第17話
翌日、彼らは龍の心臓を食べろと言った女神の意図を理解する。山の中にいた魔獣を倒した後で全員が驚いた。全員の能力が以前よりもずっとアップしていたのだ。
「すごいな」
「こんなに変わるんだ」
「ああ、龍の心臓を食べた結果がこれだよ」
スミスは魔獣の攻撃をまともに受けてもびくともしない。ラッセルは更に身体能力が高くなり、同時に片手剣の威力も増した。レミーナは弓矢の飛距離と威力が大幅にアップ。ローズの強化魔法、回復魔法も以前よりもずっと効果が大きくなった。そしてカイルの精霊魔法もだ。
山の中を移動しながら魔獣を倒し、自分の新しい力を確認した5人。途中で野営をして、山の中の廃墟の街まで戻ってきた。その足で教会に出向くと全員が祈りを捧げる。
女神像は何も言わなかった。
「何も啓示がない。つまり俺たちの進む方向が間違っていないということになるのかな」
祈りが終わるとラッセルが言った。
「俺もそう思う。指示がない以上当初の目的通り進んだらいいんじゃないか?力がついたことが女神様の答えだろう」
しばらくの間、山の中での野営が続いていたので廃墟とはいえ、街の中で夜を過ごすことで皆リラックスしている。何より焚き火が出来るのがありがたい。ずっと火が使えない場所が続き、果実主体の食事を続けてきた彼らは教会の前の広場で焚き火をして魔獣の肉を焼いた。
「久しぶりに肉を食べたけど美味いな」
「そうそう、果実も美味しいんだけど続くとね」
久しぶりに料理らしい料理を食べれたので皆の表情が明るい。
「明日から道を南下して海沿いの街に戻るとそこから西に進む。当初の予定のコースを行こう」
「それで西の端に着いたら今度は北上ね」
「そうなるな。西の端まで行ったらとりあえず北東、東南、西南エリアを見たことになる。残るのは北西エリアというか北エリアだ」
肉を食べ、水を飲みながらの会話だ。もちろん全員が食事をしながらも周囲を警戒している。ここは街の中だから100%安心だとは誰も思っていない。
「ラッセルはスタンピード黒幕が北のどこかにいると思っているんでしょう?」
ローズが聞いてきた。彼女の言葉に頷くラッセル。
「それがカイルと俺の見方だよ。今までみても海岸部よりも山間部の方が魔獣が強い。となると一番強い魔獣は山の奥にいるんじゃないかと思ってるんだ」
ラッセルがそう言ったあとをカイルが引き継いだ。
「女神の啓示の流れから見て、まずはメンバーを集めることだった。それは南東から南西に向かって進みながら徐々にメンバーが増えて最終的に5名になった。メンバーを探す時に北のエリアに行けという啓示はなかった」
そこで一旦言葉を聞いて皆を見ると続ける。
「ラッセルとは2人で移動している時から黒幕がいるとしたら中央部か北だろうと言っていたんだよ。スミスとレミーナと合流したときも、そこから北に行けという啓示はなかった。なので西の端まで行って、そこで北上する。移動している間にどこかの街の女神像から次の啓示が出るだろうと思ってるんだ」
「俺たちが西、そして北に移動している時に、俺たちの試練の場としてまた強い敵が現れるかもしれないな」
「スミスの言う通りだ。あの龍との対戦で強敵との戦闘が終わったとは決まってないよ」
スミスは無口な方だったが、このメンバーと一緒に行動してからは少しずつ自分の意見を言う様になっていた。レミーナに言わせれば元々は人見知りする無口な弟だったらしいが自分が強くなって自信が出てきたから最近は思っていることを言う様になったんじゃないかと言っている。
廃墟の街で夜を過ごした5名は翌朝、街を出ると海沿いの道を西に向かって進みだした。全員の能力が上がったこともあり、途中で出会う魔獣はほぼ瞬殺に近い時間で倒す。果実の実がなっていれば全員で集め、川があれば水を補給する。これから先の状況が全く見えていないので、食料と水は持てるだけ持つ方針だ。
毎日毎日食事が取れるとは限らない事を皆知っている。
街を出て5日目の夕刻、彼らの前に崩れた柵が見えてきた。それは街道の右手にあり、近づくと街というよりは少し大きな村といった方が正しいだろう。今まで訪れてきた街に比べるとずっと小さいが村よりは少し大きい。左手の海岸線に夕陽が映っている。もうすぐ日が暮れる時間帯だ。近づくと周囲を囲っている木の柵はほとんど壊されており、外から村の中がほとんど見えていた。
「酷く荒らされているな」
壊れた柵を乗り越えて村に入るなりラッセルが言った。見る限り1,000人程度の人が住んでいた村の様だ。
「瓦礫を見るとここは宿場町として存在していたみたいだな」
2階建の建物3つ程ある。どれも壊されているがそれでも旅館だった名残が残っていた。
「確かに。民家もあるが旅館っぽい建物跡があるな。今までの村とは違う雰囲気だ」
村の中央部に小さな教会があった。ここも建物は破壊されているが中にある女神像はそのままの姿で残っていた。全員が女神像の前にしゃがみこむと祈りを捧げる。
『急いでいると、見えているものが見えません』
女神の啓示が5人の脳内に聞こえてきた。祈りを終えて立ち上がると全員がお互いに顔を見合わせる。
「どう言う事だ?」
5人は教会の前の階段に腰を下ろした。
「この村は小さいからってすぐに出発してはいけない」
レミーナが言うと私もそう思ったとローズ。
「急ぐという言葉から推測されるのは今2人が言った言葉で合っているだろう。つまりこの村をすぐに出るなということだよな」
そう言ったラッセルがカイルはどう思う?と聞いてきた。
「もちろん前半部分はそうだと思う。後半部分の見えているものが見えません。これはどう言う意味だろう」
「何かを探せと言う事かな?」
スミスが言った。
「俺もそう思ったんだよ。でもこの村、小さいと言っても5人で探すには結構広い。しかも崩れているのが多い。見えている物が見えないということから考えると注意して探したら見つかるということなのかな」
そんな話をしているとラッセルが言った。
「日が暮れた。今日は休んで明日から村の中を探してみるか」
確かに日が暮れてくると村の中を探そうにも探せない。5人は野営の準備をする。残った壁で村の外から火が見えない場所で焚き火をおこした。火が燃えるとそこで車座に座って夕食を食べる。全員が火に向かって座ることでその背後を見る事が出来、奇襲にも備えられる。
「先に言っておくけどさ、私は鑑定スキルはあるけど、遠くの物は鑑定できないから。手に持つくらいまで近づかないと鑑定は無理よ」
食事を始めたところでローズが言った。
「やっぱりか、そりゃそうだよな」
「となると、明日はアイテムを集めてからローズに鑑定してもらおうか」
カイルが言うとローズはもちろん私も探すわよと言っている。
「パッと見た限り4、5軒店屋っぽいのがあった。そこを虱潰しに見てみるか」
ラッセルの言葉で明日からの方針が決まった。




