第四話 シカさんとアスパラガス
とある田舎にある古民家を改装した小さなお店。三つ編みに割烹着姿の森山 小春は、今日もひっそりと店を営業していた。
「こんにちはあ、小春さん」
琥珀色の狩衣をまとったのんびり口調のシカは、今月も相談に来たようだ。
「こんにちは、シカさん。二ヶ月連続でいらっしゃるなんて珍しいですね?」
「主様ったら、この前のそら豆のスープがとても気に入ったみたいでえ。今度は竜髭菜の旨味を感じたいそうですう」
「アスパラガス! いいですね! 新鮮なものは柔らかくって、焼いただけでもおいしいですよねぇ」
「またお料理お願いできますかあ?」
「もちろんです! お任せください!」
小春はカウンターの奥から盆ざるに乗せたアスパラガスを持ってきた。
「今日のアスパラガスは最高に新鮮ですよー! 穂先がきゅっと締まってて、ずんぐり太くて、瑞々しくて、綺麗な緑色です!」
アスパラガスの下半分の皮を剥き、お湯でさっと湯がいて水気を切る。お好みの野菜――今回はレタスとトマトを一口サイズで用意する。
「そしてアスパラガスといえば相性抜群なのがベーコン! やっぱりベーコンとの組み合わせは外せない!」
油を敷いたフライパンで、ベーコンをカリカリになるまで炒める。油の弾ける音が、小さな台所を彩った。じゅわっと染み出た油を拭き取りながら、香ばしくなるまで炒めるのがポイントだ。
野菜、ベーコンを器に盛りつけ、あとはお好みのドレッシングをかけるだけ。今日は手作りのさっぱりレモンドレッシングをかけて仕上げれば。
「アスパラガスとベーコンのサラダのかんせーい! どうぞご賞味くださいませ」
「わあ! お野菜たくさんですう!」
シカにサラダを差し出す。フォークを持ったシカは、アスパラガスとベーコンを刺して、一緒に口に入れた。
「ふああ! 竜髭菜の甘みとベーコンの塩気がたまらないですう…!」
「そうでしょう! そうでしょう! この組み合わせは間違いないんです!」
「竜髭菜とトマトを一緒に食べるのもいい! 食感が違うから食べていて楽しいですう」
パクパクと食べる手が止まらないシカを見て、小春は満足そうに笑った。耳までパタパタと動かす様子が可愛らしい。
「レシピ、お持ち帰りになりますか?」
「ぜひお願いしますう」
(ふふっ。シカさんはこのサラダが大好きみたい)
いつものようにレシピを書き留める。もちろんおいしいアスパラガスの見分け方を書いておくのも忘れない。
「小春さんも的確なお料理を出してくれますね。もう立派にこのお店の店主ですねえ」
「ふふ、ありがとうございます。これもおじいちゃんの教えのたまものですね」
「そういえばこの前、久一さんをお見かけしましたよお」
「え? おじいちゃんですか? 私の知らない間にお店に来てたのかな…?」
「相変わらずお元気そうで何よりでしたあ」
のんびり会話を楽しむ小春とシカ。そして二人は、レシピと古い銀貨一枚を交換した。
「いつもおいしいお料理をありがとうございますう」
「いえいえ、こちらこそご贔屓にしていただきありがとうございます」
互いに顔を見合わせてクスリと笑う。小春はシカと過ごすのんびりとした時間が好きだった。
「あ、そうだあ。そういえば最近、リュウさんが何かに悩んでいるようでしたよお」
「リュウさんですか?そういえば最近はお見かけしていないような…」
「主様に難題を吹っ掛けられたのかもしれませんねえ。きっとそのうち、ここに来ると思いますう」
『そのときは相談に乗ってあげてください』。そう言い残して、シカはお店をあとにした。
「難題ってどんなのだろう。ドキドキするなあ」
食べものに関して、神様のどんな要望もなるべく叶えよう頑張る付き人たち。そんなときの相談役として、小春はこのお店に立っている。
「どんな相談にも応えられるように、お料理の研究に励まなくっちゃ!」
『神様ごはん相談所』の店主は、今日も料理研究に精を出す。




