第二十二話 ヒツジさんとサツマイモ
新しい年が始まったある日。とある田舎にあるひっそりとしたお店では、もこもこのお客さんを迎えていた。
「あけましておめでとうございます」
三つ編みに割烹着姿の森山 小春は、深々と頭を下げて新年の挨拶をする。
対して珊瑚色の狩衣を纏ったもこもこ――ヒツジも、毛の埋もれた顔を覗かせて、ぺこりと挨拶を返した。
「あけましておめでとう、小春殿」
可愛らしい見た目に反して、その声は太い。ヒツジはキリッとした目で、小春を見つめた。
「小春殿は今年もおせちを作られたそうだな。我が主は宴に不参加だったゆえ、食べられなかったことが実に惜しい」
「ええ、おじいちゃんと一緒に作ったんです。我ながらよくできてましたよ」
「ふむ。来年はまたご相伴に預かりたいものだ。小春殿の料理はおいしいゆえ」
そう言ってヒツジはカウンターに座る。そして一息ついたところで、今日の相談を切り出した。
「実は、秋に収穫したサツマイモを寝かせていたのだが、そろそろ食べようと思ってな。何か変わり種の料理があればと思い、ここに参った次第なのだ」
「サツマイモで変わり種のレシピですか。なかなか難しいご相談ですね」
「我が主はサツマイモ料理をよく食べている方でな。たまには変わった料理も食べてみたいとおっしゃるのだ」
ヒツジが仕えるのは豊穣の神様だ。豊穣のお礼として、サツマイモを供えられることも多いんだとか。
「びっくりするほど変わり種というわけではありませんが、珍しいレシピなら思いつきました!」
「うむ、よろしく頼む」
カウンターの奥から、サツマイモと鶏ひき肉を盆ざるに乗せて持ってくる。サツマイモは輪切りにして、ラップに包んで電子レンジで加熱する。
「電子レンジだと早く加熱できていいですよ」
ボウルに鶏ひき肉を入れて、みじん切りしたショウガ、塩コショウを加えて練り混ぜる。
「輪切りしたサツマイモで、肉ダネをはさみまーす」
鍋に砂糖、醤油、水、レモン汁を入れ、肉ダネをはさみ、片栗粉をまぶしたサツマイモを煮る。
「このとき、全体にタレが絡むように鍋を揺らしながら煮るといいですよ」
肉ダネに火が通ったら出来上がり。てりっとした甘辛の味付けがたまらない。
「サツマイモのはさみ煮込みの完成です!」
「おお! これは確かに珍しいサツマイモ料理だ!」
料理をカウンターに置く。するとヒツジは大きく息を吸って、まずは料理の香りを楽しんだ。
「醤油の奥にサツマイモの甘い香りがしてて食欲をそそるなあ!」
ヒツジは料理を一口かじる。味わうようにゆっくりと噛みしめながら、何度か頷いて見せた。
「うむうむ。醤油と砂糖の間違いない味付けだ。定番の味のあとに、サツマイモの優しい甘みと、鶏肉の淡泊な肉感が来るのが良い」
『これは酒が進む味だ』と、ヒツジは続ける。見た目によらず、お酒好きなのである。
「これは我が主にも良さそうだ! 小春殿! ぜひ調理法の紙を頼む!」
「はい! 分かりました!」
ヒツジが食べ終わる前に、レシピのメモを書き留める。『サツマイモは皮に色むらがないものがおいしいです』と見分け方のポイントも記しておく。
「小春殿! うまかった!」
綺麗に食べ終えたヒツジが古い銀貨をカウンターの上に置く。それと引き換えに、小春はレシピを手渡した。
「またいつでも来てくださいね」
「うむ! またよろしく頼む!」
満足げに帰っていくヒツジの背中を店先で見送る。
「はぁ。今日はよく冷えるなぁ」
ちょうどそのとき、ちらりと白いものが視界によぎった。
「あ…。雪だ…」
どうやら寒さの本番がやってきたらしい。小春は白い息を吐きながら、温かい店内へと戻って行った。
『神様ごはん相談所』。今年もどうぞよろしくお願いします。




