表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様ごはん相談所 ~一膳で、神様の悩みをほどく店~  作者: 秋乃 よなが
第一部 神様に届く味へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/54

第二十七話 小春さんとお花見


 古民家を改装した小さなお店。その中で店主の森山 小春は、道明寺粉を浸水していた。


「もうすっかり春だなぁ」


 窓の向こうでは、桜の木が満開だ。ひらひらと舞う桃色の花びらが、風に乗って店の軒先まで届く。一瞬、世界が淡い光に染まった。


 その色に合わせて、浸水している水に食紅を少量溶いて、淡い桃色にした。


「こんなにも桜が満開だと、神界ではお花見とかしてそうだなぁ」


 蒸し器に道明寺粉を乗せて、強火で蒸していく。柔らかくなったらボウルに移し、砂糖を入れて、さっくりと混ぜ合わせる。


「粉の粒感をなくさないように気を付けて、っと」


 ラップの上で蒸した道明寺粉を円形に伸ばし、その上に丸めた練り餡を乗せる。


「包み終わりが下に来るようにして、桜の葉で巻けば――はい、桜餅の出来上がり!」


 器の上には、淡い桃色の桜餅がちょこんと乗っていた。


 ――お昼が近づいてきたが、付き人が現れる気配はない。


「まだ早いけど、先にお昼を食べちゃおうかな」


 小春が自分の昼食の準備に取り掛かろうとした、そのときだった。


「こんにちは、小春さん!」


 ウサギが元気よく扉の向こうから顔を出した。


「ウサギさん! こんにちは!」


「私たちもいますわよ」


「え!? おサルさんに、ニワトリさん!」


「コケッコー。まだまだ外にもいるんですな」


 ニワトリが店の扉を開け放つ。その向こうに見える桜の木の下で、その他の付き人たちが敷物を敷いたりと、何やら準備をしていた。


「こ、これは一体どうしたんですか…!?」


「小春さん、今日はお花見日和ですよ」


「小春さんとお花見をしたくてみんな集まったのよ!」


「いつものお礼で、ささやかながら花見料理を作ったんですな」


「つ、付き人さんたちとお花見…!!」


 かわいい付き人たちとのお花見だなんて、まるで夢のようだ。小春は付き人たちのサプライズに感動しながらも、先ほど作ったばかりの桜餅を持って店先へと出た。


「……こ、こんにちは…」


「ひさしぶりっす!」


「さあ、こちらへ来い、小春よ」


 ウマ、タヌキ、トラが小春に手招きをする。小春は付き人たちに挟まれながら、敷物の上に座った。


 広げられたお弁当には、様々な料理が詰められている。定番の唐揚げから、卵焼き、野菜の肉巻きにタコさんウィンナーまで。おにぎりには、かつて論争を巻き起こした、たらマヨ、おかか、ウィンナーコーンも並んでいる。


「……どうしよう…、すごく嬉しいかも…」


 いつも作る側だった小春が、今日は作られる側でこうしてもてなされている。料理の一つ一つに付き人との思い出がよみがえって、思わず小春は涙ぐんだ。


「こ、小春! 何を泣いておるのだ!?」


 小春の様子に気づいたトラが、その見た目に似合わず、とても慌てた顔をする。


「トラくんの顔が怖かったのでは? 小春さん、大丈夫ですかな?」


 ニワトリがその柔らかい羽先で、そっと小春の目尻を拭う。その柔らかさがくすぐったくて、小春は小さく笑いを零した。


「……こうしてみなさんとお花見できることが嬉しいんです。ありがとうございます、みなさん」


 小春の笑顔に、付き人たちがほっとした顔をする。そして桜茶を用意して、全員が席についた。


「小春さんの店主一周年をお祝いして!」


 ウサギが明るく湯呑を掲げる。


「「乾杯!」」


 そうしてみんなで湯呑を掲げ、舞い散る桜の花びらの中、楽しい宴会が始まった。


(あるじ)様が――」


 付き人たちから聞く神様の話はどれもおもしろく、小春の笑顔は溢れっぱなしだ。神界での不思議なできごとや、久一がまだ若かった頃の話など、話は尽きない。


 付き人たちと笑い合う中、小春はそっと桜の木を見上げて、この一年を振り返った。


(最初のお客さんは、ウサギさんだったな)


 あのときは、誰かの悩みを解く料理なんて、自分にできるのかと不安でいっぱいだった。一人で店を切り盛りすることに緊張していたとき。ウサギの柔らかい態度に、小春は緊張が解けていくのが分かった。


(とにかく、相談に合う料理をちゃんと出すことばかりに集中してたっけな…)


 今では心の余裕ができて、どんな料理なら喜ばれるかを考えることができるようになった。それもこれも、厳しくも丁寧に料理を教えてくれた祖父と、温かく受け入れてくれた付き人たちのおかげだ。


(これからももっと、みんなを笑顔にするような料理を作っていきたい)


 そう決意を秘めた小春の手元に、桜の花びらが舞う。そしてそれは湯呑の中へと落ちて、桜茶の中に溶けた。


「――小春さん、」


 付き人の一人が、小春の名を呼ぶ。顔を上げたその先には、小春が見たいと思っていたみんなの笑顔が広がっていた。


 『神様ごはん相談所』。今日もあなたの笑顔のために、心を込めて料理をします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ