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捕縛

新年あけましておめでとうございます!

 放ったダガーを回収した後、視線をメイヒュー達へと戻す。丁度彼等も片付け終わったらしく、こちらへと駆け寄ってきた。


「シイナ様! 貴女のお強さは存じておりますが、1人で突撃なさらないで下さい!!」

 開口一番、メイヒューが言う。護衛を置いて討伐へと赴いた事が納得出来ないらしい。あの程度で後れを取るはずもないのだが。


「……何だ、どこかの御貴族様なのか?」

 メイヒューの敬語に、槍使いの青年が尋ねてきた。面食らったように瞬く彼に、首を振ってみせる。

「いや、そんな立派なものではない。それより、貴方達は冒険者か?」

「ん? ああ、勿論。依頼を受けてここにいる」


 当然と言えば当然の返答を聞き、視線を彼の青い目から外して彼の後方へと向ける。



「なら、良いのか? もたもたしていると、逃すぞ」



 その言葉にはっとした表情を浮かべた彼らは、素早く身を翻した。

 青年の隣の少年が魔術が発動し、逃げようとしていた馬車のグループの退路を茨が塞ぐ。


「投降しろ。任務より、命が大事だろう?」



 険しい口調で脅す青年への返答は、巨大な氷の塊だった。高々と浮かんだそれは、私達の頭上に位置を固定した。



「ちょっとでも動いてみろ、そいつを落とすぞ! 魔術を発動しても同じだ」

 破れかぶれの魔術でそう脅してくる、あちらの護衛だろう男に、青年は冷めた声で答えた。

「やれるもんならやってみろ」



 そう言うと同時に、背の高い女性が風を起こした勢いを利用して宙へと飛び、レイピアと魔術を併用して氷を切り刻む。そのまま風を操って、細かくなった氷弾を敵へと向けた。


 丁寧に狙いを付けられた無数の弾は、的確に的に的中する。


 足を貫く激痛に地を転がる彼等を、魔術師の少年は蔦で彼等を拘束した。



 呻き声を漏らす彼等を冷めた目で見やり、青年は馬車へと駆け寄り、ドアを開けて中の男を引きずり出す。


「騎士団からギルドへ依頼があった。不法取引を行っている現行犯だ。大人しく連行されろ」

 必要があれば彼等の動きを補助するべく弓を構えていた壮年の男性が、厳しい口調で告げる。引きずり出された中年の男性は、憤慨した様子で喚いた。


「貴様等! 私を誰だと思っている!! こんな無礼な真似をして、ただで済ますと思うなよ!」

 弓使いの男性の言葉を全く聞いていないその高圧的な言葉に、青年が深く溜息をついた。


「勿論知ってるさ。トテサル商会長、マクベス=バルドー殿。1年前に前会長が事故で亡くなり、商会をあんたが仕切るようになってからというものの、きな臭い噂ばかり流れるようになった。今日の『商品』は何だ? 魔物の被害を覚悟してでも仕入れた上物みたいだけど、いい加減国も見て見ぬ振りを出来なくなったみたいだな。ま、今までの罪状含めてきっちり法に裁かれるが良い」


 そう告げて、彼は中年の男——バルドーを拘束し、自分達の馬車へと押し込んだ。後から弓使いの男性が見張りとして続く。



「さて、後はそいつ等だな。どうしたものか……」


 そう言って青年が青い目を向けた先には、バルドーの護衛をしていた冒険者達。視線を受け、先程攻撃しようとしてきた男が口を開く。


「俺達はあくまで護衛任務を全うしただけだ。それも、ギルドを通した正式な依頼だぞ。攻撃したこっちに正当性はある」

 冷静に正論を述べる彼等に、青年はやや態度を和らげた。

「……じゃあ、ギルドまでついてきてもらおうか? ギルドの依頼なら、依頼書もあるんだろ。バルドー殿の引き継ぎをする時、お前等の事も説明しなければならないしな」

「ああ、構わない」



 それまで私は、やりとりを黙って見ていた。これは彼等の仕事だ。私達が口を挟む必要も無いし、彼等もそれを求めていないだろうから。



 が。



「……その依頼書、見せてはくれないか」

 口を開いた私に、全員の視線が集まった。肩をすくめて言い足す。


「何、単なる興味だ。ギルドの依頼書とやらを、見てみたくてな」

「んだよ、御貴族様の道楽か? ほら、ちゃんと本物だよ」

 眉を顰めながらも、警戒する事無く紙切れを差し出してきた彼と、目を合わせる。それを読み取って、確信した。



「……依頼を受ける時、報酬以外の利益の申し出があったのか。今回の『商品』とやらに関係が?」



「なっ!?」

 彼等の顔色が変わった。それを見た青年の表情が、再び引き締まる。


「それ、本当か?」

「ああ。さっきの彼の発言には、余裕と同時に言葉に隠蔽があった。秘密裏の取引だったのだろう、黙っておけば証拠はない。ただギルドに引き渡せば、不当な依頼を通したギルドの責任として、違約金をもらえる。そんな下心が透けて見えた」



 言葉には、力が宿る。一定以上の術師なら、その力の色である程度の真偽を読み取る事が出来るものだ。相手の目を見れば、その効果は更に上がる。だからこそ、サーシャに取り憑いた魔物の偽りを、国の意思を読み取れた。そして、それは今も同じ。



「……よく分かるな、そんな事」

 驚いたように瞬く青年に肩をすくめて見せ、奴らの馬車に目を向ける。


「それで、お前達が法を犯してでも欲しかった『商品』とは、何だ? ここまでのリスクを負ってでも欲しいものなど、なかなか無いだろう」

「……何のことだ!」

「換金性の高いものか。魔道具や魔法具の原材料となる金属でも盗掘したのか?」


 私を真っ直ぐ睨み付ける、学ばない彼の言葉から、金の成る木、という印象を受けたのでそう聞いてみると、彼の顔に恐怖が宿った。


「お前、化け物か……?」

 その呟きを無視して、馬車に近付く。鍵代わりなのだろう、入り口の所に描かれた魔法陣を解除して、扉を開ける。



 途端に漏れ出たのは、澄み切った空気と、生き物の気配。


 外から見えないよう覆いをしている為、随分と暗い馬車の中、一対の瞳がこちらを見つめているのを感じる。


 そこから伝わるのは、怯えと戸惑い。


 余りにも無垢で純粋であるが故に、強い感情の波が伝わってくる。



「……私は敵じゃない。けれど、少し待ってくれ」

 そっと声をかけ、それ以上刺激しないように、もう1度馬車の外へと降りる。



 目の合った護衛に、憚る事無く蔑みの視線を向けた。

「成るほど。確かに儲け話、なのだろうな。あの商人はおそらく、どこかへ売り払った金の1部を譲るとでも言ったのだろうが、お前達の目的は違うのだろう?」



 本当に、下らない。己の欲を満たす為だけに他者を虐げる。それだけでも反吐が出るが、彼等が手を出したのは、神聖で、穢れを知らないもの。


 それがどれだけ汚らわしい行為か、彼等は全く分かっていない。



「……殺して、素材として売り払うつもりだったのか。それは高く売れるだろうな。稀少な上に、効果は折り紙付きだ。一生遊んで暮らしてもおつりが出るほどの金が手に入る」

「…………」


 黙りこくっているが、目を見れば分かる。私の言う通りの未来を思い描き、渇望している事くらい、力が無くたって読み取れる。


「国が動くはずだ。貴様等がやったのは、国の威信、いや、存亡に差し障りかねない愚行。覚悟しておけよ。犯した罪は、貴様等が思うより遥かに深い」

 告げた言葉に、彼等は一瞬で青醒めた。しかし、次の瞬間にはふてぶてしいまでの開き直りを見せる。



「さっきから一体何の話をしてるんだ、あんた。俺達はギルドを通した依頼を受けただけで、商品の内容までは知りようが無い。どうやらやばいものだったみたいだが、何も知らなかった俺達には関係ない。そうだろ?」


 証言は私の発言1つ、何も証拠が無い。だからこそ押し通せると思っているようだが、それは甘い。


「愚かだな。かの生き物の密輸に関わったという時点で、十分すぎるほどの罪だ。大体、知らなかったなんて言い訳は聞かない。長距離の移動だ、定期的に外に出してやらなければ死んでしまう。その間1度も目にしないなどありえない。……それに」


 そこで、魔術師の少年に目を向ける。深緑色の瞳と真っ直ぐ目を合わせ、問うた。


「騎士団が関わるほどの犯罪において、尋問は真偽を見分けられる人間がつく。彼等の嘘など、簡単に見破るレベルの魔術師が担当になるはずだ。違うか?」

「いえ、貴方の言う通りです」

 少年がはっきりと頷く。その目に宿る真摯な光を確認して、私も頷き返した。


「貴方達に任せる。私がするのはここまでだ。……かの生き物の、処遇は?」



 これだけは確認しておきたくて、少年に尋ねると、彼の視線は槍使いの青年に向けられる。つられて彼の方を見ると、彼は困ったように笑った。

「まあ、俺達も専門家って訳じゃないし、ちょっと心配ではあるけど……何とかするよ」



 言葉はやや頼りないが、きちんと仕事をやり遂げるという意思をはっきりと感じた。これなら、大丈夫だろう。


今年も椎奈達を宜しくお願いします。

今年中に完結……出来たら良いなあ。

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