第24話
「俺は見たい。変わった世界をこの目で見てみたい」
皆の目がカイルに向いた。その視線を受け止めたカイルが言葉を続ける。
「俺、いや俺たちか。俺たちは女神様から特別な能力を授かった。この能力を使ってこの世界の黒幕、スタンピードを起こしたであろう張本人をぶっ叩く。そして、そいつを倒した後、この世界がどんなに素晴らしい世界になるのか、自分がやったことの意味を知るためにも変わった世界を見たい」
皆黙って彼の話を聞いている。
「魔獣の肉を食い、何年も歩いて仲間を集め、いく先々で魔獣を倒し、龍までも倒した。能力がないと、そして仲間がいないととてもじゃないが出来ないことを今までやってきた。そしてもうすぐ最後の決戦だ。自分がやってきた、いや、ここまで生き延びてきたのは全てこれからの決戦のためだ。敵を倒すことが出来たら自分はどうなってもいい。なんて思ったら最初から負けている。そんな気がするんだよ。俺は絶対に新しい世界をこの目で見るんだ。その強い気持ちがあって初めて黒幕とまともな勝負になるだろうと思っているんだ」
「黒幕を倒すことがゴールじゃなくて、その後の世界を見届けることがゴールなのね」
そう言ったローズ。カイルは彼女に顔を向けるとその通りと大きく頷きながら言った。
「カイルはこのチームの参謀、精神的支柱だ。今の話を聞いて俺は納得したよ。どうなってもいい、じゃなくて絶対に見るんだという強い気持ちを持ち続けないとな」
ラッセルが言うと他の3人も皆カイルの言う通りだと言った。
「皆で新しい世界を見ようぜ」
「「そうしよう!」」
翌朝、廃墟の街を歩き始めてから3時間が過ぎた頃、街道から右手、山の方に伸びている道があった。それを見て全員が立ち止まると右に伸びている道を見る。道はまっすぐに山の方に伸びていた。しばらくは草原だが、その先は道の左右が森になっていた。ここから見える範囲では登りにはなっておらず平坦な道が先まで続いている。視線を道から上に上げるとずっと先に険しい山々が聳えていた。
「カイルの予想通りに山に行く道があった。この道で間違いないだろう」
「あのずっと先に見えている山まで行くのかな」
レミーナがずっと先に見えている山々を見ながら言った。
「おそらくあの近くまでは行く必要があるだろうな」
「ここからが本番だ。敵が強くなるかもしれない、数も増えるかもしれない。気合いを入れて行こう」
カイルが言った。皆も分かっている。おそらくこの道が黒幕に続く道だろう。そして黒幕、黒い光と言われている場所に行くまでにまだいくつもの困難が待ち受けているということを。
ローズが全員に強化魔法をかけると、ラッセルとスミスを先頭に5人は山に続く道を歩き出した。5人の真上から陽の光が注がれている。歩き始めて30分もすると道の左右が草原から森になった。すぐに右手の森から2体の獣人が近づいてきた。スミスが盾を構え、ラッセルが剣を構える。
「レミーナ、右のから頼む」
カイルが叫ぶとレミーナの矢が右側の獣人の眉間に刺さる。同時にラッセルの片手剣がそいつの首を切り落とした。カイルは叫ぶと同時にスミスの前にいる獣人に精霊魔法を撃つ。1体を倒したラッセルの片手剣が2体目の獣人の首を跳ね飛ばした。
「まだ序の口だぞ」
「ああ、こんなに弱いはずがないからな」
この2体も、龍の心臓を食べる前であればもう少し手こずっていたかもしれない。今は全員の能力が上がっている。それからは30分に1度は2体、3体の魔獣と戦闘になる。今までは1日で数度の戦闘だったのが急に接敵する頻度が上がった。
「間違いないな」
「ああ。これが正解のルートだろう」
たった今3体の魔獣を倒した場所で水分を補給している間に短い会話を交わすラッセルとカイル。他の3人も周囲を警戒しながら短時間で水分を補給する。
「ローズ、野営ができる場所を見つけたら教えてくれるか?」
「分かったわ。でもこの先、安全な野営場所がないかもしれないわよね」
ローズが言ったがカイルは首を左右に振る。
「それはない、必ずあるよ」
と言った。
「どうして?」
「道があるからさ」
「あっ!」
ローズとカイルとのやりとりを聞いていた他のメンバーもなるほどと言った表情になった。道がある、人が住んでいるから道がある。つまりこの先に村か街があるから道があるのだ。
街道は商売人の移動を前提にしている。もちろん一部旅行者もいるだろう。とにかく街道を歩いて移動する人たちの距離に合わせ、朝出発したら夕刻に宿泊できる様に街や村が存在している。人が住んでいない場所もあるが、そういう場所では比較的安全なエリアがあるのが一般的だ。
この法則に従えば山道であっても1日移動したあたりに村か街があり、そこで野営ができるはずだ。
「道が続いている間は大丈夫だと思うんだ。問題は道がなくなってからだよ」
「確かにな」
黒幕がいる場所まで道が続いているということはない。道が無くなってからが本当の試練となる。
その後も街道を歩いている5人の前に魔獣や獣人が襲ってくる。大抵は2体だが、単体の場合もある。単体は強めになっていた。それらを倒して道を進んでいくと道が上りになってきた。陽はすでに傾いている。どこかに村か比較的安全な場所があるはずだと探しながら進んでいると前を歩いているラッセルが声を出した。
「右の森の中にある広場に崩れた柵と数件の小屋があるぞ」
そう言うとラッセルとスミスの二人が街道から少し外れた場所、木々の先に見えている小さな広場に向かった。そこは木の柵に囲まれた場所で村というにはあまりに小屋の数が少ない、4、5軒しかない。大抵の建物は破壊されているが1軒だけ比較的状態が良い小屋があった。
「今日はここで野営だな」
小屋が建っている広場は1メートル程の高さの柵で囲まれているが、ところどころ崩れている。全員で簡単に柵を補強してから小屋の中に入った。家具も何もない床だけの小屋だ。広さはそう大きく無いが、それでも10名くらいなら皆横になって眠れるスペースがある。
「草原にテントを張るよりはずっと安心できる」
ローズがアイテムボックスから食事を取り出し、小屋の中に置いた。交代で食事をし、その間他のメンバーが小屋の外で見張りをする。睡眠も同じだ。
スミスとレミーナが外で見張りをしている間に中で食事をする3人。
「道はまだ登りで先に続いていた。この先に村か街がありそうだな」
「ああ。そこまで行けば教会があるだろう」
ラッセルの言葉にカイルが返す。
「もし女神様が何も言わなかったら、それは私たちが正しい道を歩いていると言うことになるのよね」
「ローズの言う通りだ。俺たちは黒幕に近づいているということになる」
「敵の数が増え、強くなっている。間違い無いぞ、このルートが正解だ。俺はそう思う」
ラッセルが言うとローズとカイルが頷いた。




