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嗚呼 紫陽花 (全四話)  作者: TAMAKI
4/4

4.そして、教会

 神戸駅でタクシーに乗り込んだ耕介


「お客はん。どちらまで参りましょ?」


 その時、その脳裏には聡のこのような言葉が


『シェルだよ、シェル教会! ここ間違えたら洒落にならないよ!』

 

 そして運転席に向かって


「えっと、シェ、シェル教会まで」




「ここかあ。にしたって、綺麗な教会だなあ」


 純白な建物に、思わず目を見張っている耕介。無論、そんな余裕なんぞないはずだが。


「一応、確認しなくちゃ」

 こう思った彼氏、近くに見えたシスターに近づき


「あのう、今ここで里村千尋さんの結婚式が開かれていると?」


「ええ、そうですが」

 ここで相手が、胡散臭そうに


「それで、おたくは?」


「あ、はい。千尋さんの恋……友人の者なんですが」



「では、この扉から中へ。式の途中ですから、とにかくお静かに入ってください」


「ど、どうも」


 軽く頭を下げ、すぐに扉のノブに手をかけた彼だったが――

 緊張して思わず力が入ったのか? はたまた、蝶番の手入れが行き届いているせいなのか?

 とにかく、思わぬ大きな音で扉が開かれてしまった。


「汝ハ、コノ男性ヲ生涯ノ伴侶トシテ……ンン?」

 いきなりの轟音に、丸眼鏡をかけている神父が目まで丸くし


「ア、アンタ、ダ、誰ヤネン!」


 予想しない出来事に一瞬固まっていた耕介だったが、それでも気持ちを強く持ち


「も、戻って来い……」


 眉をひそめ、これを見ている花婿


「何か言ってるみたいだけど、声小さいから聞こえん!」

 そして、すぐに青ざめている花嫁に気づき


「あれ、キミの知り合いかい?」


 これに白いドレスをまとっている、美しき花嫁が――これが案外、キッパリと


「ううん……見た事もない人!」



「そっか、じゃあ何でここに?」


 花婿が首を傾げている間も、どんどん足早に近づいている侵入者


「も、戻ってこい。千尋……」


「お、おい? あいつって、キミの名前、呼んでるぞ?」


 そう、相手に尋ねられた花嫁


「え?」

 そして咄嗟に


「あ、そう言えば昔付きまとっていた男に似ているわ!」


「ス、ストーカー野郎か? あ、危ないやつだな!」


 そこの単語に過敏に反応した神父までもが


「ス、ストーカーヤロウ? ミ、皆サンで捕マエルンヤ!」


 この掛け声に、耕介目がけてジワリジワリと歩み寄る列席者たち。


「ゾ、ゾンビかっ?」

 それにたじろぐ彼だったが、そこは依然として気持ちを強く持っていた。


「ぼ、僕はそこにいる千尋の……」

 

 だが、これを遮り


「ストーカー、ヤロガッ!」

 いつの間にか先陣を切っている神父、一言だけ


「オオ、神ヨ! ドウゾ、オ許シヲ!」

 そう天を仰いだ後、いきなり強烈な蹴りを一発かましてきたのである。


「コイツメガッ!」


「ぐわっ!」

 一旦膝をついた彼だったが、そこは気持ちの持ちよう、再び体勢を立て直し前進を始め


「ち、千尋……」


 そんな哀れな男を眺めている花嫁、さすがにそこへ向かって口を開き―-だが、声には出さず


「こ、の、ま、え……ら、す、と、ちゃ、ん、す」


「な、何って言ったんだ? き、聞き取れないし?」


 だがこの時ゾンビに一斉に囲まれ、押しつぶされてその姿が見えなくなってしまった侵入者。

 しかし強い思いにより、その隙間から、何とか頑張って伸びてきた右手一本。先にいる花嫁の手を何とかつかもうともがいてはいたが――やがてそれも力尽き、床の上にだらんと投げ出されてしまった。


 そして、それを確認した神父


「フン。デハ、捨テマショウ!」



 その後、フルボッコ状態で外へと放り出された部外者。すでにボロ雑巾と見間違われるくらいまで、その様相が変わってしまっている。

 そして無論、とっくに気持ちも折れていた。


「ぼ、僕が悪かったんだ……な、何一つも気づいてやれなかった、この僕が……」


 何とか這いながらも、待たせているタクシーに近づいた耕介。

 そして乗り込もうとしたところ、ルームミラーから運転者が目を光らせてき


「お客はん、血い出てますやん! 車が汚れるから乗らんどいてや!」


 そしてお客さんを振りほどくように、さっさと走り去ってしまった。


「う、うそ?」

 精根尽き果て、再び地べたに横たわった耕介。その顔に踏んだり蹴ったりの、よもやの


「え? あ、雨?」


 まず天を仰ぎ、そして恨めしそうにすでにいないタクシーの方に目をやった、その時――彼の、塞がる一歩前の両目に入ってきたのは


「嗚呼、紫陽花……かあ」


 それはピンクではなく、誰かさんの心を表してくれたような――そんな寂しげなブルーだった。 完


*すべての優柔不断な草食系男子に捧げました。by TAMAKI

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