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嗚呼 紫陽花 (全四話)  作者: TAMAKI
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2.仲間

「おい、コースケ! 今日三回目だぞ!」


 いきなり正男から怒鳴られた耕介


「え? な、何?」


「またミスったって! つか、自分でも気づかないのか?」


「あ」


 これに、ベースの聡もニヤニヤしながら


「千尋ちゃん、来てるんだろ? ははあ、さては何かあったな?」


「ま、まあ……ね」


 だが、そんな歯切れの悪いギタリストにボーカリストが


「何があったのかは知らないけど、そんなんじゃ困るからさ」


「ゴ、ゴメン、正男」

 責任を感じる耕介、ポケットの中からクシャクシャのものを取り出し


「こ、これが部屋の中に残ってて」


「何これ?」

 すぐに、それに目を通した相手だったが


「おまえ、ふられたのか?」


 それに、脇から聡も便箋を覗き見て


「ホ、ホントだ」


「確かに彼女の言うとおり、『長すぎた春』だもんなあ」


 いつのまにかドラムの龍二もやってきた。


「なあ、コースケ」

 再び、相手の顔を見ている正男


「これって、要はその見合いの相手と結婚するって事だろ?」


 だが、これには聡が代わりに


「そら、どう見たってそうだよ。なあ? 龍二?」


 そう尋ねられたグループ随一のクールな男。頷きながら


「ああ、そうとしか思えないね」


 ここで正男が


「で、どうする気なんだ? コースケ?」


「ど、どうって……」


 そんな耕介の様子を見た聡。


「相変わらずギターのカッティング同様、歯切れがよろしくない模様で」


「そ、そんなあ」


「しかしな、コースケ」

 龍二が顔を近づけ


「その手紙を持ち歩いてるって事はな、未練がある証拠だぞ」


「み、未練……そうなるのかなあ?」


 だが、正男がきっぱりと


「あのなあ、未練があろうとなかろうとな、そんなんじゃ困るんだよ」


 再び、これに頭を下げる耕介。


「ゴメン」


「謝るのはもういいからさ。白黒ハッキリしろよ、な。バンドの事を思ってさ!」


「バンドの事……」


 この時


「なあ、コースケ?」


「ん? 何? 聡」


「オレさ、一応みっこのメアド知ってるんだけど。聞いてみようか?」


「聞くって、何を?」


 これに呆れ顔の聡


「はあ? 千尋の結婚式の日取りやら、場所に決まってるじゃん! 親友のみっこなら知ってるはずだろ?」


「あ、ああ」


「ああ、って。で、どうする?」


 これに少々考えた耕介。自分自身でも決心がつきかねている。

 やがて


「……聞いてみて」




 結局練習もままならないまま、喫煙ルームで煙草を吸っている耕介と龍二の二人。

 そんな龍二が、フィルター付近まで燃えている煙草を見やりながら


「値上げしてからっていうもの、シケモクばかりだ」


「あ、ああ」


「なあ、コースケ?」

 ここでようやく、灰皿に煙草を押し付けた龍二が


「正男は、ああ言ってるがな。あれでもさ、おまえの事を心配してるんだよ。ま、不器用なやつだからな」


「そ、そっか」


 そして立ち上がった相手。


「おまえら二人が『長すぎた春』なら、俺たち四人なんてさ、『超長すぎた春』になるんだぞ」




「あ、戻ってきた!」

 二人の姿を認めた聡が


「なあ、いっその事、煙草やめたら?」


 これに笑っている龍二。


「人間やめますか? 煙草やめますか? ……俺なら、前者を採るな」


「なるほど、ね。あ、そうそう、コースケ」

 聡が、彼に顔を向け


「みっこから聞いたよ!」


「そ、そっかあ」


「んもう、もう少しくらい喜べよ! だから、おまえさんのギターは感情表現がイマイチなんだぞう」


「い、言いたい放題だなあ」


「おっと失礼。でさ、場所は神戸の教会らしいよ」


「神戸……」


 兵庫出身を当然知ってはいるものの、やはり新鮮に聞こえる言葉だった。


「で、挙式の日は来月の十日!」


 これに正男の方が、本人よりも先に驚き


「六月の十日だって? もう二週間もないぞ?」


「あ、ああ」


 すぐに龍二も続き


「それだけ、彼女も切羽詰って確認しに来たんだろ?」


「そうなるなあ。まったく、コースケって罪な男だよな」


 この聡の言葉には、何も言えない耕介。



 早速、ネットカフェにて作戦会議を開いている仲間三人。

 マウスを動かしながら


「どうせ金がないんだから、ここは深夜バスがいいんじゃない?」


 この聡のアイデアに、龍二も賛同し


「お、妙案だ。朝目覚めたら、到着か」


「そうだよ。片道六千五百円だしね。ま、あいつが寝れたらの話だけどさ」


 これに笑い出した正男


「ハハハ、あいつなら心配要らないぞ。で、それって神戸駅前に着くのか?」


「そうだよ。そこから教会へはっと……シェル教会、シェル教会……お、神戸駅から地下鉄で三十分だね。式は十時からだから、余裕余裕」


 一人話進めている聡を見ながら、龍二がポソッと


「シェル教会ねえ。抜け殻が貝殻目指して行くわけだな」


「あはは、うまい!」


「でもなあ」

 ここで正男が仲間二人を見やり


「あいつに何と言わせる?」


「それはもちろん」

 声色も変える聡


「ここはオーソドックスに『戻って来い! 千尋!』じゃない? そんな映画もあったし」


 すぐに龍二が反応した。


「『卒業』だな。フッ、まともに卒業もできないのに」


「それはお互い様だろ」

 こう言った正男だが、すぐに首を傾げ


「あいつって、そんな台詞が言えると思う?」


 ご本人をよそに、話はどんどん進んでいく。


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