第四十六話 おじいちゃんとお餅料理
とある田舎にある古民家を改装した小さなお店。今日は暖簾のかからないお店で、祖父と孫で店主の森山 小春は顔を突き合わせていた。
「いつもと違う味付けの餅が食べたいのう」
お正月から食べ続けているお餅に飽きてきたのか、ぼそりと久一は呟いた。
「砂糖醤油に、磯部餅。きな粉に、雑煮に、おぜんざい。さすがに飽きてくるよねえ」
神界の新年会で餅つきをしたのだが、国づくりの神様と勝利の神様が、どちらが早くつけるかと勝負を始めた。勝負がつかないまま何度か延長戦へと流れ込み、気づけば大量のお餅が出来上がっていたのだ。
当然、その場にいた神々たちで大量のお餅を持ち帰る。小春だって例外ではない。家族と一生懸命食べていても、まだお餅は減らないのである。
「よし! おじいちゃん、任せて! 今日は甘くないお餅にしよう!」
小春がカウンターの奥から持ってきたのは、お餅と豚肉だった。
「お餅は食べやすい大きさに切って、豚の薄切り肉を巻きつけます」
そして塩コショウを振って、薄力粉をまぶす。次はタレ作りだ。
「みりんとケチャップに、コチュジャンとおろしニンニクを加えてっと」
フライパンに肉巻き餅を入れて、中火で転がしながら焼く。ジュウと肉の焼ける音がして、コチュジャンの香りがふわりと広がった。このとき、豚肉の巻き終わりを下にしてから焼き始めると、肉が解けずに調理できる。
そこに混ぜ合わせたタレをかけて絡めながら焼いていると、お餅が少しゆるんでくる。器に盛り付けて最後に白ごまを振れば、完成だ。
「じゃーん! 韓国風肉巻き餅の出来上がりでーす!」
「辛味のある香りが食欲をそそるのう」
久一と二人並んでカウンター席に座る。そして肉巻き餅を一口頬張れば、中のお餅がみよーんと伸びて、二人で顔を合わせて笑った。
「うむ、よくできておる。豚肉の塩っけと餅がよく合う。まろやかな辛さのコチュジャンも良いのう」
「うん、おいしい! ちょっとトッポギに似てて、おやつ感覚で食べられるね」
お餅に飽きたと言いながらも、二人でぺろっと平らげる。そしていっぱいになったお腹を撫でている小春を横目に、久一は口を開いた。
「また腕が上達したのう、小春」
「え? ほんと?」
「本当だとも。以前は優しい味が目立っていたが、今は力強い味がする。自分の料理に自信が持てているということじゃな」
「……うん、そうかもしれない」
神在月で『おいしい』と言ってもらえなかった悔しさ。食物の神様という良きライバル。神々との出会いを通じて磨いてきた料理の腕。そのどれもが、小春の成長を手助けしてくれた。
「すっかり一人前になったなあ、小春や。昔、包丁を握る手もおぼつかなかった頃が懐かしい」
小春は何も言わず、ただ祖父の目を見た。窓の外の冬の音だけが、静かに店を満たしていた。
嬉しいような、寂しいような、そんな表情を見せる久一。ポンポンと頭を撫でる祖父の手を取って、小春はぎゅっと握った。
「いつまで経っても、私はおじいちゃんの弟子だよ。まだまだおじいちゃんには遠く及ばないもん。もっと料理を教えてよ」
「そうじゃな。可愛い孫の頼みじゃ。わしも頑張らんとなあ」
小春が握った祖父の手はまだまだ大きい。料理人としての偉大さを感じながら、小春はいつか祖父を追い越したいと考えるようになっていた。
「あ、そうだ。ねぇ、おじいちゃん。おじいちゃんが神様だった頃の話を聞かせてよ」
「ふむ。どんな話が聞きたい?」
「仲の良かった神様や、ライバルだったりした神様はいたの?」
「ああ、いたとも。わしが神様だった頃は――」
久一の話の中には、まだ小春が話したことのない神様も登場した。そして祖父の料理帳で見た料理が、どんな思いや願いで当時作られたのかを知っていく。それはおとぎ話のように温かく、小春の心を魅了した。
――その夜、小春は夢の中で、祖父の語った神々の姿を見たのだった。
『神様ごはん相談所』。祖父の優しい思い出も引き継いで、今日も店主は心を込めた料理をお届けします。




