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スタンピードの後  作者: 花屋敷


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第22話

 日が暮れるまでにはまだ時間があるので彼らはここで野営をせず、廃墟の村を出ると街道を北に向かう。女神の啓示で試練が始まったと言ったこともあり、今までよりも左右を注意しながら進んでいる5人。歩く速度は落ちているがそれ以上に周囲を警戒することが必要だと全員が理解していた。


「それにしてもレミーナの弓の威力はすごかったな」


 先頭を歩いているラッセルが顔を左右に振って周囲を警戒しながら言った。


「獣人の眉間に一発だもんな」


「私もそうだけど皆もすごかったじゃない。ラッセルの片手剣とあの身体能力、カイルの魔法も以前と全然違うし、ローズの強化魔法だってすごく強かったわよ。スミスもがっちりと受け止めてたしさ、私だけじゃないって」


「そうは言ってもだ。腕はもちろんだけどあの条件で見事に眉間にぶちあてる集中力。大したもんだよ」


 カイルはその時の彼女のメンタルの強さに感心していた。弓を構えてから射るまでの流れがスムーズで一切の迷いがない様に見えた。龍の心臓とはそれほどまでに自分たちを肉体的、精神的に強くするものなのか。


 しばらくその話題で盛りあがり、日が暮れてきた頃、先頭を歩いているカイルが手に持っている片手剣をそちらの方向に突き出した。上がりながら街道を歩いているとカイルが後ろを振り返った。


「あの左手、海岸線の近くの岩のあたりはどうだ?あの岩の裏側なら身を隠せられそうだ」


「いいんじゃない?」


「確かによさそうな場所だ。あそこで野営しよう」


 彼らが移動するとそこは大きな岩の裏側は広くなっていた。上の石が大きく迫り出していて屋根の様になっている。ここなら左右を警戒するだけでいい。ラッセルとカイルが左右をそれぞれ警戒している中、まず3人が先に食事をする。ここでは火は使えないのでアイテムボックスから出来立ての料理を取り出してそれを口に運んでいた。


 今までは廃墟の中では火を使える事が出来たが、これからは周囲を警戒しながらになる。火を使っても外から見えない場所にしないとどこに魔獣がいるか分からない。それにアイテムボックスの中の食糧も無限にあるわけではない。ここから先は今までとは違って厳しい道のりになることを皆理解していた。


 3人の食事が終わると交代でラッセルとカイルが岩の上に置かれている食事に手を伸ばす。


「明日も街道を北上していくがいいか?」


 美味いなと言ってジュースをぐいっと飲んだラッセルがカイルに顔を向けた。


「いいんじゃないか。街があるのは街道沿いだ。村や街があれば片っ端から探索して教会に顔を出す必要があるだろう」


「そうだよな。どこで啓示があるかわからないからな」


 ラッセルとカイルが話をしているのを周囲を警戒しながら3人が聞いている。ラッセルが3人にそれでいいかな?と聞くと全員が問題ないと返事をする。


 どこかで女神が黒幕に近づくためのルートを啓示として言ってくるだろうと信じている5人。それまでは街道に沿って進みながら街や村の跡を訪ねる。


 翌日 岩場を出た5人は周囲を警戒しながら再び街道を北上する。今までの経験から村は1日に1ヶ所あれば良い方で2、3日ない事が普通だ。数体固まっていることはないが、今までと同じ様に、街道を歩くと日に数度魔獣と遭遇する。龍の心臓を食べたこともあり単体ではラッセル1人で倒せる程だ。半端ない身体能力を使ってあっという間に相手を倒す。


「楽できるときは楽させてもらおう」


 今も1人で魔獣の首を刎ねたラッセルを見てカイルが言った。


「任せとけ」


「廃墟に魔獣が固まっていたり、街道では単体だったり。目的地はまだまだ先ってことかな」


 最後尾、カイルと一緒に並んで歩いているローズが言った。


「そうだろう。それにもっと戦闘経験を積まないと、今のままで黒幕とぶつかるのは不安だよ」


「俺もだ」


 カイルが言うとスミスもその後に言う。連携はずっと良くなっているがそれでもまた経験が少なすぎる。龍クラスとは言わないまでも強い敵を相手にしてチーム力をもう数段上げないと厳しいのではないかと皆思っている。


 その日の夕刻、歩いている彼らの前に廃墟が見えてきた。そしてその廃墟の中を動き回っている魔獣の姿も目に入った。


 見つけると、街道から外れた草原でしゃがみ込んだ5人。先頭にいたラッセルが振り返ると4人を見る。


「どうする?」


 その声で今度は全員がカイルを見た。


「何体見えた?」


「2体は見えた」


「私も2体」


「俺もだ」


「俺もそうだ。最低2体、おそらくそれ以上いるのは間違いないよな」


 カイルが言うと皆が頷く。


「正面突破しないか。このまま街道を進んで街を目指す」


「多くいたらやばくないか?」


「10体以上いるかも知れない。でもここでやられるのなら俺たちには黒幕の討伐なんて無理な話だ。黒幕に近づけば近づくほど隠れてコソコソと攻撃できる様な状況じゃなくなると思うんだ」

 

 カイルが言うとラッセルが彼を見たまま言った。


「慣れろということか?」


「慣れる事、それと戦闘技量のアップ。この2つだ」


 多くの敵、困難な状況で勝利するとそれは自信につながる。過信は不要だが、自信は必要じゃないかと思っているカイル。彼が自分の思っていることを言うとラッセルはすぐに賛成した。ただレミーナとローズは思案顔になっている。


「慣れようと言うのは分かる。でもせめて相手の人数くらい知っておいた方が良くない?」


 ローズが言うとレミーナもその方がいいかな。と言っている。カイルは黙って彼女たちの話を聞いていた。話しが終わるとカイルは2人を見る。


「おそらく黒幕は山の中にいる。これは皆共通の認識でいいか?」


 カイルが言うと全員が頷く。


「山の中に入ると連戦になるかもしれない。その時にいちいち相手の人数を数えてから戦闘できると思うか?俺たちを見つけた魔獣が固まって襲ってくるかもしれない。そんな時は相手の人数なんてこっちは予想できない。なので今から慣れておいた方が良いというのが俺の考えだ」


「俺はカイルに賛成する」


 それまで黙っていたスミスが言った。男3人の目がローズとレミーナに向いた。


「作戦はあるの?」


 ローズがカイルに聞いた。


「正面からぶつかる。数が多いがスミスとラッセルでタゲを取る。スミスの挑発とラッセルの片手剣でタゲは取れる。そこからはラッセルが指示する魔獣を順に倒していく。いつも通りのやり方だよ。ポイントはスミスとラッセルがしっかりと魔獣のヘイトを稼ぐまではレミーナも俺も攻撃をしないということだ。俺たちが攻撃するのはラッセルが指示した魔獣だけにすればローズと俺が攻撃を受けるリスクが減る」


「上手くいくかしら」


 まだ心配そうな表情をしているローズ。


「だから慣れるんだよ。でないといつまで経っても少数しか相手にできない。それだと目的地まで辿り着けない気がする」


 しばらくしてからローズが分かったと言った。


「スミス、お前が一番きつい役目だ。頼むぞ」


「任せろ」


 しゃがんでいた5人が起き上がるとローズがスミス、ラッセルに強化魔法をかけた。かけ終わると先頭にスミスとラッセル、次にレミーナ、最後にローズとカイルという並びで街道を廃墟の街に向かって歩き出した。


 街まで後数十メートルになったところで近づいていく自分たちに気がついたのか獣人が塀の向こうから飛び出してきた。熊の魔獣もいる。全部で8体だ。


何も言わなくてもスミスが挑発のスキルを発動してヘイトを取る。レミーナは少し離れた場所に移動するとその場で弓を構えた。ラッセルとスミスを目指して魔獣が突っ込んできた。それをがっちりと受け止めると戦闘開始だ。何も言わなくてもラッセルは熊の魔獣に片手剣を振るう。それを見ていたレミーナが弓を放つと見事に眉間に命中して熊が倒れた。ラッセルが指示を出しながら次々と魔獣に片方剣を振り、それに弓矢と魔法が命中しては敵が倒れていく。結局8体の敵を倒すのに数分しかかからなかった。


「私の心配は杞憂に終わったみたいね」


 戦闘が終わってからローズが言った。


「いや、結果的にはそうだけどさ、俺たちが前のめりになった時にブレーキ役は必要だよ」


「カイルの言う通りだ。俺とカイルだけならイケイケになるからな」


「その通りだ。これからも頼むよ」


 5人は魔獣がいた廃墟に入った。まだ魔獣が隠れているかもしれず、街の中をぐるっと一回りしたが魔獣の気配はない。そこでようやく彼らは廃墟となった街の中にある教会を訪れると無傷に見える女神像の前で跪いて祈りを捧げる。


 女神像は何も語りかけてこなかった。


「今日はここで夜を過ごそうか」


 立ち上がったラッセルが言った。


「何も言ってこないということは私たちは正しい道を進んでいるって事だよね」


 最後に立ち上がったレミーナが言うと、その通りだと答えるカイル。


「つまりしばらくは街道に沿って北上すれば良いということだな」


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