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神様ごはん相談所 ~一膳で、神様の悩みをほどく店~  作者: 秋乃 よなが
第二部 神様と分かち合う味

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第四十三話 イノシシさんと健康の神様と旬の料理


 吐く息が真っ白になった頃。店の外は凍えるような静けさに包まれている。しかし店内では、二人の来客を前に、森山 小春はガチガチに緊張していた。


一人は付き人のイノシシ。硬い表情の小春を見て、苦笑を零している。そしてもう一人は健康の神様。そう、今日は夏祭りの日の約束――すなわち健康の神様の視察が行われる日であった。


「ど、どうぞお座りください」


 二人をカウンター席に案内するの小春の手は、緊張で小刻みに震えている。そんな姿を見ていられず、イノシシはついに声を掛けた。


「小春、息を吸って。そんなガチガチじゃ、おいしい料理なんて作れやしないよ」


「イ、イノシシさん…! 健康の神様に食べていただくかと思うと、手の震えが止まらなくて…!」


「おや? それではまるで私があなたを虐めているようですね、小春」


 健康の神様の一言に、小春の表情は目に見えて青くなった。


「ち、違います! そういう意味じゃなくて…!」


「ふふ、冗談ですよ。少し揶揄いすぎましたね、申し訳ない」


(あるじ)、あまり小春を虐めないでやってくださいな。あの試練の日から、ずっと頑張ってきてるんですから」


 グッグッと鼻を鳴らしながら、イノシシが小春を擁護する。健康の神様は『分かりましたよ』と言うように、微笑んで頷いてみせた。


「いいかい、小春。アンタは間違いなく上達してるんだ。変にビビったりしないで、主にその腕前を見せつけてやりな!」


「……はい! ありがとうございます、イノシシさん!」


 健康の神から出されたお題は『旬の料理』だ。お題を聞いたときから、小春は何を作るか決めていた。


「では……始めます!」


 カウンターの奥から食材を取り出す。盆ざるには、金目鯛とゴボウが乗っていた。


 ゴボウは洗って皮を剥き、適当な長さに切ったら下茹でしておく。次は鍋に酒と水を合わせて火にかけ、煮立ってきたら砂糖、みりん、醤油を入れて数分煮詰める。


 煮汁に金目鯛を入れ、ゴボウ、薄切りにしたショウガを加え、落し蓋をする。


「このとき、強中火で煮汁をかけながら煮るのがポイントです」


 煮汁に少しとろみがついてきたら火を止め、しばらくおいて味を馴染ませれば完成だ。


「料理が冷める工程で味が染み込むので、再度温めてから料理を出すのがおいしさの秘訣です」


 小春は器に金目鯛とゴボウを盛り、それを健康の神様の前に差し出した。取り皿は二人分。イノシシの分もだ。


「ど、どうぞご賞味ください」


「ふむ、醤油の良い香りがしていますね。金目鯛も色鮮やかで、煮崩れしていません」


 まずは香りと見た目から。じっくりと料理を眺める健康の神様の姿を、小春は固唾を吞んで見守る。そうして煮魚に箸を入れれば、ホロリと身が崩れた。


「うん。身の崩れ方も上品ですね。ちょうど良い時間で煮られたのが分かります」


 そして一口。煮魚を口に入れた神様は、その味を堪能するようにゆっくりと咀嚼した。


「歯ごたえも良いですね。味もしっかりしています。ただ少し……ゴボウの臭みが移ってしまったかな?」


 本日初めての指摘に、小春は思わず息を呑んだ。自分ではゴボウの下茹でもしっかりできていたと思っていた。ゆえに少々落ち込むものの、彼女はこんなことではへこたれない。


 『ゴボウは少し堅いですね』と評論を進めながらも、健康の神様の箸は止まらない。ひとまずは口に合っているようで、小春は小さく安堵した。


「主、アタシにも食べさせてくださいな」


「ああ、そうだね。食べてみるといい」


 イノシシも横から箸を伸ばす。煮魚を口へ放り込み、彼女は唸った。


「前もおいしかったけど、今は味に深みがあってもっとおいしいよ! 小春! アンタやるね!」


「ああ…イノシシさぁん…」


 イノシシの純粋な言葉が心から嬉しい。健康の神様の評論で緊張しっぱなしの小春の心が、少し緩んだ瞬間だった。


「――さて、料理への評価ですが」


 煮魚の器がすっかり綺麗になった頃、そっと健康の神様が口を開く。小春は祈るような気持ちで両手を胸の前で組み、神様の言葉を待った。


「上達しましたね、小春。以前よりも味に奥行きが出ています。あなたの祈りもより感じられるようになっていて、食べると身体がほっと温まるようでしたよ」


「……やった!」


 思わぬ誉め言葉に、小春は両手を上げて喜んだ。『しかし』、と健康の神様は続ける。


「誠に神々の舌を満足させるには、まだ修行が足りません。これからも精進し、徳を積んでいくといいでしょう」


「はい! 健康の神様!」


 未熟なところはあるものの、健康の神様に褒められた。それが小春のとって次へと繋がるやる気となった。


「ふふ。小春は素直で良い子ですね」


「そうでしょう? だからあまり虐めないでやってくださいね、あるじ


 健康の神様とイノシシが温かく小春を見守る。こうして小春はまた一歩、料理の神様として成長を遂げたのだった。


 『神様ごはん相談所』。日に日においしくなる店主の料理は、今日も神々の心を、やさしく満たしていきます。


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