第21話
丘の裏側に隠れた5人が顔を見合わせる。
「よく気がついたな」
そう言ったカイルが顔を上げて丘の先に向けた。
「塀の向こう側で何かが動くのが見えたんだよ」
「あそこにいるのは人間じゃない。獣人ね」
同じ様に前を見ているレミーナが言った。丘の上から顔だけ出して見てみると、廃墟となっている街の崩れた塀の向こう側で大柄な体躯をしている獣人が見えるだけでも5、6体、皆棍棒を手に持ってウロウロと徘徊していた。
再び丘の裏側に隠れた5人。
「廃墟に獣人がいるのは初めてだ」
スミスが言った。
「その通りだ。獣人が廃墟にいるのを見るのも初めてだし、あれだけの数が固まっているのを見るのも初めてだ。これはどう言う事なんだろう。偶然か、それとも何か意味があるのか」
「意味があるって?」
カイルの言葉を聞いていたローズが彼に顔を向けた。
「黒幕に近づいていくにつれて、獣人というか敵が多くなるのかなと思ったんだ」
彼が言うとなるほど、あり得る話だとラッセル。
「それまで単体、せいぜい2体程度だったのが固まっている。これからは固まっている敵を倒しながら進んでいくことになるかもしれない」
そこまで言うとその後をカイルが引き継いだ。
「そして黒幕に近づけば近づくほど固まっている魔獣の数は増え、強くなる可能性もある」
2人の言葉を自分の中で消化している3人。5人揃ってから今までが順調過ぎたと言える。龍を倒したが、それ以外はほとんど戦闘らしい戦闘をせずに進んできた。このまま黒幕まで辿り着いてしまうんじゃないかと言う思いがメンバーの心の隅にあった。
ところが目の前にある光景はその思いとは逆だ。まだ決まった訳ではないが目の前の状況を見ると、黒幕に近づくとそれを守っている護衛として魔獣や獣人が固まっているかもしれないというカイルやラッセルの読みは他の3人にも納得できるものだ。
「それでどうするの?」
ローズが聞いた。レミーナとスミスもラッセルに顔を向けている。
「もちろん倒す、そうだろう?」
ラッセルがそう言うと彼はカイルに顔を向けた。長い移動の間でリーダー格はラッセル、参謀格はカイルと、なんとなく役割ができていた。カイルが頷いた。
「避けようと思えば避けられる。でも奴らを倒せばあの街の教会に顔を出せる。ひょっとしたら啓示があるかもしれない」
「確かに。今までとは違った状況になっている。あの街の教会に顔を出すためにも街の掃除は必要だな」
彼らは一旦丘から離れ、街から離れた安全な場所まで移動すると、そこで野営の準備をすると食事を摂りながら打ち合わせをする。
「明日、日が登る前に廃墟に近づいて中の様子を出来るだけ探ろう。ポイントはあの中に獣人が何体いるかだ。それを確認してから倒す」
周囲を警戒しつつ、食事をしながら具体的な作戦の打ち合わせをする。崩れている塀の外側まで近づいてレミーナの矢、遠隔攻撃で1体ずつ倒して少しでも数を減らす。相手が自分たちを見つけるのは想定内だ、それまでに1体でも多く倒すことだ。
「ここで苦戦する様だとこれから先に進めない。それくらいの気持ちでやろう」
ラッセルが言って打ち合わせが終わった。
翌朝、5人は森の中を通り、大回りをして廃墟の村に近づいていく。途中までは森の木々に隠れて移動していたが、最後の200メートルはこちらの姿を晒したまま近づかなければならい。
「ちょっと待ってくれ、北側から近づけないか見てくる」
ラッセルはそういうと1人で森の中を北方向に進んでいった。他の4人はここで待機する。1時間ほどして戻ってきた。
「北側の方が近づける。向こうに移動しよう」
ラッセルに続いて5人が身体を隠しながら森の中を移動する。30分ほどで廃墟の街の北側に移動した。そこからは森と街の間の平原に小さな起伏があり、身を伏せれば見つかりにくい。
ゆっくり移動して起伏の手前に着くと顔だけ出して街の中の様子を探る。幸いにあちこちの柵が崩れているので街の中を見ることができた。柵まで30メートル。
「目に見える範囲で7体だ」
「レミーナ、どうだい?ここからやれるか?」
「龍の心臓を食べた今なら行けるわ」
丘の上から柵の向こうを見ている彼女がその姿勢のまま言った。
「1体、2体でもいいから倒してくれ。獣人がこっちに気がついたら突撃だ」
ラッセルの言葉に全員が頷いた。
レミーナが弓に矢をかけると立ち上がって弓を射った。その矢は見事に獣人の頭に突き刺さってその場で獣人が倒れる。近くにいた獣人が倒れた獣人に近づいたところで次の矢がその獣人に突き刺さり、そいつも倒れた。
3体目の獣人を倒したところで彼らがこちらに気がついた。
「行くぞ!」
ラッセルの言葉で全員が丘から廃墟に向かって走り出す。塀の向こうから5体の獣人が数体近付いてくるが、その中の1体の眉間の間にレミーナの矢が突き刺さる。残り4体だ。スミスが前に立って敵対心を稼ぐと横からラッセルが片手剣を一閃する、カイルの魔法、レミーナの矢が次々と獣人に命中し、10分程で獣人を8体倒した。
「村の中にまだいるかも知れないぞ」
5人は周囲を警戒しながら村の中を見たが他に魔獣はいなかった。
「強さ的には山にいた魔獣くらいだな」
一回りして戻ってきたところでラッセルが言った。スミスもレミーナも同じ意見だ。カイルも魔法が命中した時の相手の動きをみるとそれくらいの強さかなと思っていたので彼の言葉に頷いている。
「そう強くはなかったよね、でも数が多いから最初は緊張しちゃった」
そう言ったローズ。今までせいぜい2体くらいしか相手にしなかったのがいきなり5体の獣人がこちらに向かってきた時は焦ったが、周りの仲間が普通の対応をしていた。それを見て安心して自分の仕事ができたと言う。
「龍の心臓だ」
ラッセルが言った。その一言で全員がその意味を理解する。
カイルは彼の言葉を聞きながら、もし龍の心臓を食べていなかったらどうなっていたのだろうかと考えていた。7体の魔獣を相手に勝てただろうか?勝てたとしても簡単ではなかっただろう。自分も含めて全員の能力が数段上がっているのは間違いない。それに加えてチームワークというか5人のまとまりも良い。最初は多数の魔獣を相手にするということで心配もあったが、実際に戦闘してみると各自がチームのために自分の仕事をしっかりとこなしたおかげで危なげなく倒すことができた。
この調子で経験を積んでいけばいい。
村の中を調べてもう敵がいないのを確認した5人は教会に足を向けた。ここも教会はあちこち破壊されているが女神像は無傷で立っている。その前に跪くと祈りを捧げる。
『試練が始まりました。厳しい試練を乗り越えた先に光があります』
脳内に女神の啓示が聞こえてきた。
祈りを終えた5人は顔を上げるとお互いを見た。
「いよいよこれからだな」
ラッセルが言った。
「そう言うことになる。女神様も言っている、試練は始まったばかりだと。これからどんどんきつくなるだろう」
「でもやり抜かないとね」
ローズが言うと全員がその通りだと声を出した。




