6.ドキッ!トラウマだらけの遊園地!
「蓮チャン蓮チャン。明日の遠足、オレはどうしても女のコと一緒に歩きたいワケよ。どうせ蓮チャンは兎と行くんだろ?なあなあ。どうやればお前みたいにパパッと女のコゲット出来るワケ?」
愛兎は三日程で退院し(俺が休んだのは一日だけだったが)、彼女にとっては久々の学校。
四月も終わりに近づいており、ゴールデンウィーク目前であった。
そんな中突然、見た目はチャラ男、中身はオタクな早崎 俊からこんな事を言われた。
「……色々ツッコミどころ満載なんだが、とりあえず一つ、遠足って何だ?」
「あー、そういえば蓮チャンその時休んでたんだっけか。あのねえ、この学校は毎年遠足に行くらしくて、ホントは七月にある予定だったんだけど、今年は校長の気まぐれで明日になったんだって」
「大丈夫かこの学校?」
「校長死ぬべきね」
何時の間にか俺の隣にちょこんと座っていた愛兎は何やら物騒な事を呟いている。
まず俺が女をパパッとゲットできるような人間に見えるのか。別に髪など整えてないし、年中やる気ないし、どうみても根暗です本当に以下略的な俺が。
「大体俺は一切何もしてない。コイツが勝手に告白を……」
「お前、首吊りかギロチンどっちがいい?」
「だって愛兎よぉ。俺はチャラ男ポジは嫌なんだよぉ」
愛兎は俊に向き直ると、
「大体アタシは蘭と行くからこんなグズ奴隷なんかと行くワケないでしょ少しは考えろこの低能民」
愛兎の罵倒に慣れていない俊は物凄い勢いでテンションが下がっていく。ふむ。俺はこの程度の罵倒じゃ全く動じない程耐性ができてしまった。
ここで俺はある重大な事に気付いた。
ーーーもしかして、どんどんドMになってね?
「うわあああ!!」
SはあってもMだけは絶対ヤダ!誰が好んで痛いのに快感を覚えねばならんのだ!
いや待て。別に罵られて気持ちいいワケじゃない。ただ単に罵倒に対してのスルースキルを身につけただけだ。かっこ良く言えば愛兎の扱い方を覚えてきたんだよな!そうだよな俺!
落ち着きを取り戻した俺はコホンと一つ咳払いをしてから本題に戻る。
「……ところで遠足ってドコ行くんだ?」
「ああ、こないだオープンしたばかりの、『セントラルサイドパーク』!世界でも有名なめっちゃ怖いジェットコースターがあるんだってさ!」
セントラルかサイドかどっちかにして欲しい名前だがそれどころではない。
ジェットコースター……だと……
俺は小学生の時にジェットコースターに乗り、途中で失神して泡吹いて笑い者になった黒歴史を持つ。
それ以来ジェットコースターなんて乗り物には乗った事がない。
もちろんこんな恥ずかしい話誰にもしたくない。
しかしこのままでは悪魔の乗り物に乗らされてしまう。
「お……俺は高いトコ苦手だし……ちょっとジェットコースターはパスかなぁ……」
よくぞそれらしい言い訳を言えた俺!自分にご褒美としてスーパーでいつもより値段がワンランク上の卵でも買って帰ろうか。
愛兎は一人ドヤ顔してる俺を覗き込んでまるでゴキブリを見るように顔をしかめると、
「アンタ、何か黒歴史があるでしょ」
ニヤついたまま俺はフリーズした。何で普段グズでノロマでドジなチビ兎はこういう無駄な時に無駄な勘を発揮するのだろうか。
「ねーよ」
絶望的に言い訳が下手な俺は下手に弁解しようとすると逆に墓穴を掘るので、シンプルに返事する。
「これは何としてもコイツをジェットコースターに乗せないと……!」
何故か愛兎は目をキラッキラに輝かせている。
あ、ヤバい。俺死んだかも。
「お……お前蘭と行くんだろ?俺なんかに構ってないでさ……」
今回だけは愛兎から離れたかった。コイツは黙ってる時しか可愛くない。
「いいなぁお前ら仲良くて」
そこへ空気の読めないオタクが口を挟んだ。
「テメェこれのどこが仲良さそうに見えるんだ!テメェの目は節穴か!?」
「低能民は目も腐ってるのね。かわいそう。もうアンタ死んだ方が幸せかもよ」
「ひ……ひどい!蓮チャン段々兎に侵されつつあるよ!」
うわぁぁん、と俊は泣き崩れてしまった。
「とにかく、俺は絶対乗らないからな!」
「ス○ーピー燃やすわよ」
「うっ……いや待て。今回はスヌー○ーを捨ててでも乗りたくないぞ……」
激しい争いを繰り広げる俺の中の天使と悪魔。
『蓮よォ……○ヌーピー燃やされるくらいで済むならそれで我慢しろよなァ』
『待てよクソ悪魔。あの女が燃やすだけで満足するとでも思ってんのか。どうせ燃やした上でジェットコースターに無理矢理乗せられるに違いねえ』
何で天使の方が口悪いんだ。
そして俺に選択権はないじゃないか。
そして。