第五十話 神様と付き人とお花見
桜が咲きそめる頃。風が吹くたび、ふわりと薄紅に色づき始めた枝が揺れ、まるで空気そのものが和らいでいくようだった。
薄紅色に染まり始める、近所の神社の境内。神様も付き人も入り乱れて、賑やかなお花見が行われていた。
「よっ、いいぞー! 舞踏の神!」
社殿の近くでは、舞踏の神様が舞っている。その隣では、勝利の神様と酒の神様が飲み比べをしているようだ。
国づくりの神様の大らかな笑い声が響き、水の神様がコロコロと笑う声が聞こえる。そんな明るい音に包まれながら、小春は花見のお重を突いていた。
「これ、おいしいわね。どうやって味つけしてるの?」
向かいに座る食物の神様が、唐揚げを一口食べて、小春の方を向いた。
「醤油、清酒、しょうが汁とニンニクのすりおろしに漬け込んでます」
「衣は? すごくサクサクなんだけど」
「片栗粉をしっかりまぶしたあと、一時間ほど寝かせてるんですよ」
「ふーん、やるじゃない」
食物の神様とは良いライバル関係を築いている。顔を合わせれば、互いに料理について語り合うこともしばしばあった。
「小春! この桜餅もおいしいわね!」
「このお酒で漬けたピクルスも良いツマミになりますな!」
イノシシとニワトリが鳴きながら笑う。この笑顔に釣られて、小春も笑った。
「こうやって神様と付き人さんたちとお花見できるなんて、思ってもみなかったなぁ」
去年は付き人さんたちが花見を開いてくれた。神様ごはんを作る身だとしても、こうして神様たちと同じ時間を過ごせる日が来るなんて、夢にも思わなかった。
「この唐揚げ、おいしいですね」
健康の神様の声に、小春は回想から引き戻される。
「でしょでしょ? あたしも思わず作り方聞いちゃった」
「食物の神も認めるほどですか。小春、随分と成長しましたね」
健康の神様の言葉がくすぐったい。去年、自分の料理は未完成だと言われ、初心に戻るきっかけをくれたことを思い出す。
あれから、より食べてくれる人のことを想って料理をするようになった。『元気になりますように』。『悩みが解決しますように』。相手への祈りを込めて、作るように心掛けた。
その祈りは金の粒となって料理に宿り、食べた人を笑顔にしてくれた。
「たらマヨおにぎり、おいしいでちゅ」
「おかかもおいしいですね」
ネズミがウサギの好きなおにぎりを、ウサギがネズミの好きなおにぎりを褒め合う。
「……ウィンナーコーン、オイシイ」
睡眠の神は、小春と同じく、ウィンナーコーンおにぎりが気に入ったようだ。
あのお店を継いでから、神様と付き人のために様々な料理を作った。それら一つ一つが実を結び、今こうして縁になっている。
祖父から受け継いだものはとても大きく、見たことのない世界が広がっている。そんな世界にいた祖父を尊敬しながらも、小春は彼を超えたいという願いも持ち始めていた。
(いつかおじいちゃんより料理が上手になるんだ)
料理の神様と言えば森山 小春だと、永い時代を生きる神様や付き人たちに覚えておいてもらいたい。
小春のその願いは、これからさらに彼女の料理を輝かせるスパイスとなる。
「おーい、料理の神! 久一の昔話をしてやろうか?」
「はい! ぜひ!」
国づくりの神様の声に、小春は笑顔で頷く。そうして物怖じすることなく、神様たちの団らんの輪に入っていった。
また一つ、季節が巡っていく。小春の神様ごはんを作る生活も、三度目の春を迎える。
しかし彼女の成長はまだまだ終わらない。神様のために、付き人のため、そして自分のために。彼女は今日もおいしいごはんを作るのである。
『神様ごはん相談所』。店主、森山 小春。彼女は今日も料理のことを考える。誰かが心から安らぐ一時を作りたい。彼女のその優しい願いが、祈りとなって人々を癒します。




