第9話
「教会にお参りに行きませんか?」
ローズの話を聞いた4人が黙っていると彼女が言った。5人揃った今、新しい啓示があるかもしれない。
「そうしよう。新しい啓示があるかもしれないぞ」
ラッセルが立ち上がるとローズを入れて5人、そしてマーサとベンジャミンも立ち上がる。皆で建物を出ると島の一番高い場所にある教会に足を向けた。
今まで訪れた教会と違い、この場所はスタンピードを免れていることもあって建物も綺麗だ。中に入ると綺麗な女神像も綺麗なままで傷一つない状態で立っていた。島民が毎日掃除をしているのだろう。全員が女神像の前で跪いた。
『全ての光が集まり大きくなりました。旅立ちの時です』
カイルの頭の中にその言葉が流れ込んできた。
祈りを終えるとラッセルが言った。
「全ての光が集まり大きくなりました」
彼がそこまで言うとその後を5人全員が口を揃えて言った。
「「旅立ちの時です」」
「よろしくお願いします」
ローズがそう言って頭を下げてから言った。
「たぶん私が一番年上だと思うの。でもだからと言って敬語は不要。これからは皆仲間なので年齢は関係ないから。私も普段の口調で話をするわ」
彼女の提案に皆同意する。彼女なりに気を使っているのだろう。
全員が再び最初の建物に戻ってきた。ここは領主の館で普段ローズはここに住んでいる。
席に着くとラッセルが代表して今の大陸の事情を目の前に座っている3人に説明する。スタンピードは数ヶ月で終わり、今は魔獣は大陸のあちこちに生息はしているが集団になって街を襲ったりはしていない。
「あんた達がやってきた島の向かい側の陸地の様子はどうなっている?」
ベンジャミンが聞いてきた。
「俺たちが来た時は島を見つけてからここに来るまでの間、魔獣には合わなかった。静かだったよ」
彼によると島の畑や果樹園で食べ物は摂れるがそれ以外に対岸というか陸地側でも柵を設けてその中で作物を育てたいのだとう。それによって今以上に食料に余裕ができるのと、うまくいけば野生動物を倒して肉を手に入れたいそうだ。
「カイル、お前なら出来るんじゃないかな」
「ああ。問題ないな。俺が土魔法で壁を作る」
カイルが言うと本当か?とベンジャミンが言った。
「難しい仕事じゃない。土魔法で周囲を囲む壁を作るのでその中で畑をやればいい。そこから森の中にいけば鹿や他の動物がいるから狩りをすればいいだろう」
陸地側に新しい場所を確保することは決まった。それをやる前にこれからの予定について5人で相談をする。ローズは今領主としてこの島を見ているが、皆と一緒に島を離れることになるので後任者との引き継ぎが必要だ。
「妹のマーサに仕事を引き継いでからの旅立ちになりますので10日ほどかかるんだけど大丈夫?」
「問題ないんじゃないか。ここに来て10日やそこらで状況が変わるとも思えない」
「カイルの言う通りだ。10日にこだわらずに、しっかりと引き継ぎをしてから出発しよう」
次は4人が持ってきた装備関係の「鑑定」だ。ローズが鑑定スキル持ちなので自分たちにとって価値のあるアイテムを絞り込むことが出来る。会議室の上に4人が魔法袋の中から次々と武器や防具、アイテムを取り出しては並べていく。
「すごく沢山あるのね」
テーブルの上に山積みにされた装備を見ていたローズが声を出した。
「とりあえず持っていこうと片っ端から魔法袋に詰め込んだからな」
テーブルの上に山の様に積まれた防具やアイテムを1つずつ見ていくローズ。
「私の装備もこの中から選んでもいいんだよね」
「もちろん」
これとこれは同じだとか、これは違うとか言いながら分けていくローズ。
「この杖の方が効果があるわ。2本あるからカイルと私はこちらの杖の方がいいかも」
「じゃあ交換だ」
「スミスはこの片手剣の方がいいわ」
「分かった」
こんな調子で1時間程で鑑定が終わった。各自が装備を更新し、かつ予備の装備を持ってもまだ多くの装備がテーブルの上に積まれている。各自の装備が更新された。これでチームの戦力がアップされたのは間違いない。装備以外にアイテムも鑑定できた。体力の腕輪はスミスが装備し、魔力の腕輪はローズが身につける。指輪は遠隔攻撃力アップの指輪だった。もちろんレミーナが装備する。カイルは自分のはないが気にしていない。その代わりに良い杖を手に入れていた。
「俺たちが使わないこれらの装備はこの島に寄付していこう」
「ありがたい。武器や防具はいくつあっても困らないからな」
ベンジャミンが礼を言った。
4人はこの領主の中にある空いている部屋を4部屋割り当てられた。元々使っていない部屋だそうだ。
「野営ばかりだったからこれは天国だぞ」
ラッセルが言っているが皆同じ感想だ。久しぶりにシャワーを浴びて食堂に移動するとこの島で摂れた魚や野菜、果物がテーブルの上に置かれている。ローズとマーサ、そしてベンジャミンと4人の7人がテーブルを囲んでいた。
「1年以上ぶりのまともな食事だな」
「魔獣の肉も悪くはないんだけど、やっぱり新鮮な野菜や魚が食べたいよな」
「フルーツもすごく美味しい」
食事をしながら今度はカイルがメインスピーカーになって、スタンピードから今までどうしていたかを話していく。カイルがランカウイの港町で騎士達にあったところから西に移動してラッセルと会い、女神の啓示に導かれて山の中の街でレミーナとスミスの兄弟に会ってこの街にやってきた。移動途中の村や街の女神像に祈りを捧げながら進んで来たという話をするとローズとマーサが目を伏せた。
「大変な苦労をしてここまでやってきたんですね」
「肉体的な苦労よりも本当に啓示が合っているのか。そこに人がいるのか。そっちの方がきつかった。正直何度も止めようかと思ったよ」
その時を思い出していうカイル。ラッセルも大きく頷いている。
「俺は自分がいた街で啓示を聞き、そのまま南下してグランデの街でまた啓示を聞いてずっと待ってた。カイルが来た時は心底安心したよ」
「私たちもそうよ。生まれ育った山の中のロベルソンの街の教会にある女神像から『南から私達を照らす光がやってくるでしょう』という啓示を信じてずっと待ってたの。いつやってくるのかまでは啓示では教えてくれない。弟と2人で本当に来るのかしらと毎日毎日心配しながら待っていたわ」
「俺は仲間を探すために街を出たらどうだと言ったんだが、姉貴が啓示を信じて待ちましょうと1年と数ヶ月の間じっとそこで暮らしていた。カイルとラッセルがやって来た時、姉貴が正しかったんだと感心したよ」
女神の啓示、それだけを心の拠り所にして辛い日々を耐えてきた4人。ローズも啓示に従って待っていたとはいいながら彼女は安全な島で他の住民達と一緒に暮らしたいただけだ。前に座っている4人の様な苦労は何もしていない。
私だけが楽をしている、何の苦労もしていない。そう思っていた彼女だがその心の中を読んだのか、カイルが言った。
「俺たちは苦労したがそれはローズだって同じだ。ずっと待っていてくれたのだからな。それにだ、大事なのは今までの事じゃない、これからだよ。こうして5人揃った。女神は敵を倒しに行けと言っている。今までの苦労なんて苦労じゃないと思えるほどの苦難が待ち受けているだろう。でも女神様が俺たちを選んだというのは何か意味があるはずなんだ。俺はこれから先、苦難が続く道であっても前に進もうと思う。それが啓示や能力を授けてくれた女神に対する自分たちの使命だと考えている」
「その通りだ。これからが本当の試練だ。ローズにも理解してほしいのは、ここで5人揃ったからすぐに黒幕を倒せると思わない事だ。俺たち5人のチームワークを高めてチームとして今以上に強くならないと黒幕は倒せない。なので黒幕を探しながらこの5人の連携を高めて強くなる鍛錬するつもりだよ」
ラッセルが言うとその通りだと言ったローズ。
「全員が同じ方向を向いて戦わないとダメだということね」
彼女の言葉に4人が大きく頷いた。




