第15話
「今日は全く魔獣に会わなかったな」
周囲を警戒しながら夕食を食べている時にラッセルが言った。それは皆が気がついていた事で渓谷を渡ってこちら側にきてからまだ彼らは魔獣と遭遇していない。
「嫌な予感がするな」
「どこかに沢山固まってるってこと?」
果実を齧っているローズが言った。山には果実があり、甘い上に水分補給ができる。2日ほど日持ちもするので見つけると皆魔法袋に収納している。今のところ毎日果実の実を見つけているので食料が不足して困ったことにはなっていない。
「それか、普通の魔獣が近寄りたくないほどの強さを持った魔獣がいるか」
「カイルはどっちだと思ってるんだ?」
「強いのがいる方だな。俺は移動しながら啓示の意味を考えていたんだ。女神の啓示が『大きな炎も元は小さな炎です』だ。つまりまだ小さいがいずれ大きくなる。強い魔獣が本当の強さを持つ前の状態。子供とかかな。でもその状態であっても他の魔獣が避けるほどの強さなんだろう。数じゃなくて強い魔獣がまだ成長していない状態とかの方が啓示の解釈としてはすっきりする」
そう言ってからもちろん、俺の解釈が間違っている可能性もあるよというカイル。ただ他の4人はカイルの説明に納得した表情になる。
「遭遇するとしたら明日の午前中じゃないかな。距離がある、つまり強敵から離れると恐怖心が和らぐ、そうなると魔獣が普通に山の中を闊歩できるからな。それが魔獣がいない。つまり俺たちは結構近くまで来ているってことになる」
「だからここで野営しようと言ったのか?」
「いや、それは偶然だよ。大きな石を見つけたからな。でもそう遠くない場所にいそうだとは思って歩いていた」
「強敵って何だろうね」
「分からん」
「今まで見たこともない奴とか」
皆思っていることを口にする。最後に言ったスミスの言葉に頷いたカイル。
「その可能性はあるよな。だから今宵はしっかりと休もう」
この日の見張りはカイルとローズで組んでいる。他の3人は岩の下で寝ている。2人は真っ暗な中で岩の近くに陣取っていた。真っ暗と言っても微かな星あかりがあるので漆黒の闇という訳ではない。視界は10メートル程はあるだろう。その上カイルは気配感知に優れている。魔獣が近づいてくれば目に見える前に気配を感じ取れる。
「カイルには感心しっぱなし。先を読むというか推測する力がすごいわね」
「そうかな。でも孤児院にいた時はこれからどうなるんだろうとか考えた事は全然なかったよ。毎日友達と遊んで、質素だけど美味しいご飯を食べて寝て。の繰り返し。ああ、ちょっとは勉強もしたな」
そう言って笑う。
「元々素質というか才能があったのよ。私なんて父親が領主で小さい時から周りからはチヤホヤされて育って、まともな社会生活を送っていたとはとてもじゃないけど言えないわ」
「でもそうやって自分を冷静に見ることができるってのは才能じゃないのかな。気が付かずにそのまま大きくなっても子供みたいな人もいるだろう?」
他の3人が寝ていることもあり2人は小声で話をしている。
「そうかも知れないけど。でもね、父親が亡くなって後を継いで領主みたいな事もやったけど、たいてい方針は周りの人が決めるの。私は最後に分かりました。と言うだけ。それが普通だと思ってた」
そこで一旦言葉を切ったローズ。しばらくして続けて言う。
「でも自分が特殊な能力を授かったと分かって、女神様の言葉通り待っていたらあなた達がやってきた。それから一緒に動いてみると皆すごいの。すごいって言うのは戦闘能力の事だけじゃなくて考え方がすごいの。自分たちが能力を授かった意味を理解し、それをどうやって生かすか、多くの人たちが亡くなったあとで自分たちが今やるべき事は何か。みんなそれを考えていたの。私はそこまで考えていなかった。他の人たちが来たら一緒に付いて動いて魔法を撃つ事が使命と思っていたから」
カイルは黙ってローズの話を聞いていた。しばらくの間があってから言った。
「女神様が俺たちを選んだ基準なんて女神様以外誰も分からない。でもどう言う理由であれ俺達は選ばれたんだ。となればその期待に応えるしかないよな。そこに難しい理由付けは要らない。俺は、俺を選んでくれた女神様に応えるために頑張る。そう思って毎日生きてる。色々考えるのも黒幕に会うまでは死ぬわけにはいかないと思っているからさ」
ローズは今のカイルの言葉を聞いて何かで頭を殴られた気分だった。いかに自分が甘い考えをしていたのか。ただみんなに付いて行けばいい、自分はサポートに徹すればいい。そう思っていた自分が恥ずかしくなってきた。
ローズが黙っているのでカイルが言った。
「まだ俺たちの旅は始まったばかりだ。これからローズに頼る事もいっぱいある。皆で頑張らないと黒幕は倒せない。その前にこの近くにいるであろう強敵だって倒せないだろう。一人じゃ大した事なんてできなに。この5人が皆力を合わせる必要があるんだ。明日から頼むよ」
「うん、分かった」
ふっきれたローズの言葉を聞いて安心する。
交代で睡眠をとった翌朝、岩の影で5人が果実の朝食を食べている。
「どうせ道がないから縦1列じゃなくて前はスミスとラッセル、その次がレミーナ、最後にローズと俺にしよう。
「すぐに戦闘ができる配置だな」
「その通り」
朝食を終えると最終の装備の確認をする。こちらが準備する間もなく、魔獣と遭遇してなし崩し的に戦闘になることも考えて、スミスとラッセルは武器の確認とポーション類の確認、レミーナはいつでも矢が射てる準備をし、ローズとカイルは杖に瑕疵がないか目視でチェックしていた。
全員の準備が整うとカイルが言う前にローズがスミスとラッセルとレミーナに強化魔法をかける。それを見ていたカイルがサムズアップすると、ローズが同じ様にサムズアップで返してきた。
「行こうか」
ラッセルの言葉で5人は山の中を進み出した。相変わらず魔獣には遭遇しない。ローズは強化魔法が切れるタイミングで掛け直している。
野営をした場所から2時間程山の中を歩いた時、カイルは前方に強い気配を感じた。
「止まって。前に何かいるぞ」
その声で全員がその場で腰を下ろした。
「しゃがんだままゆっくり進もう」
その場から音を立てない様にゆっくりと進んでいくと前方で山が抉れて小さな窪地になっている場所が見えてきた。その中心に今まで彼らが出会ったことがない魔獣がいた。




