはそれでどうかと思い、眉を寄せた。


「そんなに疲れるのなら、今日1日で無理にやる必要は無かっただろうに。城はともかく、大聖堂は出来るならと言っていた筈だ」


 小崎は私の言葉に一瞬目を見張り、何故かにやりと笑う。


「へえ、心配してくれたんか? お優しい事で」

「明日の試合に影響するからな。何より、計画に支障が出ては元も子もないだろう」


 何を当たり前の事をと怪訝に思いつつ答えると、小崎は何故か笑いを噛み殺すような仕草を一瞬見せてから、片手を挙げた。


「ナルホド納得。あんたなりの計算、って訳ね」

「……ああ」


 どこか意味ありげな物言いに、少し気分が揺れる。どこか不快なそれを無視して、ただ頷いた。


「さーて、ではご報告と参りましょうかね」


 私の反応に何か見出したらしく、小崎が満足気に切り出す。一体どういうつもりだったのか問い詰めたい気もしたが、報告の方が間違いなく重要だ。居住まいを正し、小崎の言葉を待つ。


「まず、城の様子は、ほぼ噂と推測通り。操られて不審な行動を取ってんのは王様だけみたいだ。王太子がそれをカバーしているらしいぜ」


 その言葉に、思わず顔を顰めた。小崎も嫌悪を抱いているのは同じらしく、唇を歪めて頷く。


「王の不審な動きに乗じて利益を狙う小物なアホ貴族もいるみてえだが、あれはほっといていいだろ。寧ろ、正義感に溢れた人間が動き出した方が怖えな」

「分からなくはないが……怖い、か?」


 確かに、魔族もこちらも計画を進めている現状で第三者が介入して事態がややこしくなるのは少々迷惑が過ぎるが、怖がる程の事だろうか。小崎は計画が完璧に進まないと動けなくなる性格には見えないのだが。


「怖いさ。そいつらが動き出すだけなら良いけどよ、今この国には、「悪を倒す正義の味方」、勇者様ご一行が集まってるんだぜ?」

「……どのみち、対処は同じじゃないのか?」


 勇者だろうと騎士だろうと王を排除しようという動きは同じだろうし、魔族達がその混乱に乗じて一気に計画を推し進めるのも同じだろう。こちらもそれなりに準備は進んでいるし、さして大きな問題ではないと思うのだが。


 けれど小崎は至極真剣な、否、深刻な顔で首を振った。

「椎奈は秀吾を知らんから、んな事が言えるんだ。仮にあいつにそういう話が回ってみろ、まじで目も当てられんぞ」

「……そうなのか?」

 これは、今日の午前に彼の姿が見えなかった事を、今伝えるべきだろうか。何故かそれが躊躇われて、そのまま続きを促す。


 小崎は深刻な顔のまま頷き、重々しくも恨めしげに言葉を紡いだ。


「いいか。世の中にはな、いくら計算してもどんなに完璧な計画を立ててもあっさり覆してくれやがる、絶対にどうにもならんイレギュラーな存在ってのがいるんだよ。さんざ引っ掻き回して計画をめちゃくちゃにしやがった挙げ句1番良い所だけを掻っ攫っていきやがる、そんな理不尽な野郎がな」


「…………」


 知っている。それはもう嫌という程、そういう存在は記憶に居座ってしまっている。一応罪はなく敵でもない人間相手に殺意を抱きそうになったのは、人生において奴だけだ。

 あれと同じ種類の人間がここで関わってくるとは予測していなかった。一気に不安が押し寄せてくる。


「……瀬野は、あの手の人種だったのか」

「おう。善意の塊が無自覚にやらかすんだぞ、たまったもんじゃねえ。……って、椎奈もあーいうイキモノに遭遇した事があるのか?」

 意外そうな顔をしている小崎から目を逸らし、息を吐きだした。

「ああ。……無自覚ではなく、完全に故意犯だが」

「……それはそれで嫌だな、おい」


 私の言葉に顔を引き攣らせた小崎だったが、直ぐに我に返り、頭を掻きむしる。


「って、今はんな話をしてる場合じゃなかったな。話を戻して、とにかく秀吾の介入は最後の最後まで避けてえ。分かるだろ?」

「そうだな。……だが、少し手遅れかもしれない」

「は!?」


 目を剥いた小崎に、今朝瀬野が護衛ごといなかった事を伝えると、分かりやすく青醒めた。


「やべえだろそれ、ぜってえやべえ……」

「午後の試合には出ていたが。やる気に満ちた様子で戦い、勝利を収めていた」


 報告の順序もあったものではないがそう告げると、小崎は本格的に頭を抱えてしまう。


「……ああ、現実逃避してえ……」

「それで事態が解決するなら良いが、悪化していくばかりだろう。それほど深刻になる情報がまだあるのか?」

「……敵さんは、決勝戦でコトを起こす気らしいぞ。表彰式にそれがずれ込んで、秀吾が暴走したら……」


 表彰式は決勝の直ぐ後に行われ、王自ら健闘を称えるという。そこで義憤に駆られた瀬野が王へと何らかの行動を移すつもりで、その為に試合に真剣に取り組んでいるとしたら。


「その後の展開が全く読めない状況になりかねないな。闘技場で下手に動かれたら、今までの準備が全て白紙に戻りかねない」


 さてどう計画を調整すべきかと頭を巡らせる私に、小崎が半眼を向けてくる。


「冷静だなおい」

「覚悟を決めただけだ」


 瀬野は奴程に厄介な存在ではないだろうが、同じ人種ならばある程度の計画の崩れは仕方無い。ならば、計画の根本を崩されない様に策を弄すしかない。


「割り切ってるな……まあ、椎奈の言う通りだ。だとすると、1番怖いのは、やっぱ闘技場のだよな?」

「ああ。……となると、少し計画を早めるか」


 話しながら組み立てた改案を、小崎に話す。今まで1度も発言していない護衛達もきちんと聞いている事を確認しつつ、変更点とそれに繋がる結果を説明した。


「あー、まあ、そんなもんか。ちっと難しそうだがな」

 話を聞き終えた小崎は、眉を寄せ、あまり気乗りしない様子だ。彼の能力なら無理ではないと思うのだが。

「連携を取りながら少しずつ、だな。小崎の感覚があれば、大丈夫だろう」

「いや、決勝の相手が秀吾だったら怖えなと」

「……まあな」


 午後の試合の様子を見る限り、その可能性が高い。だがそれは、不可避の天災と捉えるしかないものだ。


「出来る限りを尽くすしかないだろう。とにかく、準備してきたものが全て水の泡とならない事だけに全力を向ける」

「……あんた、秀吾と同じイキモノだって言うそいつに、相当苦労させられたんだな」


 同情的な視線と口調で労われたが、幼馴染だという小崎よりは苦労が少ない、筈だ。1度あたりの被害規模は、ほぼ間違いなくこちらが上だが。


「それに関しては、思い出したくもない。それより、大聖堂の方はどうだったんだ?」

 思わぬ天災の登場に気を取られて、大聖堂の様子を聞いていなかった。計画を先に立ててしまったが、そちらの状況次第では、微調整が必要だろう。


 唐突に話題を変えてしまったせいか、小崎の返答は一拍遅れた。


「……ああ、あっちか。大体あんたの予想通りだったよ。計画通り、塔の前でいけそうだ。それから、高位の神官が嫌なもん纏わせてたから、あいつらは魔族側だな。後の連中は、魔術をかけられてた」

「魔術?」

 オウム返しに聞き返すと、小崎ははっきりと頷く。

「気付かん訳ないだろ、聖火がひでえ状態なのに。けど、全く気付いてない。なんつーの、見るべきものが見られないような感じだ」

「魔法ではないのか?」

「いや、魔術だな。王様に感じたような嫌な気配はなかった」


 きっぱりと言い切る小崎だが、やはり先程の返答の間が引っかかる。話題の変更に戸惑ったにしては、やや不自然なものがあった。嘘をついても隠してもいない、けれど、言っていない事がある。そんな気がするのだ。


「他には?」

「いや……特には」

「……小崎?」


 はぐらかすような物言いに、自然、声が低くなる。小崎は困った顔をして、両手を肩の高さに挙げた。


「悪ぃ、言えねえんだ。聞かないでくれるか」


 その言葉や表情には偽りがなく、本当に言えないのだと訴えかけてくる。その真摯さに、問い詰めても駄目だと悟った。1つだけ確認する。


「……作戦上、問題無いのか?」

「俺が責任取って対処する。それじゃ駄目か」


 真剣な目。作戦に支障を来しかねないと分かっていてなお譲らぬその瞳に、私は頷くしかなかった。


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