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召喚者達

 窮屈な式服から普段着に着替え、部屋の外に控えていたダニエルも交え、めいめいが椅子に腰掛けた。



 取った宿は、簡素だが十分な広さがある。こうして4人が一部屋に集まってもまだ余裕があるのだから相当だ。浴室等も部屋を分けて完備されているし、この世界ではかなりの好条件と言える。


 安全性やプライベートもそれなりに確保されているようだし、長期間滞在する訳でもないから、不便はないだろう。



「さて、どこから話したものか……」

 ぽつりと零してから、視線をホルンに向けた。

「ホルン。あの勇者達について、何か知っているのだろう?」


 メイヒューとボローニが困惑の視線を向ける中、ホルンは冷静に頷く。


「我が国以外で召喚を行った2国の勇者達です。他の国は、それぞれ国内の猛者を勇者としていますが、エルド国、ガレリア国、ケネド国は異世界の人間を勇者としております。……よもや、全員が同じ世界から召喚されていたとは思いませんでしたが」


 眉根を寄せるホルンに、肩をすくめて見せた。


「同じ世界どころか、同じ国だな。異なる召喚魔術を使っているのか?」

「ええ。召喚の魔術は秘術として各国の王室に連綿と受け継がれ、魔術師によって研究されているそうです。ただ、本当に異なる魔術なのかは、実際に見せ合ったわけでは無い以上断言は出来ませんが」

「まあ、可能性は限りなく高いな」

 国によって微妙に魔術に癖があるようだし、同じ集団が研究していない以上、別物と化すのは間違いないだろう。



 ……そこまでして異世界に執着する理由が、私にはどうしても分からないのだけれど。



「それで、彼等の護衛のどこが引っかかった?」


 尋ねた途端、ホルンの表情が妙に不機嫌なものになる。


「……ケネドの神官は嫌いです」

「……それは、お前の個人的な感情でか」


 まさかの子供じみた返答に、軽く目を眇めて問うた。そんなどうでも良いものだったのだろうか、あの視線は。


 けれどホルンは、問いかけに首を振る。

「それもありますが……あの国はかなり教会の力が強く、神官が我が物顔で政治に口を出します。神の名の下に、自分達の利益になる事を平然と行う、腐敗の進んだ連中です」

 それを聞いたボローニが、腕を組んで口を開いた。

「それは、私も聞いた事がありますね。最近立位した王が、その流れを断ち切ろうと動いていて、神官達も必死だとか。今回の召喚も、神殿の面子を賭けたものでしょう」

「成る程。吉野は勇者と言うよりも、政治の駒として召喚されたか」


 私達の世界でも、王国史を見れば、珍しくもない話だ。エルド国とて、御しやすいと判断すれば、私達を駒として利用し尽くすつもりでいる。


「それは、もう一方のガレリア国の勇者様と、護衛である神官も同じでしょう。あの神官は、おそらく巫女です。ガレリアには神の降りる御座が存在しますから」

 ホルンの言葉に、瀬野に熱い視線を送っていた少女を思いだした。身に纏う空気も清浄なものだったし、彼女が巫女なのだろう。そこまで思い出し、ふと疑問が生じる。

「……巫女が、勇者と共にいて良いのか? 危険もあろうに」

「ですから、駒なのです。旅に出したのは、巫女を筆頭とした神官達の力を疎ましく思う者達。巫女に何かあれば勇者の責任とし、勇者の後ろ盾となっている連中に詰め寄るつもりなのでしょう」


 馬鹿馬鹿しいと言わんばかりのホルンの言葉に、メイヒューが何かを言いかけたが、ボローニが制した。2人の様子は無視して、続ける。


「ホルン。つまりお前は、利用されているだけの巫女よりも、手段を選ばないだろうケネドの神官を警戒しているのか」

「ええ。あの子が怯えていたのも、そういった国の事情に理由があるのではと思っています」


 嫌悪を隠す事なく言い切ったホルンは、おそらくそれとは別に私情を抱えている。「嫌い」という言葉以外には何も言わない以上、こちらに関わる事ではないのだろうから、どうでもいいけれど。


「そうか。まあ、彼等も余所の国で迂闊な真似はすまい」

 そう結論づけて、話題を変えた。



「ところで、お前達は噂について、どう思う?」



「……国王の御乱心、ですか」

 途端に表情の硬くなるメイヒューとボローニ。ホルンも彼等程ではなくとも、厳しい表情を浮かべている。

「やはり、妙な気配は感じましたね。側近の方々も、空気が固かったですし」

「何かを——王が暴走するのを警戒している、そんな雰囲気でした」

 メイヒューとボローニが意見を述べる。ホルンも同意なのか、無言で頷いた。


「シイナ様はいかがでしたか?」

 メイヒューに反問されたが、ここは首を横に振る。

「私の結論は、まだ出せない。気になる事はあるけれど、はっきりとした確信がないからな」

「そうですか……」


 表情を暗くする3人に、溜息をついた。どうにも彼等は、事態が悪化すると直ぐに深刻に捉えがちなのが困りものだ。


「明日は開会式のみという事だから、ゆっくり街中を歩く時間もあるだろう?」

「はい」

「なら、明日中には結論が出せる筈だ。これ以上話しても発展はない。そろそろ休もう」


 そう告げると、彼等は少し表情を緩めて頷き、一礼して部屋を去った。


 1つ息をついて、寝台に歩み寄った。懐刀だけを枕元に置き、装備を解いて寝台に横になり、目を閉じる。



 瞼の裏に浮かぶのは、パーティで会った少年少女。際立つ容姿を持ったあの2人は、酷く真っ直ぐな瞳をしていた。


 瀬野は、この戦いに立つ心は定まっていても、その残酷さを本当の意味で理解していない。どこか夢の中のような感覚なのだろう。死ぬ事はないと楽観視していなければ、あんな気楽な雰囲気にはなるまい。



 そして吉野は、古宇田や神門と同じだ。戦いに対して恐怖と躊躇いがある。



 古宇田や神門には、まだ猶予がある。旭やサーシャに任せてあるから、帰るまでには腹が決まっているだろう。

 彼女達には、時間が、ある。……けれど。



 吉野には、時間が無い。誰も待ってはくれない。周囲にとって、彼女は駒の1つでしかないのだ。上手くいかなければ、「代用品」を探すだけだろう。

 そして不幸にも、彼女はそれを察している。護衛と銘打って監視されている事にも気付いているのだろう。彼女の精神は、おそらくぎりぎりの状態だ。



 ——あの状態で、戦場に立つ事を強制されたならば。


 彼女は、戦えない。いや、戦えないのなら良い。


 もし、辛うじて保たれているだろう精神の均衡が、一気に傾いたら——



 その時、霊力の波動が生じた。咄嗟に顔を上げると、見覚えのある金色の魔法陣。


 直ぐに身を起こして、それに手を伸ばした。意識を集中して、無事到着した事を思念で送る。


 魔法陣は相槌を打つように1度明滅して、ふっと消えた。


 1つ、息をつく。タイミング良く現れてくれた魔法陣に感謝しつつ、再び体をベッドに沈めた。



 一方が他方に簡単な現状を告げる、魔法陣。今はまだ、この距離を超えて会話するものを作れなかったと言って、旭はこれを示した。


 簡単な報告だけはして欲しいと、真剣な声で言われて。心配なのだと訴える彼に負けて、頷いた。


 予定通りに街に辿り着いた事を告げた以上、次は出発予定日に魔法陣が来るはずだ。



 ……頼まれた時には、何を大げさなと、思ったのだけれど。



 目を閉じる。僅かに漂う霊力の残滓を心地よく感じている自分に、失笑が漏れた。



 たった、2週間。それだけの、短い間なのに。旭の言葉が理解出来てしまう、自分がいて。



 あの静かな眼差しが、力強い声が、無性に懐かしい。



「情けない……」



 独りは、慣れているのに。当たり前だった、筈なのに。

 この数ヶ月、意図せずずっと側にいて、想いをぶつけ合ったせい、だろうか。



 ——いつの間にか、彼といる事が当たり前になる程に。旭に依存してしまった自分の愚かさに、自嘲するほかない。



「本当に、私は、馬鹿だ……」



 心を寄せてはいけないと、あれほど言い聞かせたのに。もう手遅れになっている自分は、本当にどうしようもない。



 ……いつか私は、この過ちの報いを受けるのだろう。出来ればそれは、私のみに降りかかってくれればと、切実に願う。



 ——どうか、旭を、傷付けないで下さい。


 彼が傷付くくらいなら、彼を失うくらいなら、この身を、この命を、いくらでも差し出すから。


 だから、どうか——





 ——この手を握ってくれる人を、朱で彩らないで下さい。


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