第16話
「あいつが女神の言う炎ってやつの正体か」
「確かに龍にしたらまだ小さい。でもそれでも5メートル以上はあるぞ」
窪みの影から覗いている5人。彼らの視線の先には灰色をした龍が1体その場で立っていた。体長は5メートル以上。ドラゴンは火を吹くが子供のドラゴンが火を吹くのかどうかは分からない。
5人はゆっくりとその場から一旦退却する。数十メートル下がったところで皆集まった。
「どうするよ?」
ラッセルがカイルを見て聞いてきた。
「考えられる攻撃は?」
カイルが聞き返す。
「あの足と尻尾での攻撃はあるぞ」
「あるな。他には?」
「飛ぶのかしら?」
そう言ったのはレミーナだ。
「どうかな。飛んだら厄介だ」
「火を吹いたらいやだよね」
ローズが言った。
「つまりいやらしい攻撃のオンパレードってことだ。となると逆に正攻法でいいんじゃないか?小細工のしようがないだろう」
ラッセルはそう言うとどうよ?という表情をカイルに向けた。
「俺も今のラッセルの意見に賛成だ。下手な小細工をしてそれが失敗した時にはチームワークが崩れる。今まで倒してきた魔獣と同じ作戦で行こう。相手が龍であれ何であれ俺たちが一番力が出せるやり方をやろう」
カイルはそう言うとスミスに顔を向ける。
「スミス、あいつが火を吹いてきたら盾でなんとか耐えてくれ」
「分かった」
「私もフォローする」
「うん、ローズも頼むぞ」
大まかな打ち合わせは終わった。あとは出たとこ勝負だ。最後にもう一度装備、アイテムの確認をすると5人は立ち上がった。すぐにローズが強化魔法をかける。
「戦闘中も声を掛け合おう。いくぞ」
ラッセルがそう言うとスミスとラッセルが前に立って窪地に降りていく。そのあとにレミーナが続くが彼女は途中で離れていく。強敵を相手に各自が自分のすべきことを実行しようとしていた。
近づくと龍が顔を動かしてこちらを睨みつけてくる。それでも近づいていくと、ドスドスと音を立てて龍が遅いかかってきた。いきなり尻尾を振り回してくるがそれをガッチリと受け止めるスミス。
ラッセルは横に移動すると龍の前足に片手剣を振る。カイルは弱点魔法を探すべく、各種精霊魔法を龍に打ち込んで反応を見ていた。
「水だ、水弱点だ」
魔法を使えるのは自分だけだが、それでも大きな声を出す。カイルは龍の顔を狙って水の精霊魔法を撃った。その頃にはレミーナが龍を挟んでラッセルと反対側の位置から連続して矢を討つ。狙いは龍の顔だ。水魔法と矢が顔に当たると一瞬動きが止まる。その瞬間にラッセルとスミスの片手剣が竜の身体に傷をつける。ローズはしっかりとスミスをフォローし、強化魔法が切れない様にしていた。
戦闘が始まって20分、いやもっと経っているかもしれない。龍は尻尾の振り回しと突進以外してこない。
「スミス!大丈夫か!」
「まだいける」
「頑張れ」
メンバーが声を出し合いながら戦闘を続けていた。カイルは顔に水魔法を撃ち続けているが流石に魔力が減ってきたのを感じていた。ただここで止める訳にはいかない。龍が最初の頃よりも動きが鈍くなっているのが分かっていたからだ。
「だいぶへばって来ているぞ!」
カイルがそう叫んだ直後、突然龍が羽ばたいてその場から浮き上がった。地上から数メートル浮き上がる。ラッセルの剣が届かない。龍は飛翔したまま顔を後ろに反らした。
「何か来るぞ!」
カイルが大声で叫ぶと同時に顔を突き出した龍の口から炎が噴き出た。ターゲットはスミスだ。彼はカイルの声を聞いた時にすぐに盾を前に突き出してその陰に隠れる態勢になった。そこに炎が直撃する。
時間は短いが強烈は炎がスミスに向かって吹かれた。
「大丈夫か?」
「な、なんとか」
炎が止むとすぐにローズから回復魔法が飛ぶ。龍は飛翔して炎を吐くと地面に着地した。再びラッセルが剣を龍の身体に何度も振り下ろす。
「総攻撃だ」
カイルが叫んだ。もう一度飛翔して火を吹かれたらスミスが持つかどうかは分からない。それに火がスミスに吹くとも限らない。彼以外がターゲットになったら終わりだ。
狙い澄ましたレミーナの矢が龍の目に突き刺さった。思わず顔を反らせた龍、首が丸出しになったそのタイミングでカイルの魔法、ラッセルとスミスの片手剣、そしてレミーナの矢の連射。その全てが首に当たると大きな声を上げた龍がその場で倒れて横になった。
まだ戦闘状態を解除せずに見ているとこちらを睨みつけていた竜の目がゆっくりと閉じられた。
「はぁはぁ、勝った、のか?」
スミスが言った
「ああ、俺たちは勝ったぞ」
そう言ったラッセルは今度は大声で叫んだ。
「俺たちは龍に勝ったんだ!」
「「おおおっ」」
全員が勝鬨を上げる。
「それにしても強かったぞ」
「ああ。一人でも手を抜いたらやられていただろう。皆見事だった」
「龍を倒せるなんて」
「本当ね。レミーナ、ナイスよ」
龍の死骸のそばに立ったままで話をする5人。全員の息が荒いことが激しい戦闘を物語っていた。
「この龍はどうするんだ?」
「このまま放置するには惜しいよな」
「でかいぞ。切断するって言っても簡単じゃない」
皆でそんな話をしていると、突然彼らの脳内に言葉が聞こえてきた。
『心臓を焼いて皆で食べるのです』
「おい!」
「嘘でしょ?」
ラッセルとローズが同時に声をだした。
「女神像がないのに」
「どこかで俺たちを見てくださっているんだ」
レミーナとスミスが言った。カイルはずっと黙っているが内心では驚くと同時にあの街で聞いた啓示はこの龍を倒すことで合っていたのだと理解する。
「スミスが言った様に女神様は俺たちを見ているんだ」
「それにしても龍の心臓を食うのか」
ラッセルが言った。心臓を食べろと言われて表情を歪めているがそれは他のメンバーも同じだ。龍を見ていたカイルが言った。
「女神様の言葉だ。ここでやろう。おそらくここは龍のテリトリーだ。しばらく他の魔獣が来ることはないだろう」
「なるほどな。じゃあ俺が取り出す」
ラッセルはそう言うと片手剣で龍の首の下に片手剣の刃を立てた。その間に女性二人が薪をとりだした。カイルが火の魔法でそこに火をつけた。
ラッセルが龍の体の中に手を突っ込んで心臓を取り出した。かなり大きい。薪の上に鉄の板を置いてそこに心臓を置いた。皆黙って鉄板の上で焼けていく龍の心臓を見ている。不思議な事に心臓は火を通すと徐々に小さくなっていった。完全に火が通って焼けた時、心臓の大きさは親指大くらいの大きさになった。
それを今度は木の板の上に置くと短剣で5等分する。果実の粒よりは大きいが飲み込めない大きさではない。
「これを食べたら強くなるんだな」
ラッセルはそう言うが皆食べるのを躊躇している。
「皆で同時に食べよう」
カイルはそう言うと焼けた心臓を1つ摘むと他の4人も手に取った。目を見合わせて一斉にそれを食べた、いや飲み込んだ。
「飲み込んだ瞬間、全身が熱くなった。しばらくすると治ったよ」
「確かに。カッと熱くなったな」
全員の身体が熱くなりそして時間が経つと落ち着いた。
「変化はわかるかい?俺はわからない」
ラッセルが言ったが皆分からないと言う。
「女神様が言っているんだ。必ず効果はある。龍の死体はそのままにしておこう。自然に帰っていくだろう。俺たちは来た道を戻って旅を続けよう」
カイルが言うとその通りだなとラッセルが言った。全員が立ち上がると自分たちが倒した龍をもう一度見てから踵を返し、来た道、山の中を移動する。戦闘が厳しかったこともあり、時間は早いが来る時に夜を過ごした岩がある場所で野営をすることにした。
「それにしてもまだ成長しきっていない龍だったから火の勢いも弱かったのかもな」
「多分そうだろう。成長してたらとてもじゃないが耐えられないだろう」
「それにもっと高く飛んで、あたり一面に火を吹いていたかも」
「そうだったらとてもじゃないが勝ち目は無かったな」
夕食をとりながらさっきの戦闘を思い出して話をしている5人。この時、彼らは自分では気がついていないが、戦闘する前と今とでは全員の雰囲気が変わっていた。




