第8話
最初はただの島だと思っていた4人だが近づいていくと全員の表情が変わった。その場で皆立ち止まると目の前の景色を見る。
「島に建物があるぞ」
「しかもここから見る限り破壊されていない」
ラッセルとカイルが言った。
「本当だ。どうして?」
4人が見ている先、海岸線からそう遠くない所にある島には建物が見えているが、遠目に見る限り破壊されてはいない。浜辺から島に向かって海の中に砂の道が伸びているのが見えた。
「行ってみましょう」
「当然だな」
それから2時間後、4人は海岸から沖の島まで伸びている砂の道を歩いていた。砂の道の長さは1Kmくらいか。島に近づくとその島が難攻不落の要塞の造りになっているのに気が付く。
目に見える限り、海面から5メートル程の高さまで島の周囲は硬い岩場になっており、その上にさらに3メートルほどの高さの石垣の城壁が島を囲む様に作られている。砂の道の終点、島の入り口は緩やかなスロープになっており、その先に頑丈そうな鉄の門があった。今はしっかりと閉じられている。
「こんにちは、誰かいますか?」
門の前まで来たところでラッセルが声を出した。返事がない。
「人の気配はあるな」
周囲を見ていたカイルが言った。レミーナとスミスは2人の背後で黙って立っている。
「ああ、どこからか様子を見ているんだろう」
「こんにちは、誰かいますか?俺たちは怪しいもんじゃない」
ラッセルがもう一度声を張り上げた。今度は対応があった。門の上に1人の騎士が顔を出した。年齢は30代だろうか。厳しい表情で門の上から4人を睨みつけてくる。
「お前達、どこからやってきた?」
「俺たちは教会の女神像の啓示に従って西からやってきたんだ」
「女神像の啓示?女神様のお言葉のことか?」
男の表情が変わった。
「そうだ。どうやら俺たちが探している最後の1人がこのあたりにいるらしいんだよ」
「わかった。少し待て」
門の上から男の顔が消えると4人は顔を合わせる。
「この島に最後の1人がいるみたいだな」
「ああ、その様だ」
門の前で待っているとギギギという音とともに目の前の大きな鉄の門が後ろに開かれていった。その先には先ほど4人に対応した騎士が立っている。背後には同じ様な騎士が2名立っていた。
「名前を聞いてもよいか?」
大柄な騎士が言った。
「俺はラッセル、女神の啓示を受けて剣術と体術を覚えた戦士だ」
「俺はカイル。同じ様に女神の啓示を受けて攻撃魔法を覚えた魔法使いだ」
「私はレミーナ、隣にいるのが弟のスミス。私は弓術を、彼はナイトよ」
4人の話を聞いて納得した表情になる男。
「私はベンジャミン。領主様に仕えてこの島の守備隊の隊長をしている。中に入ってくれ。島の領主様のところに案内しよう」
「ありがとう」
4人は門を通って島の中に入った。ベンジャミンと名乗った騎士に続いて街の中に入った4人はその街の姿を見てびっくりする。驚いたことに島の中は全く破壊されていない。まるでスタンピードが無かったかの様に綺麗な街が目の前にあった。
「綺麗な街ね」
「全く破壊されていないな」
「それについても領主様から話がある」
「ここは何という街なんだ?」
ラッセルが聞くと、アルバートンという名前で、この島が1つの街になっているのだと言う。
「島の広さは?何人程住んでるんだい?」
今度はカイルが聞いた。
「島は周囲10Km程だ。その中に3,000人程の住民がいる」
島は海に面している周囲は平らになっていて、そこから島の中央に向かって緩やかな傾斜になっていた。平地や斜面に建物が建っており、日当たりの良い斜面には畑や果樹園もある。これを見る限りこの島はスタンピードとは全く無縁の様に見える。
ベンジャミンに続いて4人が緩やかな傾斜に沿って頂上に伸びている道を登っていくと島の頂上にある教会が目に入ってきた。その少し手前にある建物に案内される。
建物の中の会議室の様なところに案内された4人。ベンジャミンは一旦部屋から出て行ったがすぐに女性2人と一緒に戻ってきた。全員が着席すると中央に座った女性が言った。2人とも落ち着いた色のワンピースを着ている。
「初めまして。この島の領主をしていますローズです。こちらは私の補佐をしてくれている妹のマーサ。ベンジャミンは私の父の代から支えている騎士で、この島の安全を見てくれている責任者になります」
領主にしては若い。自分たちよりは年上に見えるがそれでも20代の半ばくらいだろう。誰もがそう感じているとその表情を見たのか彼女が続けて言った。
「元の領主は私の父親だったのですが、1年近く前に病で亡くなりました。その後を私が引き継いでいるのです」
「なるほど」
ラッセルはそう言うと今度は自分たちの自己紹介をする。黙って聞いていたローズ。4人の自己紹介が終わると彼女が言った。
「私は毎朝この島の一番高い場所にある教会にお参りしています。ある時、女神像の前で朝のお参りをしていると頭の中に言葉が流れ込んできました。『明るい4つの光が東からやってくる』と」
目の前の彼女が女神の啓示を受けたのだ。4人が黙って聞いていると彼女が続ける。
「それと同時に今までなかった能力が身についていることがわかりました」
そこで一旦言葉を切ったローズ。
「私が得た力は回復、強化魔法。そして鑑定の能力です」
「「鑑定!」」
「これで揃ったということだな。盾、戦士、狩人、精霊魔法使い、そして回復魔法使い。この5人で黒幕を倒せと言う女神の意思だ」
ラッセルが声を出したが、カイルもその通りだと思っていた。この5人で大陸のどこかにいる黒幕、それが魔獣なのかそれとも別の何かなのかは分からないが、とにかくスタンピードの発生の原因になった元凶を倒せということだ。
それにしてもなぜこの島はスタンピードの被害を受けなかったのだろう。確かに周囲を囲んでいる壁は高い。ただ、何万という魔獣が一斉に襲ってきたらあの鉄の門は持たないのではないか。カイルはそう思ってローズに聞いてみる。
「ところで、なぜこの街というか島はスタンピードの被害を受けていないのですか?」
「それには理由があります。外を見てください」
ローズがそう言って立ち上がったので部屋にいる全員が立ち上がると窓に近づいた。
「なんと!」
ラッセルが声を出した。自分たちがこの島に来た時よりもずっと海面が上昇しており、陸と島とを繋いでいた砂の道が海に沈んでいる。
「この場所は1日に2回海面が上昇して陸と通じている砂の道が海に沈むのです。海面は3メートル近く上昇します。スタンピードが発生した時は数えきれない程の魔獣がこの島にもやってきました。ただしばらくすると海面が上昇し、島の門のところや砂の道にいた魔獣はそのまま海に流されるか、溺れて死んでしまいました」
1日に2回海面が上昇してここの周囲が海になる。自然の要塞だという。確かに6時間毎に道が出てきたり、消えたりすると連続して攻撃を受けることがない。6時間攻撃に耐えれば次の6時間は海の中になって魔獣がいなくなる。その間に修理ができる。そうやって耐えている間にスタンピードが終わって魔獣の姿が消えたそうだ。
「島には水も出ますし、畑や果樹園もあります、反対側では魚も獲れます。自分たちだけで十分に自給自足ができるのです」
生活物資や日用品が外から入ってこなくなった不自由さはあるが、それを我慢すればこの島にいる限り、食べものや飲み物に困らずに生活を送ることができる。まさに自然の要塞という言葉がぴったりだ。
「ただ、スタンピードが終わったのかどうか、確認できなかったのです。確かに島の周りに魔獣の姿は消えました。でも陸の森の中に隠れて潜んでいるのではないか、どこかで隙を窺っているのではないかと考えるとこの島から陸側に出ることができなかったのです。それと女神様のお言葉がありました。私はそれを住民に伝え、この島から出ずにひっそりと暮らし続けていたのです」




