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神様ごはん相談所 ~一膳で、神様の悩みをほどく店~  作者: 秋乃 よなが
第二部 神様と分かち合う味

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外伝 小春さんと未来の子


 とある田舎にある古民家を改装した古い小さなお店。暖簾がかかっていないにも関わらず、店内からは賑やかな声が聞こえてきた。


「はーい、左手はネコさんの手だよー」


「こう?」


「うん、上手だね!」


 カウンター席の向こうにある台所で、幼い女の子が母親に手伝ってもらいながら包丁を握る。まな板の上には、ニンジンとタマネギ。二人で一緒に小さめの角切りを作る。


 次にフライパンに油をひいて、切った野菜と鶏肉を炒める。火が通ったら塩コショウ、ケチャップ、バターを入れて全体が馴染むように混ぜ合わせた。


「フライパン、おもーい!」


「ほらほらよそ見しないの。火を使うときはしっかり見てて」


 きゃっきゃっと声を上げて笑う娘を、母親は愛しそうな目で見つめながら優しくたしなめる。あとは温かいごはんを加えて炒めれば、チキンライスの完成だ。


「はい、次は卵を割るよー。上手に割れるかなー?」


「ママ! みててね!」


 女の子は卵を持ってボウルの縁をノック、器用に卵を割り入れる。丸い黄身が二つ分落ちたら、母親が塩を加えて、手早く溶いた。


「上手に割れたね! すごーい!」


「ママのまねだよ! コンコンってして、パカッってするの!」


 ここからは母親の担当だ。フライパンに卵液を広げ、中心部を手早くかき混ぜる。半熟になったところでチキンライスを上に乗せ、手前から卵をそっと巻いた。


「わあ! くるんってなった!」


 フライパンから料理を皿へと移し、女の子がケチャップでハートを描く。少し形が曲がってしまったが、それがまた味があって良いのだ。


「はーい、オムライスの出来上がりー!」


「できあがりー!」


 親子二人で笑いながらカウンター席に座る。『いただきます』と手を合わせて、女の子からオムライスを一口頬張った。


「おいしい!」


 屈託のない満面の笑みが広がる。その笑みは宝物のようにキラキラ輝いていた。


「上手に作れたね! 初めてのオムライス、大成功!」


「やったねー!」


 ぱちんと二人でハイタッチ。料理で少し荒れた手と、ふっくらとした小さな手が重なった。


「大きくなったら、ここでママのおてつだいするの!」


「一緒にお料理を作ってくれるの?」


「そう! いらっしゃいませってね、とびきりの笑顔でおむかえするの!」


 母親は嬉しくなって、娘の頭をそっと撫でる。少し汗ばんだ髪が揺れて、子ども特有のミルクのような香りがした。


「ママも二人で一緒にお料理するの、楽しみにしてるね」


「うん!」


 親子が顔を合わせて笑い合い、またオムライスを一口頬張った。娘の笑顔を見ながら、母親はふと思う。


 この子がもう少し大きくなったら、ひいおじいちゃんの話をしてあげよう。優しいけれど料理には厳しい、自分の師匠だった存在だ。


 そして自分がこのお店を継いだときの話をしよう。まだ右も左も分からなくて、いろんな付き人に支えてもらったこと。神様の話を聞いたときのこと。試練を受けたときのこと。


「あなたが大きくなったらね、ママ、話したいことがたくさんあるんだ」


「なになにー? いまききたーい!」


「ふふっ。今はまだ内緒だよ」


 神様になってライバルができたこと。悔しい思いや嬉しい思いをした日のこと。なるべく鮮明に、たくさんたくさん、話をしよう。


 食後、娘はふいに窓の外の景色を眺めた。爽やかな風が吹き抜け、髪が小さく踊る。


「ねぇママ。このおみせ、ずっとある?」


「うん。ずっとあるよ」


「じゃあね、わたしもずっとおりょうりするの。おばあちゃんになってもね」


 その言葉は、あまりにまっすぐで、母親の胸を締めつけた。自分が積み上げたものを、受け継いでくれる未来が、すでにこの小さな手の中にある。そんな気がしたのだ。


 きっとこの子はこの店を好きになる。かつて子どもだった自分がそうだったように、料理の世界に魅せられてしまう。そんな気がする。


「あのね、ママのごはん、いちばんおいしいよ!」


「ありがとう! ママ、とっても嬉しい!」


「わたしもママみたいになれるかなあ?」


「もちろん。あなたにはひいおじいちゃんから受け継いだ才能があるよ」


「へへっ。やったあ」


 いつかこの子が、誰かの背中を押す料理を作る日が来る。そのときこの場所はまた、小さな神様を一人育てているのだろう。


 『神様ごはん相談所』。母は今日も、小さな未来に祈りを込めて腕を振るう。


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