第二十三話 ヘビさんと鶏肉
とある田舎にある古民家を改装した小さなお店。ひっそりと営業している店主、森山 小春は、カウンターで付き人と顔を突き合わせていた。
外は真っ白な雪景色。風の音すら吸い込まれるように静まり返っている。
「もう、寒くて嫌になっちゃう。冬ってなんでくるわけー?」
白花色の狩衣を纏ったヘビは、寒そうにその白い身体を震わせた。一般的には、この季節は冬眠しているはずの生き物だ。かなり寒さに弱いのだろう。
「雪が積もって、ここに来るのも大変でしたよね。どうぞ、温かいお茶です」
それでもこの小春のもとへやってきたのだ。きっと何か大きな相談があるに違いない。小春は緊張を悟られないように笑顔を作りながら、ヘビにお茶を差し出した。
「サンキュー、小春っち。……はぁ、生き返るー」
器用に尻尾で湯呑を持ち上げて、ヘビがお茶を飲む。相変わらず器用だなあと、小春は思った。
「それで今日の相談なんだけど、実はうちの主も寒さに参っちゃっててー。小春っちに何か身体が温まるような料理を作ってほしいわけー」
ヘビが仕えるのは金運の神様だ。神様も寒さに弱いなんてことがあるんだなと思いつつ、小春は何の料理にすべきか思考を巡らせる。
(金運の神様だから、やっぱり金運はイメージした方がいいのかな)
身体が温まる料理ならいくらでも思いつく。でもどうせなら、それに何かアイディアをプラスした料理を提供したい。
「何か食べたい食材などありますか?」
「んー、そうねー。うちの好みだけど、鶏肉が食べたいかな!」
鶏肉を使った身体が温まる料理で、何か金運の神様に繋がるもの。小春を顎に手を当ててしばらく考えたあと、良い料理を思いついたのか笑顔になった。
「すぐ取り掛かりますね。少々お待ちください」
いつものようにカウンターの奥から食材を持ってくる。今日のメイン食材は鶏肉とカブだ。
まずは鶏肉、カブ、タマネギをほど良い大きさに切る。鶏肉には塩コショウで下味をつけ、小麦粉を軽くまぶした。そしてバターを引いたフライパンで鶏肉を皮から焼いていく。
「このとき、焼き色がつかないように両面を軽く焼くのがポイントです」
フライパンにタマネギを加え、さらに小麦粉を振るって、軽く炒める。水とカブ入れて少し煮たら、生クリームと塩コショウを加える。
「このまま煮詰めるように、ときどき混ぜながらカブが柔らかくなれば完成です!」
最後にお好みで塩コショウを振って味を調えて、ヘビの前に料理を差し出した。
「鶏肉とカブのクリーム煮です! どうぞご賞味ください」
「すっごーい! 真っ白な料理だー!」
「ヘビさんの色をイメージして作りました。白いヘビさんは、金運や財運をもたらす存在なんですよね?」
「そうそう! 小春っち、粋なことしてくれるじゃーん!」
早速ヘビがスプーンでスープを一口飲む。
「わっ! 見た目よりもスープが濃厚じゃん! これが生クリームパワーなんだあ!」
カブもスプーンで割れるくらいに柔らかく、鶏肉も火を通し過ぎていないため、ホロホロと崩れていく。
「優しい見た目してんのに、味はしっかりしてて……身体が温まるー!」
パクパクと食べ進めていくヘビを見て、小春は安堵の息を吐いた。どうやら自分のプラスのアイディアは気に入ってもらえたらしい。
ヘビが料理に夢中になっている間に、小春がレシピを書き留めた。調理の工程で、絶対に焼き色をつけないことを注意書きしておく。焼き色がついてしまっては、せっかくの真っ白なクリーム煮が台無しになってしまう。
「小春っち、ごちそうさまぁ。今サイコーに身体がポカポカしてるわー」
「ふふっ。お口に合ったようで何よりです。こちら、レシピを書いておきましたよ」
「サンキュー!」
ヘビはレシピを受け取ると、懐から古い銀貨を一枚取り出した。そして尻尾を使って、それを小春に渡す。
「寒い冬は好きじゃないけどー、こういう温かい料理が食べられるのは良いところよねー」
「そうですね。寒い日だからこそ、余計においしく感じます」
ヘビはカウンター席から降りて、店先へと向かう。小春はその背中を見送った。
雪の積もった道に、ヘビの轍ができる。小春は左右に触れるその線を見ながら、しばらく雪景色を眺めていたのだった。
『神様ごはん相談所』。寒い日には、ぜひ身体と心を温めてにお気軽に来店ください。




